おみ足よごし
しいな ここみ様主催『純文学ってなんだ? 企画』参加作品です。
なぜ江戸時代?知らんがな。
関ケ原の大戦から、およそ100年の時がながれ、江戸の時代の人々はそれなりに栄えていたといいます。
そんな中、安房野藩の筆頭家老の娘、お志津さまが、
「花見をしたい」
と、のたまわられたのです。
家老の臣下は、領地の桜名所を調べ上げ、一部の領民の助けを得て、この度の花見が開催されることとなりました。
萌える春草が青々と色づき、ほの白い桜の花が日光で色づいてしまうような陽気の中、家臣も領民も無礼講にてやかましゅうやっており、素敵な日和でございます。
領民からすれば、御家老娘お志津さま。桜の花よりも美しいと、やんややんやと褒めたたえ、お近づきになりたいと群れる有様でございます。
しかし、 一人の男が目を光らせております。この男、生真面目一本の田吾作といい、仕事はこなすものの、融通のきかない領民でございました。
「おい田吾作。お前も一緒に楽しめや」
などと言われても。
「いやいや、この辺りものぅ、猿、猪、毒蛇、野犬などおるだに。オラは油断できねぇ」
との一点張りで、周囲を警戒してばかりおりましたら
「あらあら、無礼講のこのような楽しい日に、難しい顔なさって、コチラの気分まで滅入ってしまいますわ」
と、お志津さまにまで苦い顔をされる始末。
「ほれ、一杯くらい飲め」
そう言って、無理矢理酒をすすられ、しぶしぶ盃を開けた途端……
「危ねぇっ」
田吾作は、片手に持っていた造林鎌を振り、鎌の刃は、お志津さまの足元の隣を移動したのです。
「毒蛇で、ございます。失礼」
マムシの頭は切り飛ばされ、切り口からマムシの血がピュっと飛び、こともあろうか、お志津さまの、おみ足を汚したのでした。
「きゃぁ、血。へ、蛇を斬り殺すなどと……なんたる残酷な」
突然のことに、お志津さまは驚き、気を失われたのです。
「無礼者。そこに直れ」
と、お志津さまに御付きの御侍様が、スラリと刀を抜きました。
「違いますだ、オラはマムシを……」
「問答無用ッ」
気を失っている、お志津さまから少し離れたところで、田吾作の頭と体は切り離されました。お侍には酒が回った勢いもあったのでしょう。
「おみ足よごしの無礼者を手打ちにいたした。が、しかし興が醒めた。お志津さまを運ぶぞ。御無礼のないようにな」
そうして、気を失っているお志津さまを輿にのせ、敷物などの片付けを行い、御家老の御一行は帰っていかれたのでした。
転がっていた田吾作の体と頭は、一部始終を見ていた他の領民の手によって、葬られました。
それから一年が経ち、またまたお志津さまが、
「花見をしたい。去年は残念でしたので今年は楽しいものが良いですね」
と、のたまわられたのです。
「ははっ」
前回と同じように、家臣と領民は、無礼講で踊り笑い楽しんでおりましたところ。
「きゃ。あ、足が」
お志津さまの足をマムシが噛んでおりました。
「急げ、医者を呼べ。お志津さまが毒蛇にやられたぞ」
「領民共、気づかなかったのか」
「へぇ……足元のマムシには気づいておりましたけんども、田吾作みたいに首を刎ねられるのはゴメンですだ」
そして、お志津さまは、マムシの毒が回り、三日後に息を引き取られました。
(おしまい)
うーん?芥川龍之介の「クモの糸」っぽく純文学を書いたつもりです。
でもまぁ、日本の会社でよくある風景と思いますけどね~。
田吾作のような人に生き残って欲しいですね。
でもまぁ、だいたい解雇とか退職とかするんですよねぇ(遠い目)