世界の真理
秋学期は絶対に落単もミスもしません
「元々の主は、お前のスキルを把握していなかったのか?」
「さぁ、私にはどうとも。……その視線は何ですか。この見た目に何か文句でも?」
「いや別に。いいんじゃないか」
俺はここで初めて、人化した黒竜……もとい、「彼女」がひどく美しいことを知った。
もし捕まった時にこの姿で居たら、彼女は闘技場よりも酷い扱いを受けていただろうな、と、思えるほどには。
「あまり見ないで下さい。人の姿は嫌いなんです」
「……ふーん。だからか」
「?」
全く、悪運の強い奴だな。
ちょうど闘技場で使われていたこと、俺が履修登録でやらかしたことまで含めて運命じみた何かを感じざるを得ない。
「お前、名前は?」
「……アマル、です」
「いい名前じゃん。じゃあアマル、城の中を見に行こう」
「……はい」
魔王城はレグルスが一人で管理していただけあって、ごく一部の部屋しか使われた痕跡が残っていなかった。
キッチン。
そこそこ広い風呂。
寝室。
アマルと共に色々な部屋や施設を一通り見終わって、俺はあることに気づく。
……トイレは?
衝撃の事実。
この家(城)は、トイレが、ない。
……そもそも、魔王ってウ○チするのか?
トイレがないということは、しないのだろうか?
「ねぇアマル。今、世界の真理に繋がる疑問について考えているんだけど、考えを聞いてもいい?」
「どうぞ」
「魔王ってウ○チすると思う?」
「………………何を言い出すのかと思えば。それが一体どう世界の真理と繋がるんですか」
「この世界は糞。真理だろ?」
「……わぁ」
「やめろ、その微妙な反応」
少しでも同居人と打ち解けようと冗談を飛ばしたつもりが、なんとも言い難い空気になってしまった。
もっとギャグセンスを高めなければ。
「真面目な解答をすると、答えはイエスでありノーです。魔族の中でも特殊な体質を持つ個体だけが、魔力のみを糧として生きていくことができます」
「へぇ。じゃあ、レグルスは後者だったってことか」
あの野郎、可哀想に。
食事の喜びを知らないなんて、人生半分損してるだろ。
「ん? そういや、この扉はまだ見てなかったな」
トイレであることを願いながら、最後の扉を開ける。
「……なんだこれ」
「階段、ですね」
中はかなり暗く、また、どうやらかなり長い階段のようで、続いている先が全く目視できない。
「お化けでもでそうですね」
「階段だけに、怪談ってか」
「……」
「意外だな、幽霊を信じてるのか?」
「いえ、そういうわけではありませんが」
へぇ、そうなのか。
……へぇぇ。
「うわぁ!」
「きゃぁ! ちょっと、びっくりさせないで下さい!」
「ふーん、やっぱり……」
「うるさいですね。苦手なものくらい誰にだってあります」
「もう開き直ってんじゃん……お? ここが終点か?」
階段を降りた先には、また扉があった。
しかも、かなり厳重に魔力で保護されている。
並の攻撃ではまずこの扉を破壊できないだろう。
「……その割に、扉は簡単に開くな。なんでこんなに扉そのものを保護してるんだ?」
更に進んだ先には、広々とした空間が広がっていた。
その空間に一歩足を踏み入れた途端、俺は嫌な予感に全身を貫かれた。
「……今ので何らかの魔法陣が起動したらしい。仮にも元は魔王の城だ。気を抜くなよ」
「無論です」
魔法なら魔力結界で防ぐ。
水攻めなら即座に天井をぶち抜く。
魔物の転移陣なら、サンドバッグにして終わりだ。
……さて、何が来る?
身構えていると、突然目の前が明るくなる。
(くそ、してやられた。光魔法で視界を奪うのが目的かよ!)
一瞬だけ焦ったが、俺は魔力を感知する力に長けている。
視界が塞がれたところで、魔法での奇襲ならまるで問題ない。
……そう、魔法なら。
例えばこの一瞬で天井が崩落してきたら、防壁が間に合わずに潰されてしまっていた可能性はある。
しかし、今回の魔法陣はどうやらそこまで殺傷能力があるものではなかったらしい。
「……本当に照らしただけかよ。ビビらせやがって」
「壁の至る所に凹みがありますね。しかも、一面にかなり強力な防壁が張り巡らされています」
「……あー。なるほど、レグルスの野郎はここで魔法の鍛錬を積んでいたってわけだ。確かに、あの野郎が地上で魔法を放ったら、勇者を筆頭に色んな奴らが放っておかないだろうしな」
「この壁に凹みをつける威力ですか……寒気がします」
「まぁ、威力だけは確かに凄かったな。威力だけは」
当たらなければなんとやら、だ。
「そういや、竜の中では落ちこぼれとか言ってたな。その理由は戦闘力の低さなのか?」
「いいえ、竜種の最大の攻撃手段であるブレスが覚束ないことを除けば、私は何一つ里の竜達に負けていないと思います。ブレスさえ……」
「ブレスさえ撃てれば強くなる、と?」
「純粋な戦闘能力では他の竜達に遅れをとっているとは思っていませんので。……里を追放されたのも、ブレスを吐けないから、というただそれだけの理由でしたから」
「お前のいう『純粋な戦闘能力』ってのは何だ? ブレスを差し引いた戦闘能力のことを言ってんのか?」
「それは……体術とか、飛行術とか……」
「温い。全てひっくるめて実力だよ。まずは諦めて現状を受け入れろ。ブレスの他で全て勝っていようが、ブレスで負けてる時点でお前は弱い。……まぁ、同居人のよしみだ。強くなりたいという意志があるなら、稽古を付けてやらんこともない」
「……信じていいんですか?」
「これでも在学中は副業の魔法塾で最優秀講師に選出されてんだ。……卒業前に先走って辞めてなければ、今もここに俺の椅子はあったかもしれないのにな。は、はは、は……」
「……本当に信じていいんですか?」
「うるせぇな自分で決めろ! いちいち人の傷口に踏み込んできやがって!」
「いや、自滅したじゃないですか」
「何でお前が正しいんだ! 正しいコンギョを言え!」
「……………………はぁ。よろしくお願いします、師匠」
成り行きで、弟子ができた。
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↑たまにここを不定形文にするのもアリかなって思ってます。気が向いたら。