4 異世界と言えばご飯作りですね?
そんなに素敵な献立じゃなくても山の中ならごちそうに見えますよね。
夜になり食事も終わり、アレクさんが寝る場所だと私を1つの部屋に案内してくれた。小さいがベッドも小さい机も椅子もある部屋で、明かりの灯ったランプが置いてあった。
「ここならアイツラと階も違うし、階段の下には見張りがいるから安全だ。まあ良からぬことをするヤツはいないが」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだ。あんなに楽しそうなヤツらを見られて…ありがとう。食事の片付けまで手伝わせてしまったし、疲れただろう」
「全然平気です。私も気が紛れたし…楽しかったです」
アレクさんが私の指示でみんなが動くように力を貸してくれたからできたのだし。
「…そうか、それなら良かった。じゃあゆっくり休んでくれ」
「はい、おやすみなさい」
怒涛の1日が終わり、リュックから運動会で着るつもりだった塚小Tシャツとジャージパンツ、下着を引っ張り出して着替えた私は、ベッドに入って、もう一度涙を流しながら眠った。
次の日。
「夢じゃなかった…」
目が覚めて最初に思ったのはそれだった。仕方ないが受け止めるしかないのか。
ヨロヨロとベッドから抜け出し、リュックからタオルとパーカーを出し、昨日着ていた服を持ってそっと階下に移動した。階段の下に見張りの人がいたのでお辞儀をすると相手もちょっと頭を下げてくれた。
「あの、よければ、洗い物をしたくて」
と言うと、昨日の広場の脇と建物の台所の外の二箇所に飲める井戸があると教えてくれたので台所に向かった。
中に入って奥の勝手口と思われる戸を開けると、すぐ脇に井戸があるのがわかったので、台所に戻って使われていないだろう木の桶を借りることにした。蓋を開けて汲んだ井戸の水は冷たくて気持ちよかった。
泣いたせいで腫れっぼったいだろう顔を洗い、タオルで拭き、服を洗う。洗剤はないので濯ぐだけだがこのままにしておくわけにもいかない。
『運動会の打ち上げの前にシャワー浴びようと思ってたから下着もあってよかった。毎日洗えればいいけど…いや、それよりここで生きていけるかのほうが重要か』
この期に及んでも運動会のこととか服の洗濯のこととかを考えていることに半ば呆れながら、でも本当に今の自分の状況を考えるのは避けたいような気持ちで手を動かした。
洗い終わった服をギュウギュウ絞って、どうしたものかと思ったが、多分このまま外に干しておくのは良くないだろう、と部屋に持って帰って椅子の背や机の端、窓枠に引っ掛けた。夜までに乾いてくれるといいな。お洗濯と洗顔のおかげで少しすっきりした。
その後、階下に再び降りて台所に向かい、桶を戻す。台所は昨日の夕食の片付けのままだった。
昨日洗った木の皿やスプーン、フォークは金属。鍋釜もある。棚にあるジャガイモや卵を見て『前の世界と同じ食べ物だな』と思ったのでさっきの見張りの人に食事の支度をしてもいいか聞きに行った。
彼はちょっと驚いたようだったが、いいと言ってくれたし、ここには今日と明日の午後までいるということ、食材はなくなったら届けてもらえるので多めに使ってもいいということも教えてくれた。そして包丁も使っていいと。良かった、怪しさは軽減されたようだ。
数あるアニメや漫画で見たように、異世界(?)と言えば食事の支度であろう。役立つと思ってもらおう作戦である。昨日の夕食はお世辞にも美味しいとは言えなかったし、どうせ自分の食べる分も必要だし。
人数は、と考え、昨日の徒競走を思い出す。4人組が5セット、アレクさん、私、の22人分を作ることにする。
行儀が悪いがさっき戻した洗濯桶にジャガイモを15個入れて外へ行き、井戸の脇で洗って四つに切ったら鍋に放り込んで茹でる。玉ねぎを5個剥いて厚めの薄切りに。肉っ気が無いのが残念だ。スクランブルエッグに何か入れたいところだけど、と思っていたらアレクさんが来た。
アレクさんは私が台所にいることは知っていたようだけれど、食材をゴソゴソしていることには驚いたのか無理をしないようにと言ってくれた。お礼を言って、ついでに塩漬け肉とか燻製肉とか牛乳とかチーズとか意外にも豊富な食材の在り処を教えてもらってごはん作りを続けた。
1時間ほどでできあがった頃、ドヤドヤと台所に来たみんなは、
「うまそう!」「え?やった!」「くぅ〜!!」
「食べていいの?準備してないのに、こんなの、食べていいの?」
とあれこれ言いながら、食堂にお皿やら食器やらをいそいそと運んでくれた。
茹でジャガイモと燻製肉(普通にベーコンだった)と玉ねぎの炒め物、チーズ入りオムレツ、塩漬け肉とガーリックで味付けしたレタス入り牛乳スープを見た時からだいぶ興奮していた彼らだったが、食べている様子からもお役立ち作戦はまあまあ成功と言えるのではないかと思った。
想像していたよりすぐになくなってしまったがパンがあったので量としては足りただろう。スープはカップに入れたが、他はどれも大皿に載せた。取り分けを嫌がる人はいなかったのでホッとした。
「大変だっただろう、礼を言う。ありがとう」
片付けをしているところに来たアレクさんにお礼を言われたところで、昨日の様子からも多分アレクさんがこの人たちのまとめ役なんだろうなと思った。
昨日助けてもらったお礼を言いたいのはこちらだと言って、良ければ昼と夜も作らせてほしいと伝えると、申し訳無さそうな顔をしてよろしく頼むと手を差し出されたので握り返した。なんかこういうのは対等な感じがして嬉しいものだなと思った。
お読みくださり、どうもありがとうございました。続きもよろしくお願いいたします。