立ち向かう意思
どうもシファニーです! いよいよ明日引っ越しらしいですよ! 今いる自分の部屋で寝るのも小説を書くのも最後になるかもしれません。
第124部、第3章第33話『立ち向かう意思』です。どうぞ!
フェーは、静かに1歩踏み出した。
全身に纏ったいばらのような氷。白く輝く、生命力の結晶。元々フェーの傷を塞ぐためのものは体表に見えていたのだが、その量は明らかに増え、さらに禍々しくなっている。
まるで、身に纏う鎧のよう。
フェーが、さらに1歩、前に進む。
それと同時、すぐ近くで地面を蹴る音が聞こえる。
驚いてそちらを見ると、ヒセが駆け出すところだった。
「っ、ヒセ! 待て!」
「いける!」
魔剣を抜く。両手で構え、前方へ跳躍すると同時に振るう。
その剣先がフェーの頭上を捉えたかと思われた瞬間、その手前で剣が止まる。
ヒセの動きが一瞬止まる。
それは、俺やスノアも同じ。俺は剣が止められた光景に、スノアはフェーが攻撃された光景に、だが。
「フェー!」
「ヒセ! 離れろ!」
ヒセの剣は、フェーの頭上にあった氷に止められた。それはまるで角のような円錐形の氷。その角が、ヒセの魔剣を受け止めていた。
「かたッ!?」
ヒセの体が吹き飛ばされる。凄まじい威力で壁まで吹き飛び、背中を打ち付けたあと、力なく地面に倒れる。
あまりに一瞬の出来事に、誰もが唖然とした。
「ちょ、ちょっと。前足振っただけじゃない。それで、あんなこと……」
そう。あのヒセが、フェーが軽く前足を振るってだけで吹き飛んだ。まるっきり反応できなかったわけではない。氷に防がれた衝撃で意識が乱れ、視線を向けたときには攻撃されていた。そんな様子だった。
ただ、吹き飛ばされてから受け身を取れた様子はなかったし、実際伸びている。剣の扱いで不利を取るならともかく、体技は十分すぎる実力を持っているはずのヒセが、だ。
「ヒセっ!? クソッ! リィナ、止めるぞ!」
「ええ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
弓を引き、矢を構えた俺の腕をスノアが掴む。
「フェーは悪い子じゃない!」
「そんなこと言ってる場合か! あれはどう見ても興奮状態だ。動作こそ落ち着いてるが……この張りつめた殺気が分からないのか!?」
「確かに怖いけど、でも!」
見れば、スノアの体は震えていた。怖がっているのは本当だ。それでも、戦っては駄目だと言っている。
「戦わないとやられるのはこっちだぞ。殺されるかもしれない」
「だって……だって、フェーは私を守ってくれた! 皆のことも守ろうとしてくれた! だから傷つけたくないの!」
スノアは必死に訴える。俺の腕を強く握りしめて。
「お願い! フェーは、フェーだけは!」
「……」
リィナを探しに行くとき。スノアは狼たちと戦うことを拒んだ。それでも俺たちのことを止めようとはしなかった。
けれどそれは、フェー以外ならどうでもよかったというわけではない。思い悩み、自分を抑えつけた上での苦渋の決断だった。本当は止めたかったのに。許したくなんてなかったのに。
そして、フェーを攻撃しようとしている俺たちを、今度は止めようとしていた。何よりも大切だから。本当に守りたいから。もうこれ以上、妥協は出来ないから。
命よりも大切にしたいと、本気でそう思っているように感じた。まだ若く、戦う力もあまりない小さな少女が、そんなことを願う。そう願えるだけのことを、フェーがスノアに与えていたということ。
俺には、その感覚が分からなかった。
救われる。そんな経験は1度もない。いつだって俺は最前線で戦っていた。最初に死ぬのは、俺だった。あの日以来そうしていた。奪われるのが、怖かったから。
なら、奪われる前に奪う。奪われる前にいなくなる。ずっとそうしてきた。
それは……俺が恐怖していたから。奪われることを。
恐怖。その恐怖から救ってくれる誰か。その誰かが、いたとしたのなら……。
気付けば閉じていた目を開く。まだ目の前には強大な敵が立っている。けれど不思議と、恐怖は薄れていた。いや、なくなっていた。
右手に持つ弓から、じんわりと温もりが広がって来る。
「……ああ、分かった。スノア、安心してくれ」
「ほ、本当? フェーを傷つけない?」
「もちろんだ。けど、戦う」
「ど、どうして!? 傷つけないんでしょ!?」
「傷つけないさ。助けるんだ」
「え?」
スノアが言っているフェーの性格が嘘でないのなら、決してあんな殺意を放つ魔物ではないはずだ。だから今は普通ではない、異常な状態であるだけ。
なら、いつも通りに戻す必要がある。
「フェーは今、何か理由があっていつも通りのフェーじゃないんだ。だからいつも通りにしてやる必要がある。そのために、戦うんだ」
「……なら私も戦う。フェーを助けてあげたい。リネルやリィナ、ヒセも助けたい!」
「ああ、一緒に戦おう。戦って、みんなを助けるんだ」
「うん!」
スノアの目は、硬い意思を宿している。もう揺るがない戦意だ。退かない覚悟だ。
「じゃあ役割分担だ。スノアはヒセの介抱だ。俺はリィナと時間を稼ぐ」
「うん! ……えっ!? 戦うんじゃないの!?」
「ヒセを助けるのだって大事なことだ。それに、ヒセを助けてから戦えばフェーを助けやすくなると思わないか?」
「それは……うん、分かった。行ってくる!」
スノアはすぐに走り出す。たぶんヒセなら大丈夫だろうけど、心配なのは確かだ。
「なに? 小さい子は戦わせられないの?」
「違う。戦うのが得意なやつが戦ったほうがいいだろ?」
「ふーん。どうだか」
リィナは小さく笑みを浮かべる。その笑みは嬉し気で、冗談めいていた。
「私を守ろうとしたのは私が幼かったからかと思ってたわ。ヒセのときだって」
「リィナとは同い年だし、ヒセは年上のはずだ」
「へぇ、ふーん」
「……戦いに集中してくれ。来るぞ」
「そうね。今は見逃してあげるわ」
その笑みは、今度はどこか誇らしげなものに変わっていた。
私は5歳の時に今いる家に引っ越しまして、かれこれ13年間暮らしてきました。小、中、高は今いる家から通いましたし、旅行こそ何度もしましたがそれ以外はずっとこの家で暮らし、ご飯を食べ、寝てきました。
そんな場所を離れるというのに不安が無いのは、私が家を出ることの意味をあまり理解していないからでしょう。きっと大変なこと、辛いことたくさんあるはずです。けど、それを経験し、乗り越えた時にそれは私の小説活動にも活かせるようになると思います。
明日から新天地! 頑張って行こうと思います!
それでは!