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6 二人三脚

二人三脚、リズムに乗ると楽しいけど調子にも乗りがち、転びがち。

 その後の勝負も大盛りあがりで、対戦後の彼らはどういう騎馬が強いか、どんな騎馬でどんな作戦でいくのが勝てるかを真剣に話し合っていた。


 そう言えばさっきの敗者復活戦は本当に死者を復活させるのではないとわかってホッとしていたようだった。まさかこの世界、死者の復活が可能なの?と聞いたがそれはないようで、逆に私がそんなことができるのかと慄いていたことがわかってお互いに笑ってしまった。


 真面目な人たちなんだなと思いながら私はお昼を作りに台所へ行って、今度はサンドイッチを作ることにした。思ったよりも騎馬戦で時間を使ってしまったのでとにかく急いで作ろうと卵をどんどん割り、混ぜ、バターを多めに使って甘めに焼いていく。玉ねぎのスライスを水にさらし、ベーコンを薄く切ってこれも焼く。チーズも挟もう、と思ったところでマヨネーズが無いことに気付いた。


「え、マヨなし?それはない!」


 大学の「家庭科教材研究」で作ったマヨネーズを思い出すが、自信はない。でもマヨなしのサンドイッチというのも、と仕方なくチャレンジする。


 分量は忘れたけど卵黄と塩とお酢を混ぜてそこに油を入れるんだった。オリーブオイルでもできるんだろうか、バルサミコ酢しかないんだけど、と不安だが、とにかくよく混ぜるんだよな…と一応スプーンで計りながら混ぜまくって、できたのは意外とイケるマヨだった。


 マヨネーズのせいで時間がかかってしまい、出来上がる前に戻って来た隊員のみんなは私が必死で混ぜる姿を『ここで酢なんて使ったことないよな〜』とか言いながら面白そうに見ていたが、できあがったサンドイッチをおいしいおいしいと食べてくれた。


 昨日の徒競走で1番になった、いつもアレクさんの近くにいるモーガンさんは最後に残ったマヨネーズをスプーンで掬って食べ、


「エリカ殿、これ、君が作ったソースだよね?この作り方を教えてもらえないか?代金はきちんと払うから」


と言ってきた。アレクさんを見上げると


「こういうものの作り方は店や家ごとに伝わっているから、金はもらっておいたほうがいい。それか、自分だけのものとするかだ」


と教えてくれた。私が彼に


「えーと、モーガンさん、は料理が好きなんですか?」


と聞くと


「うちは実家が町で小さいけど食堂をやっているんだ。だから俺は味覚にはそこそこ自信がある。で、エリカ殿の作るものは文句なしに美味しい。もし良ければ今回の訓練が終わったらうちに来てみてほしい、です」


と答えてくれた。


 それはもしかして仕事につながるのではないか。この世界でずっと生きていかなくてはならないならそれはありがたい話だ。


「それは…」


と言いかけたところでアレクさんが


「モーガン、その話は後にしようか」


と遮った。見れば周りの隊員さんたちが興味津々で私達の話を聞いていた。


「あー…はい」


モーガンさんは苦笑して


「じゃあ、今夜夕食の後でお願いします」


と言った。私も軽くお辞儀をして了承の気持ちを伝えた。


 午後は休憩後に軽く森の中を探索しつつ訓練の予定だったようだが、アレクさんから「運動会」の競技をもっと教えてほしいと言われたのでいくつか候補をあげた。


 中には小学校の運動会ではやらないようなものもあったけれど、中規模の小学校でできる競技なんて限られているので自分が中学校や高校で経験したものも入れてみた。玉入れ、綱引き、二人三脚、大玉送り、大玉運び、台風の目、ムカデ競争、ローハイド、リレーやなんかだ。


 すぐにできそうなものとして午前中に使った包帯でできる二人三脚を説明する。


「身長が近い人同士の方が走りやすいですよ」


と言ったら、それなりにみんなで考えて二人組になった。さすが大人だ。軍人さんだし。


「じゃあ、私達がまず見本を見せますね」


 まずは、とアレクさんと私が脚を結んでみんなの前に立つ。


 みんなは身長差に驚いているのか半分口が開いている。うーん、身長が同じくらいがいいと言ったのにすごい差で申し訳ないが仕方ない。これでも158cmはあるんですよ?皆さんが大きいんですよ?特にアレクさんは背が高い。私のジロっという視線に気付いたのかみんなが顔を逸らした。


 気を取り直して説明を始める。


「呼吸を合わせないと転んでしまいます。どちらの脚からスタートするかを決めましょう。アレクさん、結んだほうからにしますよ。イチ、でこっちを上げます」


 ポンポンとアレクさんの膝を叩くと


「っ!」


と息を呑んだのがわかった。


「す、すみません、馴れ馴れしかったですね…」


「いや、いい、急でちょっと驚いただけだ」


偉い人っぽいのに気さくで良かったと思いながら、


「じゃあいきますよ」


と肩は届かないので腰に手を回すと、アレクさんと見ていた隊員全員が


「あっ!」


と言ったので、ビクッとしてしまった。


「えっ?あの?」


「だ、大丈夫だ!お前たち、説明をよく聞くんだ!」


「は、はいっ!!」


 なんだかわからないけれど続けていいようなので、イチ・ニ・イチ・ニとゆっくり号令をかけながらその場で足踏みをして見せる。うん、できそうだ。


「今度はもう少し速くしましょう。その場で駆け足するように、いいですか?」


アレクさんを見ると、ちょっと困ったようにこちらを見下ろしていた。


「あの…もうやめますか?」


「…いや、いい。その場で駆け足だな?やろう」


「はい…」


 せーの、イッチニーイッチニーと言いながらその場で駆け足のリズムをとった私達は、


「このままちょっと前に進んでみますよ?イッチニーサン、はいっ!」


という私の掛け声で結んだ方の脚を前方に…出せなかった。


「うわっ!」


 アレクさんがその場にとどまっていたので私の脚は後ろに引っ張られ、そのままつんのめった私は地面に倒れる、と思ったがその前にアレクさんに抱きかかえられた。


「だ、大丈夫か?」


慌てるアレクさんに


「す、すみません、なんだかイケる気がしちゃいましたけど、無理でしたね〜」


と謝る。初めてこんなことするんだから無理に決まっていたのに、隊員たちの運動能力の高さに錯覚をおこしてしまった。えへへ、とアレクさんを見るとメッチャ顔が近くて、ヒャッとなる。


「あ、あの…ホントごめんなさい。もう一度やりましょうか」


とドキドキしながら言うと、心配そうな顔のアレクさんは


「いや、危ないから後はヤツらで練習させよう。お前たち、大体わかっただろう?」


「はいっ」


「大丈夫ですっ」


「ヒュー!」


「では各組で練習、合図で集合、勝負だ」


「はいっ!」


 途中でなんか変な音が入ったけれど、隊員の皆さんはそれぞれでイッチニ〜イッチニ〜と掛け声をかけながら練習してみるみる上達し、勝負の直前には「ハイハイハイハイ」って途切れず声をあげながらすごいスピードで走っていた。ほとんど全力疾走って、皆さん優秀なんでしょうね…。


 二人三脚は競争後、今度は身長だけじゃなくて足の速さでも組を作って練習していた。

お読みくださり、どうもありがとうございます!

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