賭けを見守っていたら未来が拓けた アランの婚約者5
クレアから話を聞いて、なんとなく察したことがある。
(レオン、できることは全部やったんだな…。)
クレアの記憶は、何故か俺以外のことに関しては若干曖昧で、でもいくつかの事項に関しては思い当たることがあった。
まあ、フィリアというヒロインと、ラルフェン領に行ったまま音沙汰なしのミヒャエルはいいとして。
ミレーヌ様は、本来、ヒロインと共にアマリエを断罪する側なのだそうだ。
ミレーヌ様とアマリエを引き合わせたのはレオンだと聞いている。学園で二人の仲が良いのも、ミレーヌ様がフェルナンド様と婚約しているのも、レオンの采配を感じる。
(もともとデキる奴だったけど、その力がアマリエ嬢のおかげでいい方向に使われたってわけか。)
クレアの記憶のレオンは、もっと陰があり他者を簡単に切り捨てる冷たい男だったという。
それを言えばアマリエだって穏やかな性格だ。悪役令嬢なんてとんでもない。
クレアの中では、その設定とやらはかなり捨てがたかったようで、まだ、アマリエが暗躍していて断罪されたり、逆にざまぁ展開を仕込んでいる説に固執していた。
「ちょっぴり、それに協力できたりしないかなあと思ってました。目撃者1とか、賛同者Aとかで。」
申し訳ないが、たぶん無理だ。
だって、あのレオンだよ?
アマリエに出し抜かれることは絶対にない。
あれだけ囲い込んで、アマリエしか見てないんだから。
もし、アマリエが断罪される流れなら、とっくに何か手を打っている。
ざまぁ展開?だとして、アマリエがそんなことを考えながら何かしていたら、レオンはその手足となってもっとえげつない暗躍をしているだろう。
今の学園に、そんな不穏な空気はない。
「卒業パーティーで、君の言うような展開にならなかったら…君が諦めて認めて。この世界はゲームじゃないし、モブなんて人も存在しないって。」
まずは、そこからだ。
クレアは確実に揺れている。でも決め手に欠けていた。
(頼んだぞレオン!)
レオンから助けを求められない悲しさはあったが、そこはしょうがない。
その代わり、二人をめちゃくちゃ祝福してやろう。
そして、その時、クレアを彼女自身の中で主人公にしたい。彼女は既に、俺の…
(ヒロイン、だから。)
そして…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「な?悪役令嬢の断罪なんて、なかっただろ?」
そう告げたが、クレアは呆然自失だった。
「いくらなんでも、何もなさすぎでしょう?ドロドロ展開は?聖女覚醒は?悪役令嬢の断罪、もしくはざまぁ展開は?」
「だから、そういうのはないって。アマリエ嬢は善人だよ。少々厄介な男に執着されただけで。」
「モブの活躍する機会すらない!」
(はあ。もう、いいか。)
俺は、クレアを庭園に連れ出した。
「クレア。ここはさ、俺たちの世界だ。俺たちは自由で、未来は自分次第なんだ。」
クレアは、道に迷ったような、途方に暮れた顔をしている。
「…そんな…だって…。」
「前世の記憶とか、予知夢とか、それがあったから会えたんだから否定はしないけど、もう、それに縛られないで。俺は、クレアが好きだ。」
「…アランさん…」
やっと言えた。あとは、もう押すだけ。
「クレアは俺のこと嫌いなの?」
「っ!だから、上目遣いっ!」
「…前世から好きなんじゃないの?最推しって、一番大好きってことじゃ…」
「あう!なんで知って…!え?私今までわりと…!」
「うん。意味がわかってからは、顔をつくるのが大変だった。だって、毎回愛を呟かれて…」
「きゃあ!だめだめ!うそ!え?…え?」
「ねえ、俺のヒロインになってよ。」
ぐっと顔を近づけると、クレアはギュッと目を閉じる。
(これは…キスしてOKなのか?いや、逃げられたら耐えられないし!)
少し迷ったあげく、額に口づけを落として頭を撫でるにとどめるも…。
「…尊い顔面アップからのこの流れは反則です…(パタリ)」
「…クレア?……クレア!?」
限界を突破したクレアが気を失い、慌てた俺は人を呼び…。
立太子のお披露目、レオンの求婚成功。
ニュースは二つで充分だったのに。
庭園で留学生の淑女に迫り、真っ赤にさせて気絶させた変態として、立ち直ったクレアが誤解を解いてくれるまで遠巻きにされた俺は、やっぱり締まらない男だなあと今でも思う。
目が覚めたクレアとは、なんやかんやあって結ばれて、手紙の交換や互いの国を行き来しながら無事婚約。
国同士の絆を深めるのにも一役かったそうです。
ちゃんとエンディングまでいけました。
とりあえずは完結として締めます。
クレア視点も少し構想はあるのですが…
読んでいただける方があれば、またひょっこり更新するかもしれませんので、ぜひお付き合いください!
完結後再更新で続いた物語を読んでくださった皆様には感謝しかありません。ありがとうございました!