祝勝会
「出来たヨ。お待ちどうサマ」
「が、頑張りました!」
「久しぶりに料理しましたよ。最近残業が多すぎて作る暇が無かったので……」
なんだかクォンが不憫なことを言っている気がするが、祝い事なので気にしないことにする。
「サ、準備できたしご飯食べようカ」
「ですです! お腹空きました!」
「さっさと食わせるにゃ」
「ちょ、ちょっとマシロちゃん! 師匠! メイゲルさんとミーアトリアちゃんのお誕生日ですよ! めっです!」
「そうですよ。ちゃんと主役は立てないと」
「別に、俺たちの誕生日以前にドラゴン討伐の祝勝会なんだろ?」
「ですがそれ以上に私たちの誕生日です。私たちが優先されるべきです」
「ミーアトリア?」
意外な言葉に思わず顔を見ると、ミーアトリアの肌がつやつやしてた。いや、本当に。
というか、全体的にウキウキしているように見えた。無表情なのは変わらないけど目が輝いていたし、心なしかいつもよりも前項姿勢だった。いや、本当に誤差なんだけどさ。
まあ何であれ、ミーアトリアが積極的に取り組むってことは、少なからず楽しいと感じてくれているわけで。
そのことさえ分かれば、俺は満足だった。
「わ、分かりましたよぉ。ミーアトリアちゃんにはお世話になってるので譲ります」
「おいちょっと待て、俺の方が世話してるはずだ」
「そんなことはいいからさっさと始めるにゃー。最後のお客も、来たみたいにゃー」
「ン? まだ何モ――」
ハトリールの声を遮るように、扉をノックする音が聞こえたの後、扉の開く音が続いた。
ハトリールは驚いたようにイゼを見た。
「ま、当然のことにゃー」
「うム、侮れないネ。私がでるヨ」
イゼの嗅覚と聴覚は本物だからな。獣人は伊達じゃない。
ハトリールがリビングの扉を開くと、玄関に立ち尽くしていた人物の顔が見えた。
予想していた通り、アズリアだった。
「あら、送れたかしら?」
「いや、今から始めるところだヨ。さ、入っテ」
「邪魔するわ」
邪竜教徒の持つ屋敷に聖竜教徒、それも助祭レベルの人間が入って来るなんて前例、果たしてどれだけあるのだろうか。まあ、ずっと仲が悪かったわけではないだろうから、あってもおかしくないけど。
「ってことデ、そろそろ始めようカ。誕生会けん祝勝会ヲ」
「だな。……じゃ、みんな飲み物を持ってくれるか?」
アズリアが席に着くのを待ち、問いかける。
みんな思い思いにグラスを掲げている。準備は良さそうだ。
俺は立ち上がる。
「じゃあ、ドラゴン討伐と、俺の誕生日。そして……ミーアトリア。自分で言ってみたらだろうだ?」
「はい?」
ミーアトリアはグラスを胸半ば程まで持ち上げた格好のまま固まった。
数秒が立ち、静かに周囲を見渡す。笑いかけてくるみんなの表情を見て、ミーアトリアはグラスを置く。立ち上がり、椅子を仕舞う。
姿勢を正し、衣装を整えた。それから、ゆっくりとグラスを持ち上げる。
「私の誕生日を、祝ってくれて、ありがとうございます」
一瞬、微かに微笑んだ。