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1 異世界なの?

目にとめていただき、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 今日はいよいよ運動会。今年はオリンピックイヤーなので名称も「頑張れ運動会・塚小オリンピック」なんて特別なものになっている。


 私は教員になって初年度で4年生を担任して、なんとか2学期までやってきた。夏休み前は落ち込むことも多かったけど、元々タフだし負けん気も強いしで、主任からも『頑張っててエライ!』とよくおやつをもらっている。


 9月の終わりから運動会の練習が始まってからは、子どもたちも一生懸命に練習して、学年競技ではグループごとに作戦なんて立てちゃって、昨日の帰りの会ではみんなのリーダーっぽい杉山君が


「みんな、明日は紅組も白組も精一杯がんばろう。エリカ先生にとっては初めての運動会だし、感動で泣かせるくらいかっこいいとこ見せようぜ!」


そんなことを言ってくれて、みんなも


「そーだそーだ!」


「エリカ先生すぐ泣いちゃうしね!」


「俺、家族と賭けようかな」


「バカ、そんなことしたらエリカ先生が困るかもしれないだろ!」


なんて盛り上がって、私はもうそれだけで泣きそうになっちゃったけど、


「言うわね〜。どれくらい感動させてくれるか楽しみにしちゃおうかな〜」


と笑って、さようならの挨拶をしたのだった。




 なのに、なぜか今、私は見知らぬ土地にこうして四つん這いになっている。


 事前準備のためにいつもより1時間早く家を出て、コンビニでおにぎりとサンドイッチとお茶とお水とゼリーとプリンを買って、学校に着いたら急いで食べて先輩方とラインを引かなくちゃ、なんて考えていたのに。土曜日の早朝、駅に向かう道を歩いていて…


「あのドンっていうのは…」


 車にぶつかった、のだろうか。衝撃だけしか覚えていないからなんとも言えない。でも、私はその衝撃のまま倒れて、イテテテと膝をついて顔を上げたらこんな森の中にいたのだった。


 嘘でしょ、と思った。でも駅前につながる小道ではなく森だ。いや、そこまで鬱蒼としているわけではないから林か?どっちだっていいけどとにかく駅には着かなそうだ。


 運動会のラインどうしよう、いや、休むとも言っていないから欠勤?いやいや、そういうんじゃないよね。私どうなったの?学校の荷物は…いやアパートの荷物…親に連絡…いや、そうじゃなくて…ねぇ、私どうなったの?


 どうしていいのかわからなくてそのままでいたら、膝がじんわりしてきたので見ると湿っている。地面が濡れていたんだろう。このままだともっとしみそう、と立ち上がる。コンビニの袋がカサカサいう。良かった、中身もちゃんとある。…ちょっとつぶれちゃったけど。


 と、ガチャガチャという音がしたので振り向いてギョッとした。それは相手も同じで私を見て目を見開いている。ゲームの登場人物のような男の服装…鎧?と手に持っている剣?を見て思わず後ずさる。どうしよう、捕まえられる?と思ったら、その人はハッとしたようで


「ま、待て!何もしない!」


と言って剣を腰の鞘?にしまって両手をあげた。


「…」


 そうは言っても信じていいのかわからなくて、コンビニの袋を胸に抱えてできるだけ強そうな顔をして相手をじっと睨む。弱そうだと思われたらまずいかもしれないし。


 でもそんなことは無駄だった。相手は特に警戒するでもなく首を傾げて『来るか?』とでもというように手を差し伸べてきた。道端の猫じゃないし、と、身体を引き、しばらくそうやって見つめ合っていたがそう長くは続かなかった。


「おーい、どうした?何かあったか?…へ?」


 同じような格好の男たちがガチャガチャドヤドヤと音を立てながら現れたからだ。私は口もきけず彼らを見つめた。


「落ち着いたか?何か食べるか?」


「そんなに薄着で寒くないのか?」


「装備も何もなしでどうやってここまで来たんだ?」


 5分ほど歩いて着いた小屋、というには広場も併設されている立派な建物に通されテーブルにつくと、口々に質問された。


「おい、そんなに急にあれこれ言ったらかわいそうだろ。さっきまであんなに泣いてたんだぞ。なあ、ごめんな、うるさくて。ほら、水だ、水、わかるか?飲むといい」


 最初に出会った黒っぽい茶髪の人が周りを諌め、2つ持ってきたカップのうち1つから中身をごくごくと飲んでみせた。飲めるぞ、と教えてくれているつもりなのだろう。私達のことを周りの人たちは怪訝そうに見ている。


 そう、大勢の大きな男たちが現れて、もうダメだと思った私は先ほど泣いてしまったのだ。泣くなんて絶対にイヤだったけど、涙が流れ出るのはどうにもならなかった。怖かったし。


 でもその人たちはそんな私を見て慌てて慰めてくれたのだ。怖がらなくていい大丈夫だと何度も言って、とりあえず安全な場所に行こうとここへ連れてきてくれた。


 無理やり引っ張ったりすることもなく、私のペースで隣を歩いてくれた。だからついてきた。あのままあそこにいてもどうにもならなかっただろうし、そんなに考えなしな行動ではなかったと思いたい…仕方ないよね?あの状況じゃあ…誰か、そう言ってくれ。


 眼の前に置かれたカップに入っているのは水だと言ったし、この人が飲んで見せてくれたから大丈夫だろうとは思ったが、何となく相手の飲んだカップと私のを交互に見ていると、


「ああ、何か入っていないか心配か?じゃあ」


と空になった自分のカップに私のほうから半分ほど移して、それをまた飲んでニコッと笑った。いい人そう。私は思い切ってカップを持って一口飲むと、冷たさが喉を通った。


「…おいしい」


思わずそう言うと、周りの人たちが


「しゃ、しゃべった!」


と驚いたので、確かに、ここまで一言も話してなかったなと思った。

お読みくださりありがとうございます。続きもよろしくお願いいたします。

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