氷血の世界
どうもシファニーです! なんだか今日はどっと疲れた日でした。
第129部、第3章第37話『氷血の世界』です。どうぞ!
どうして上手くいかないんだろう。これだけ必死にやってるのに、フェーを助けることが出来ないんだろう。
やっぱり、私には力が足りないのかな。
全身が痛い。力が抜けて、まともに立つことも出来ない。
心臓がどくどくとうるさいし、肺は胸を締め付けるように動き続ける。喉が焼けるように熱くて、舌に鉄の味が絡みつく。
どこも怪我なんてしてないはずなのに、私の体は限界を迎えようとしていた。長い槍を振り続けるには、私の体力はあまりに少なすぎた。むしろ、ここまでよく頑張った自分を褒めたくなるほど。
でも、褒めたところで何もない。私はまだ何も成して無い。
結局私は弱虫なんだ。何をすることも出来ない子どもでしかない。
そして私はまた、誰を助けることも……!
「出来ないって、諦めるの?」
「……えっ?」
突然聞こえた声に聞き覚えが無くて、思わず顔を上げる。
そこには、笑顔を浮かべた私がいた。
周囲を見渡すと、先程までいたはずの場所じゃなくなっていた。
石造りの闘技場は消え去り、白く輝く、どこか幻想的な空間の中にいた。
足元は白色の雪のじゅうたんに覆われていて、空はクリスタルのように乱反射して輝いている。見える限りの景色に白色の欠片が散っている。
そこはまるで、終わりのない輝きの世界のようだった。
「違うでしょ?」
「違うって……何が? そもそも、あなたは誰? わた、し?」
「そんなこと、重要じゃないと思うな。今大切なのは、フェーを、リネルたちを助けること。違う?」
「それは……うん。みんなを助けることが一番大事。でも、私には出来ないから……」
雪のじゅうたんを撫でる。さらさらと軽い雪は私の手の動きに従って形を変え、跡を付ける。パラパラと降り積もる白雪が、少しずつその跡を隠していく。
「それって本当? 私でも、みんなを助けることは出来ないの?」
「私でもって、私は……っ!」
顔を上げる。
目と鼻の先に私の顔があって、思わず尻餅をつく。冷たく柔らかい感触が、じんわりと広がる。
「私は誰でも手に入れられるわけじゃない力をもらった。他の人には出来ないことが出来る、幸運の持ち主なんだよ? そんな私に出来ないことが、他の誰に出来るの?」
「そ、それは……ヒセとか、リネルが。ふたりは、私よりも強いでしょ?」
「そう? 私は、そうは思わないけどな」
「そんなわけ……初めて会ったときだって、私は手も足も出なかった」
「だから、私の方が弱いの?」
「そうでしょ? 何が違うって言うの?」
思わず口調は強くなる。攻めるように刺々しくて、喉の奥が痛くなる。吐き出した言葉を飲み込もうとして、代わりに漂う白を飲み込んだ。小さく咳が出た。
「私はやっぱり、そんなことはないと思う。でもね、そんなことはどうだっていいの。私がヒセやリネルより弱くても、関係ない。頼りなくて、情けなかったとしても」
心臓が跳ねる。それはきっと、期待に震えた鐘だ。
すがるように前のめりになって、問う。
「そんな私でも、出来るって言うの? 何が? どうやって? こんな私に出来ることなんて何もないんでしょ! 本当は!」
「ううん、違うよ」
もうひとりの私は首を振る。そして、私を迎え入れるように大きく手を広げて、笑みを浮かべた。
「そんな私だから出来ることがある。そんな私にしか出来ないことがあるんだ」
「私は氷みたいに割れやすいし、雪みたいに解けやすい。そんな私じゃ!」
「そんな私だから、いいんだよ」
「っ」
それは、理不尽な程の肯定。私がどれだけ自分を否定しても、もうひとりの私は意地になって私を肯定する。
「違う! 私に出来ることなんて無い!」
「あるよ」
「ない! あったとして、誰の役にも立たない!」
「役立つに決まってるでしょ?」
「助けることなんて出来ない!」
「私にしか、助けられない命がある」
「嘘!」
「嘘じゃないよ」
「なんで! どうして、そんなことが言えるの! 無責任だよ!」
いつの間にか立ち上がり、痛む胸を抑えつけながら叫んでいた。思いの丈を、全力で凍てつく空気に乗せていた。
喉の奥が冷たくって、過呼吸になって苦しくなって。
痛い痛い痛い。こんなこと、もう止めたい!
「それでも、止めないんでしょ? そう思っても、ずっと自分を否定し続けるんでしょ?」
そう。私は駄目な子。何も出来ない弱虫で、逃げてばっかりの負け犬で。村のみんなが私を逃がしたのも、私が一緒にいたらみんなの決意が揺らぐから。すぐに泣いて、逃げ出しそうな顔になる私を見て、戦いに集中が出来ないからなんだ。
私が戦うなんて、端から間違いだったんだ。
極寒が訪れる。
辺り一帯を吹雪が多い、一寸先も見えない程の暗闇に包まれる。全身や強風に撃たれ、硬く鋭い雪が肌を傷つける。
ぴしゃと音が鳴った時、右の頬が熱を持つ。たらたらと伝うものを拭うことも忘れて、自分の体を抱いた。寒さに震える、小さな体を。
やっぱり私には無理だ。戦うことなんて出来やしない。誰かの間ねなんて以ての外。私は誰にもなれやしない。何者にもなれやしない。何度やってもすぐにくじけて、何度だって諦めるんだ。
何度も何度も、失敗するんだ。
「でも! その度挑戦するんだろ! もう1度前を向けよ! スノア!」
「……えっ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
顔を上げる。
そこに見えたのは大きな背中。私を導く、鋭い光だった。
明日初めて大学に行くんですけど、その時に必要な書類がどこかに行ってしまって。
郵便配達の手違いがあったらしいんですけど、色々あって何とか明日の午前中には間に合いそう。学校へ行くのが午後だったので、何とか一命をとりとめた感じです。
1人暮らし早々、というか入学以前にやらかすのは本当にシャレにならないので一安心です。
それでは!