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固有スキル

急に寒いですね。許せません(二度目)

私は急な冷え込みで体調を崩しかけました。


まだ挑戦者はおろか黒竜すら入場していないのにも関わらず、コロシアムは熱気に満ちていた。

……反対に、待機室の空気は重い。

皆も俺と同様に本気で黒竜を倒すつもりで来ていると思っていたが、どうにもそんな気概が感じられない。



「……お前、怖くないのか?」



そう話しかけてきたのは、確か俺の次に黒竜と戦う男だ。

ちなみに、俺は本日最初の挑戦者らしい。

このイベントはある種レイドバトルのようなもの。

本来なら他の挑戦者が弱らせた後で戦うことができる後の方の挑戦者が有利なのだが、俺にとっては好都合だ。

……それにしても、なぜ、こんなに弱い人間がエントリーしているのだろう?

目の前の男は、はっきり言ってそこらの量産型冒険者と変わらない実力に見える。



「怖くないのか、って……いや、そりゃねぇ。戦う前から怯えてる奴が勝てるわけないだろ」



「勝てるって……まさか本気で黒竜に勝つつもりでいるのか?」



「それ以外何があるんだよ。お前は違うのか?」



というか、勝つし。

あれを貰うつもりだし。



「……僕はとにかく一撃目で大袈裟に吹っ飛ばされて、致命傷を避けるつもりだ。それで黒竜が僕に興味を失ってくれれば、なんとか命だけは助かるかもしれないからな」



(ん?よく見りゃこいつ、奴隷紋があるな。……あいつも、あいつもだ。なんだ? ほぼ全員か?)



彼の腕に焼きついた紋様を見て、俺はこの重い空気の原因を悟った。

彼らは主催者の奴隷であるが故に、人数合わせ、あるいは大会の時間を引き延ばすために強制的にエントリーさせられたのだろう。

なるほど、本気で黒竜を打ち倒そうとしている人間は、俺を含め最初からごく少数しかいなかったのか。



『さぁ本日も「死合」の時間がやってきたぞ! 生き残るのはどちらか一方のみ! 今日こそ最強の門番・黒竜を打ち倒す者は現れるのか!』



「「うおおおおおおおお!!!」」



地鳴りのような歓声と共に、反対側の控え室から黒竜が姿を現す。

……見るからに弱っている。

ウロコはところどころ剥がれているし、心なしか羽も垂れ下がっている。

連日「死合」に引っ張りだこになっていたのだろうか?

いずれにせよ、これなら俺の敵ではない。



「おいお前、震えてんぞ」



「なっ……悪いかよ! これから死ぬかもしれないんだぞ!」



「あー、お前の実力じゃ、致命傷を外すことすら叶わないだろうな。でもまぁ、俺が先で良かったじゃんか」



「……期待はしないぞ」



「あぁ、勝手にしろよ。別にお前のために戦うわけじゃないしな」

 


『最初の挑戦者は……この男だァ! エントリーNo.1、謎の男ベリル!』



「「「うおおおおおおおお!!!」」」



ちなみにベリルとは俺のことだ。

実名で戦って学園の同期に嗅ぎつけられても面倒だからな。



『さぁベリル選手、意気込みを!』



「ん? なんだこれ。……あー、音を魔力で増幅してるのか。面白い。あー、あー、聞こえるか、皆の衆。今まで履修登録以外で大きなミスをやらかしたことがないこの俺が、完璧な戦闘を見せてやるよ」



「一番ダメなところでやらかしてんじゃねーか!」



「よっ、落単!」



「ギャハハ、面白いぞベリル!」



「少しだけ期待してやるよ!」



おい、2番目に野次飛ばした男。

お前も黒竜と一緒にタコ殴りにしてやろうか。



『さぁ、たった今、戦いの火蓋は切られた! 両者、存分に殺し合え!』



(さて、と)



黒竜は動く素振りを見せない。

……戦闘において、俺は自分から仕掛けるのが嫌いだ。

相手の勢いを利用してカウンターを決めた方が、遥かに効率的に敵を処理できるし、自分が疲れない。

なにより、「相手から仕掛けてきた」という口実ができるため、遠慮なく全力が出せるからだ。

が、今回は相手が来ないのだから仕方ない。



「【炎球(ファイアーボール)】」



「……グォォォォ!」



黒竜は羽を羽ばたかせ、風圧で炎を霧散させる。

そしてすかさず、口元に炎を集め始める。

……なるほど、今の攻撃で完全に敵と認定されたわけか。

魔力のシールドで防いでもいいが、熱波までは防げないだろう。

火傷を負うのは御免なので、ここは発動前に封じるのが吉か。



「【身体強化】」



俺は足に魔力を集め、それを一気に放出した。

目の前の景色が一瞬歪み、次の瞬間、黒竜の口元が目の前に現れる。


「口を閉じろ」



「グフッ!?」



黒竜がブレスを吐き出す直前、俺は黒竜の顎を跳ね上げる。

……俺がカリストで名だたる化け物たちと渡り合えた理由の一つが、こうした身体強化を誰よりも上手く使いこなすことができたからだ。

そしてもう一つは、相手を純粋な戦闘能力勝負に強制的に巻き込むスキルの恩恵が大きかった。



(黒竜のスキルは……【魔力炉】、それと【人化】? 状態が【隷属】か)



付与された最後のステータスが原因で、こいつは人間に従わざるを得ないらしい。

……なら、それが消えたら?



「【鏡の戦(ミラーマッチ)】」



俺は固有スキルを発動し、黒竜の反応を見る。

俺の固有スキル……【鏡の戦】は、発動すると自分、または相手のステータスを強制的に同じものに書き換える。

俺はこれ以外のスキルを何一つ発現させていないため、俺のステータスをベースにスキルを発動することで、純粋な体術と魔法による戦闘に相手を引き摺り込むことができるのだ。




『おおっと!? 突然黒竜が動きを止めたぞ!? ベリルは一体、何をしたんだ!?』



ここでようやく、会場がざわつき始める。

……もしや、本当に勝ってしまうのか?

先程までの熱狂が嘘のように、人々は戦いの行方を固唾を飲んで見守った。

……が、残念ながら俺は彼らの期待に応えるつもりはない。

俺は黒竜に向けて魔法【念話】を発動する。



『戦いながら聞け。お前、人語理解できるだろ。その奴隷紋を外す術があると言ったら、お前は俺に協力してくれるか?』



『……それが本当なら、願ってもないことだ』



『よし。ならもうここにも褒賞にも用はない』



『……どういう意味だ?』



『奴隷紋を消した上で5秒稼ぐ。俺を乗せて飛べ』



というか、もう消えているんだがな。

俺はかなり魔力を込めた炎魔法と氷魔法を衝突させ、会場全体に水蒸気のカーテンを発生させた。



『うわっ……な、なんだこれは! 会場が一面真っ白になってしまった! ベリルは!? 黒竜はどうなっている?』



(バーカ、無事に決まってんだろ。あばよ)



やがて水蒸気が収まり、観客たちの視界が戻った時、闘技場には一人と一匹の姿は無かった。






評価・ブクマ等よろしくお願いします(定型文)



……そろそろ睡眠負債を返済したい。寝ましょう。

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