雪山の集落
どうもシファニーです! 14年前の3月11日。当時私は4歳でした。幼稚園でお母さんのお迎えを待っていたのを覚えています。
第109話、第3章第17話『雪山の集落』です。どうぞ!
「リネル、まずい」
「何がだ? って……」
どうしたものかと考え続けること10分程。
ヒセが袖を引き、指を差していた。
何に差しているのかと目を向ければ、今まさに目を覚まそうとしている少女だった。
少女は少し体を起こし、静かに目を擦っているところだった。
まだ起きるとは予想していなかったのでまったく対策を考えていない。
一瞬思考が止まる間、少女が完全に目を覚ました。
「あれ、私……」
微睡む焦点がやがて定まり、俺とヒセの姿を捉えようとする。
思わず身構える。また、攻撃してくるかもしれない。
「っ!?」
案の定、少女は瞬時に起き上がってステップを踏み、俺たちから距離を取る。
そしてその手に魔力を集め始める。
だが、何やら様子がおかしい。魔力は集まった端から霧散し、形にならない。少女もそれを不思議に思っているのか右手を見下ろす。
そこに生まれた静寂を掻き消すように、虚しい音が響いた。
それは、腹の音だった。
少女の顔が、気まずげに逸らされる。
「……腹、減ってるのか?」
「だ、だったら何!? そうだよ! お腹空いた! 好きすぎて力が出ないくらいにね! これで満足!? でも、私は死んでもフェーのことを守――」
「これ、食べる?」
「――……は?」
顔を赤くし、声を張った少女の前にヒセが差し出したのは、自身の食料を詰めた鞄。中には残り僅かな干し肉と野イチゴが入っていたはずだ。
少女は一瞬それに気を取られるが、気を取り直すように首を振る。
「ど、毒でも仕込んでるの? そんな見え見えの罠には引っ掛からない!」
「毒なんてない。ほら」
ヒセは野イチゴを手に取って口に含み、わざとらしく租借し、飲み込む。
それから、ほら、と言わんばかりに少女を見つめる。
少女は、慄くように数歩後退る。
それから今度は俺に目線を向けた。
「施しとか、そう言うつもりはない。けど、腹が減って死にそうなら、助けるのが道徳ってものだ。そうじゃないか?」
「……なんの得があるの、私なんて助けて」
「打算なんてない。まあ、強いて言うならまともに話をしてくれるかもしれない、かな?」
まだ警戒するような視線は消えない。けれど、少女の戦闘態勢は解除された。
それを見て一安心しながらヒセに目配せする。
ヒセは頷いて鞄を少女の下へ。近づくヒセに緊張するのを見て取ってか、少し離れた地面に置き、俺のところまで戻って来る。
「ほ、本当に何もない? へ、変な事あったら、容赦しない」
「ああ、その時は叩いてくれても構わない」
「そ、それだけじゃ済まさない、から」
睨め挙げるような視線は健在だ。けれど、本当に限界が近いのだろう。
少女は恐る恐るといった様子で鞄に近づき、手に取った。
それから、最初の一口は小さく。それから徐々にたくさんの量を口に含んでいる。
「あ……ヒセのご飯」
「俺のを分けてやるから、な?」
「ん」
普段あれだけ食欲旺盛なヒセも、今だけは大人しく少女の食事を見守っていた。
野生で生きて来ただけあって、食料や水分の不足がどれだけ怖いかを知っているのかもしれない。
ヒセはいい子だ。
それからしばらく、少女は夢中で食事を続ける。
時たま申し訳なさそうにこちらを見るのは、もしかすると食べ過ぎていないのかと心配しているのかもしれない。
「……な、なに? 食べないほうがいいなら、もう食べないけど」
「いや、言い食べっぷりだなって。よほどお腹が空いていたのか?」
「そ、それは……」
それだけ言うと少女は目を逸らし、食べる手を止めてしまった。
何か気に障ることを言っただろうか。
「……ねえ、フェーを傷つけたりしないんだよね?」
「え? ああ、もちろん。そこの狼のことだろ?」
「そう。フェーは外から来た人間との戦いで傷ついちゃった」
「外から来た人間?」
「私を捕まえて売りさばこうとした山賊」
「捕まえてって……また何で?」
「私たちはここの山の中で生活している民。ここに来たなら外の建物は見たはず。私はあの村の村長の娘。そして私たちの村ではフェー達雪狼を信仰していて山賊たちはフェー達の力を欲しがったの。だから私たちの民族を襲撃した。村のみんなは私だけを遺跡に逃がして村の外で戦った。でも、たぶんもう死んじゃってる。代わりにフェーとその仲間たちが山賊と戦ってくれた。フェーはその時に傷ついたの」
気付けば少女は、本当にたくさんのことを口にしていた。情報量が多すぎて1度では理解できないほど。
けれど何となく事情は察した。
「じゃあ、その山賊は全滅したのか?」
「そう」
「それで何日もここに閉じ込められてたのか」
「日じゃないよ、年。というか数十年は経ってるはず」
「……え?」
数十年って、どういうことだろうか。だってそんな時間食べないでいたら死んでしまうし、そもそも少女がこんな外見なわけがない。
「この中は時間の流れが遅いの。さっきふたりが明けたから、今は外と同じだけど。フェーの力のはずだけど、私はよく知らない」
「それはなんか……凄いな」
時間の流れが違うって。
「じゃあここでは数日、外では数十年ってことか?」
「フェーはそう言ってた。安全になるまで、ここに隠れてたほうがいいって」
色々謎だったことが解明された代わりに、別の謎が生まれているが、ひとまず聞きたかったことは聞けた。
まさか、これ以上驚くことは無いだろうな?
そろそろホワイトデーということで、私の下の兄弟はせっせとお菓子作りに励んでいます。というのも、中学3年生らしく、12日の卒業式を迎えれば学校に登校しなくなるので、明日渡してしまうらしいです。チョコレートの香ばしい香りが漂っていて、私に食わせろと思う一心ではあるのですが、到底許してくれなさそうです。
それでは!