スノアの葛藤
どうもシファニーです! いよいよ引っ越しが来週に近づいてきました。いやほんと、心の準備って出来ないもんですね。
第117部、第3章第25話『スノアの葛藤』です。どうぞ!
「なあ、なんか魔力が残ってないか?」
「ん。魔法、使ってる」
「やっぱりリィナがいるのかもしれないな」
隠し扉を抜けて通路を歩くことしばらく。
通路の真ん中に魔力の塊が浮かんでいるのを見つけた。
「風属性魔法の、かなり強い魔力だな。たぶんリィナだ」
「ん。ここにいた」
「目的の人がいたってこと?」
「ああ、そういうことだ」
リィナがきっとこの先にいる。そこまで苦労した感覚は無いが、思い返せば遠回りばかりしていた。
「でも、なんでこんな魔力を残して行ったんだ?」
「目印?」
「迷わないように、ってことか? まあ確かに、これだけの魔力なら数日経っても痕跡が残る。リィナなら目印としては十分すぎるな」
リィナの目と違って、俺の目は精々使ったばかりの魔力を見つけられる程度だ。それこそ今回のように大量の魔力ならまた話は別だが、この魔力だって半日も経てば属性の判別なんかは難しくなるだろう。
速めに見つけ出せることが出来て良かった。この目印は、まだ先の方にも続いているようだから。
「よし、行くぞ。この先にリィナがいるはずだ」
「ん。見つける」
「襲われてないといいけど」
「そうだな。そればっかりは祈るしかない」
リィナはこちらの事情を知らない。食料欲しさに自ら攻撃している可能性すらある。そうなってしまえば割り切るしかないが、そうなる前に停めることが出来れば最善だ。
俺たちは魔力の痕跡を追って通路を進む。俺たちが入って来た道と違い、迷路のように複雑な道になっているらしい。リィナが目印を示してくれないと迷ってしまっていたかもしれない。
「結構複雑なんだな?」
「説明したけど、身を守るための場所だったりもしたから」
「確かにこれなら要塞みたいに使えるかもな……あれ? でも村の人たちは外で戦ったんだろ? この中で戦えば勝てたかもしれないのに」
「この中はフェーと子どもたちの領域だから。あんまり深くまで踏み込まないようにしてたの。それに、この中で死ぬことはよくないこととされてた。フェー達の守護がありながらそれを汚すことになっちゃうから」
「なるほど、そんな考え方があったのか」
俺が住んでいた国にもそう言った汚らわしい、悍ましいと言って避ける、いわゆる宗教観念のようなものは色々とあった。この地域でのそれだったということなのだろう。教会を建ててまでフェーと言う狼を祭っていたほどだしな。
「ん? ……リネル、ちょっと待って」
「ヒセ? どうかしたのか?」
ふいにヒセが足を止める。
俺たちに制止の声をかけ、未知の先の方を鋭く睨んだ。
「この先、魔物がいる」
「魔物? 強そうなのか?」
「分かんない。けど、数が多い。狼かも」
「狼が集まってるってことか? ……もしかしたらリィナがいるかもしれないな」
「ん」
こういう時ヒセの耳と鼻が役に立つ。こんな地下で薄暗く、臭いも籠っていそうな場所でさえ遠くから魔物たちを識別できるのだから。
「ど、どうする? 私、あんまり戦いたくない……」
「あー、そうだな。俺たちも極力戦闘は避けたい。リィナだけを連れてこれるのならそうしたいし……ここで待っててくれるか? 俺たちで連れてこれるか確かめてみる」
いいながっら目配せすれば、ヒセは力強く頷いてくれる。心強いな。
そんな俺たちの姿を見て、スノアは迷うような素振りを見せる。
俺たちに協力したいのが半分、自分たちを守ってくれようとしている狼と戦いたくないのが半分、ってところだろうか。
ここで何か声をかけるのは簡単だが……。
スノアの顔を伺う。視線を彷徨わせている。だがその拳にははっきりと力が籠っていて、決断しようとする意志を感じた。
その華奢な体に込めるには、あまりに強すぎる力だ。
すぐそこにリィナがいる。今すぐにでも助けに行きたいのは山々だ。
でも今や、スノアも仲間のひとりだ。その仲間が大切な決断をしようってときにそれを無下にすることなんて出来やしない。
ヒセも同じ気持ちなのだろう。スノアの決断を、静かに待つ。
それから数時間にも感じる数分が過ぎ、スノアが握っていた拳を力なく解いた。
「その、ごめん。私やっぱり……」
「そうか。いや、大丈夫だ。俺たちだけで何とかする。代わりに、フェーへの言い訳を考えておいてくれないか?」
「……うん、わかった」
スノアはぎこちない笑みを返してきた。
「よし、じゃあヒセ行くぞ。リィナを助けるんだ!」
「ん!」
「ふたりとも、頑張って」
「ああ!」
スノアの声援を受けて、俺たちは通路を走り出した。
未知への挑戦はいつだって怖いものです。それこそ、1度始めてしまえば簡単には戻れないひとり暮らしなんて、改めて考えてみれば不安だらけなのが当然です。それでも何とかなると思ってしまっているのは自信なのか、それとも無知なだけなのか。
結局やってみなければわかりませんが、ただひとつ言えることがあります。
どんな場所に行ったって、私は小説を書き続ける……!
それでは!