雪山の刺客
どうもシファニーです! 100話目らしいですよ!?
第100部、第3章第8話『雪山の刺客』です。どうぞ!
振り返れば、大きさの違うふたり分の足跡が、何キロにも渡って連なっていた。
入ってすぐは吹雪のせいで極寒の地だと思っていたが、厚着をして、いざ日に照らされれば熱も籠りだす。
それもずっと歩き詰めだ。魔の荒野を歩いて渡った経験があるからこそ何とかなるが、寒かったり暑かったり、環境の変化が激しく過酷な環境だ、ここは。
「ヒセ、大丈夫か?」
「……ん、何とか」
見れば、ヒセは額に汗を流し、少し辛そうに目を細めながらも歩き続けていた。
休憩を何度か挟み、体力の消費も考えて食料も存分に消費しているが、ヒセの限界は近そうだった。ただでさえ雪崩に巻き込まれて瀕死の重体にまで陥っているのだ。その上こんな環境の中何時間も歩かされていれば疲労も貯まるというもの。
「きつかったらいつでも言えよ?」
「言っても、仕方ない、でしょ?」
「それは……まあ、そうかもな」
軽く息を上げながら、ヒセは強く口にする。
この状況で弱音を吐いても何も始まらない。食料を確保するにも、半日ほど経った今となっても何も得られていない。リィナの手掛かりが見つかったわけでもなく……。辛いと言ったからとして、帰るわけにもいかない。
ヒセの言う通り、弱音は吐くだけ無駄なこと。
本当に、幼く見えても肝の据わり方が大人びている。実年齢を18歳超。リィナと同程度の年齢なのは間違いない。
今のリィナもそうだが、見ため以上に、実年齢以上に大人びていないだろうか。正直な話、80年近く生きて来た今の俺よりもずっと硬い覚悟を持っているように見える。
俺は今になっても何度も弱音を吐くというのに、ふたりは迷うことなく進み続けている。
正直、嫉妬してしまいたくなるほどに。
だが今は頼もしい限りだ。どれだけ苦しい状況に追い込まれても、魔剣と共に生き抜いて来たその強い意志で戦い続けてくれるはずだ。それでこそ、真に神器に選ばれた者と言えるのだろう。
それからさらに進み続けること、およそ30分。俺たちは、ようやく生物を見つけることに成功した。
いや、あれを生物と呼んでもいいのだろうか。
俺とヒセは、その得物を高い位置から見下ろし、お互い神器を構えながら唇を強く結んでいた。
「あれ、どうしようか」
「どうしよう……」
それは、大きな体を持つ、岩だった。
そう、岩なのだ。全体的にごつごつとした人型で、全長は5メートルほど。それが、大きく開かれた場所に胡坐をかいて鎮座していた。
動いていないので生きているとは限らない。が、あの造形で生物じゃないのなら逆に不自然だ。誰かが作り出した人工物だとしたら本当に意味が分からないからな。こんな場所にあんなものを作るなんて。
「なあヒセ、あれが何かわかるか?」
「知らない」
「だよな。俺も見たことない」
雪山は未開の地だ。俺やヒセのようにいろいろな場所を旅していたとして、知らない生物がいても不思議はない。
「食えると思うか?」
「無理。岩は、食べ物じゃない」
「そりゃそうだ。……けど、その向こうにあるんだよなぁ」
岩の塊がいる向こう側。平原を抜けてった先に、野イチゴの茂みが広がっていた。それもかなりの量で、動物の肉ほどカロリーは無いが、食料には変わりない。採って集めれば1、2日分の食料にはなるだろう。
それに、糖分も大事だ。ストレス緩和になる。こんな環境じゃあどんな栄養もまともに取れはしない。食べられるものは食べておくべきだ。
「倒す、か?」
「いいよ。ヒセが、叩き潰す」
魔剣を構えたヒセがそう意気込めば戦うしかないだろう。
「じゃあ、行くっ!」
ヒセは高台を飛び出し、一気に斜面を駆け降りた。
右手に握った黒色の剣は怪しく軌跡を描き、やがてヒセの頭上に振り上げられる。
それは、巨大な岩の頭上に振り下ろされた。
その瞬間。
「っ!? 速いっ!」
ヒセの魔剣を受けるように、岩の腕が掲げられた。
その腕は魔剣に砕かれ粉々になったが、岩は健在。突然動き出したことに驚くヒセを横目に立ち上がった。
岩の巨身は、ヒセの目前に立ちはだかる。立ち上がったことにより、その5メートルを超える身長が露に。ヒセの3倍近くある身長を存分に見せびらかすそいつは、左腕を振り上げた。
見たところあの体に弓は効果が無い。
風属性魔法もその丸いフォルムに流されて威力が出ないはずだ。炎なんて以ての外。水もまた半端な魔法では聞かないだろう。かといって威力がありすぎる魔法はヒセを巻き込む。
なら!
「《アース・ボム》ッ!」
足元の土が宙に浮かび、俺の手のひらの前に固まる。
放った弾丸は着弾と同時に爆発。巨身の左腕を吹き飛ばす。
巨身はわずかに揺らぎ、その隙にヒセが持ち直す。
「《ファントム・レイ》ッ!」
振り上げた剣に黒い光が纏う。振り下ろすと同時に落雷にも負けない轟音が鳴り響き、巨身を切断する。体の真ん中から切り分けられた巨身は、半身ずつ、それぞれ左右に音を立てて地面に崩れた。
「ヒセ、無事か!?」
一時はどうなる事かと思ったが、何とか倒すことが出来た。
高台を降り、斜面を滑りながらヒセの下へ向かう。
俺の声を聞いたか振り返ったヒセは、鬱陶しそうに被っていたフードをどけ、灰色の耳を露にした。
「ん、大丈夫。ありがと、リネル」
「いや、間に合ってよかったよ。負担かけて悪かったな」
「ううん、いい。これくらい、似たようなことは何度もあったし」
「それでも、ありがとな」
「……ん」
そう言ったヒセは魔剣を仕舞い、野イチゴの茂みへと歩き出した。
ついにこの作品も100話だそうです! 今まで100話を越えて描いた作品は全部で3作品。これで4作品目です。ただ、この100話を通して毎日更新し続けた作品は初めてです。初投稿が11月22日。それから今日までがちょうど100日で、私としてはよく今日まで頑張った! という気持ちでいっぱいです。もしかしたら昨日の卒業式より達成感を感じているかもしれません。
そんな今作、まだまだ続いていきます。どこまで続くか分からないこの作品、これからも長らくお付き合い願えれば幸いです。
それでは!