戦闘狂魔王vs現無職
10月ってなんでしょうね。
夏かな……
「うおおおぉぉぉ! 2単位の重みを喰らいやがれ!」
「ぐ、うぅ!?」
体制を崩し、無防備となった魔王に渾身の斬撃を叩き込む。
そして、その手ごたえで確信した。
……ようやく、終わりか。
これまで驚異的なタフネスを見せつけてきた魔王だったが、今回の……通算5回目のダウンで遂に限界を迎えた。
「……見事だ、勇者よ」
俺は、先程まで死闘を繰り広げていた魔王レグルスが大の字に倒れている光景を見下ろしていた。
ギリギリの戦いだった。
何度もヒヤリとさせられる攻撃があった。
一撃でも喰らっていたら今頃立っているのは俺じゃなかっただろう。
途中から八つ当たりどころの話ではなくなったし、酔いもすっかり覚めてしまった。
どう考えても、こいつは思いつきで挑んでいい相手じゃなかったな……
それでも、まずは命拾いしたことを喜ぶべきなのだろうか。
「はは、そう警戒するな。俺にもう余力などない。全く、最後の最後にいい戦いができて俺は満足だ。最後に一つだけ聞かせてくれ。その答えを聞いたら、大人しくトドメを刺されることを約束しよう」
「いいぜ。で、聞きたいことは?」
「勇者よ、お前は何のために俺と戦うことを決意した。……実力以上に、お前の気迫は鬼気迫るものがあった。この俺がたじろぐほどにな。それほどの意思を持った男に負けたというなら、せめてその意思の原動力を知りたいと思うのは自然なことだろう」
「あぁ……聞かない方がいいと思うけどな」
「いいさ、どんな理由でも。俺は何千年も魔王として立ちはだかってきたが、中には好きな女に格好をつけるために挑んできた馬鹿者もいたぞ。ただ、最後に俺を倒した男が何を考えて戦っていたのかを知りたいだけだ」
「なら言うけど……一番わかりやすい場所にいたから、かな。ぶっちゃけ、誰でもよかったんだよ。人間に仇なす魔物で、俺と渡り合える実力があるなら。落単した恨みをぶつけるためにな」
「…………………………は?」
「だから、落単。ちょうど卒業できるようにカリキュラムを組んだつもりが、奴ら曰く一つ仮登録のまま放置してたらしくてな。というわけで、そもそも勇者ですらない一般人さ。ここに来たのは完全な私怨、八つ当たり。思いっきり全力をぶつけられる環境と相手が欲しかったんだ」
「……いや、ほんとごめん。何言ってんの、お前。八つ当たりで魔王に挑むか、普通」
「いいよ、理解されなくて」
「……そんなふざけた理由で挑んできたのはお前が初めてだよ!」
「そりゃそうだ。俺みたいな馬鹿が何人もいてたまるか」
だから聞かない方がいいって言ったのに。
俺だってまともな理由じゃないのは理解している。
夜風に当てられて酔いが覚めてきてからというもの、徐々に自分がなかなかイカれた行動をしている自覚が芽生えてきていた。
……冷静になるって怖いな。
「わかった、わかった。言いたいことは色々あるが、ここは一度飲み込んでやる。俺以外の魔王も殺すつもりなのか?」
「……知らん。別に魔王殺しに興味があるわけじゃないしな。この先殺さない保証もなければ、殺す予定もない」
「そうか。まったく、こんなにふざけた人間に引導を渡されるとは思わなかった。ここしばらくは人間と友好的に接していたと思っていたんだがな。……約束は約束だ。殺せ」
「……友好的? どういうことだ?」
「この島で取れる……なんつったかな、魔法石、みたいな名前をした石だよ。迷い込んだ人間が欲しいっていうんで、取引に応じたんだ。今でも定期的に人間の船や飛竜が採掘に来てるから、お前が飛竜に乗ってきた時も最初は資源目当てだと思ったんだが」
……えぇ。
八つ当たりで挑んでいい相手でもなければ、八つ当たりでぶっ56していい相手でもなかったやんけ。
「……なぁ、お前、まだ魔王を名乗るつもりはあるか?」
「それはどういう質問だ?」
「条件を飲むなら生かしてやってもいい。話した限り、お前からそこまでの悪意は感じなかったし、もう俺の気は晴れた。お前の命にも興味はない」
「……ククク、甘いな。ここで俺を生かせば、今度は俺がお前に再戦を申し込むやもしれんぞ?」
「甘いのはどっちだ。そこは奇襲するくらい言っとけよ。ったく、調子の狂う魔王だな……」
「わかってねぇな。純粋な力比べにこそ価値があるんだ。で、その条件とやらを聞こうか」
「この城を俺に明け渡して欲しい。それだけだ。……俺はもう学生寮には居られないから、今日中に住処を見つけないと明日からホームレスになるんだ。悪く思わないでくれ」
それを聞いた魔王は目を見開いてしばらくフリーズすると、こんどは堰を切ったように笑い出した。
「……ククク、この魔王城を家扱いするとは、どこまでも狂った男だ。わかった、その条件を飲もう。実を言うと俺もこの城を先代から奪っている。いざ立場が逆転した時に反対するのは見苦しいってものだろう」
「え? そうなの?」
「あぁ。ついでに言うと、この島の所有権も正式に俺に属するものではない。都合が良い拠点を見つけたんで、拝借していただけだ」
「…………気が合うな。一緒に鍋でも囲むか?」
「正気か?……いや、まぁ、本気で言ってるなら、野菜でも取ってくるが」
「なんで満更でも無さそうなんだよ」
「自分より強い相手から戦闘談義に誘われたら、断る理由などあるまい」
「誰が戦闘談義と言った」
こいつ、戦闘以外の思考回路はないのか?
「なんだ、違うのか。では、俺は武者修行の旅に出ることにしよう。首を洗って待っておけ。次はお前が地面につくばう番だ。それまでこの島は自由に使うと良い。最も、島を狙う敵は俺だけじゃないと思うがな」
「もう回復したのか?」
「まぁ、飛べるくらいにはな。……今すぐ再戦するのは勘弁して欲しいが」
「こっちから願い下げだ。明日の朝にはレンタルした乗竜も返却しなきゃならねぇ。俺は早く寝たい」
「そうか。さらばだ、戦友よ。また戦おう!」
「……二度と来んな」
リベルの呟きは、既に飛び立った戦闘狂魔王に届くことはなかった。
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