賭けに勝ったら未来が拓けた レオンの奮闘
レオン、頑張ります!
本来、めちゃくちゃできる子です。
学園への入学まであと一年、というある日。
寮生活が始まり、学園では毎日長時間アマリエの近くにいられる。
チャンスの宝庫に胸が踊る俺とは対照的に、アマリエの表情は暗い。
最初は、勉強への不安とか、社交への不安とか、そんなありきたりの理由だと思ってあまり気にしていなかった。
これ幸いと、「先輩から聞いた」とかいろいろ言ってリューズ家に入るなら必要になることを教え込んでみたりして、若干浮かれていたのだが。
(なんだ?暗すぎるぞ?)
さすがに異変に気付いた俺は、そこに、アマリエが侵入を許さないラインがあるのではないかと思い至った。
ならば、知らなければならない。
その内容がどんなものであれ、アマリエを知るために、絶対に必要なピースに違いないのだ。
今ならば。
押せば打ち明けてくれるのではないか。
そう思える程度にはアマリエの近くにいる自信があったからこそ、問い詰められたし、聞き出せたのだと思う。
さすがに、「未来が分かる」と言われた時は動揺したけれど、それが本当に仲を深める障壁になっているならば、全力でどうにかするまでのこと。
大切なのは、アマリエが、賭けに乗ったことだ。
出会いのお茶会がアマリエ8歳、俺が9歳。チャンスを求め続けてはや五年以上。
卒業までの4年でアマリエを確実に手に入れられるなら、逃さない手はない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「しかし、なかなかにぶっ飛んだ未来だよ、アマリエ。」
リューズ家の自分の部屋で、アマリエから聞いた話をもう一度まとめながら、さすがに黙っていられなくて。1人でつぶやいた。
情報は今のところアマリエの話だけ。ところがこの話というのが…。
(ヒロインとやらの名前がフィリア=ラルフェン。やがて聖女として覚醒し、各地の瘴気をはらっていく、か。力の発現には攻略対象の愛情が必須、その相手があの時お茶会にいたメンバーと、俺で? 学園には実は国宝級の聖魔道具でしか倒せない超悪質な魔物が封印されていて、聖女が覚醒してないと学園が火の海になる?)
まだ行ったこともない学園の信じられないエピソードを聞いて、それを前提に動くなんて、普通ならありえない。
(まあ、でもまずは調査かな。)
リューズ家には、俺が指示できる情報担当が数人いる。彼らを使って調べてみて、一応真偽を確かめよう。
(まあ、何事もなく卒業パーティーを迎えればいいだけだし。)
アマリエの話が妄想でも良いのだ。
大切なのは、賭けに勝つことだけなのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「え?フィリア=ラルフェンが実在する??」
調査結果を聞いて、思わず聞き返した。
男爵家の養女、フィリア。
愛人の娘であり、血のつながりのあるれっきとした男爵家の令嬢。
予定では、1年後に同級生として学園に入ってくる。
しかも…
『フィリア=ラルフェンは、虚言癖があり、自分には前世の記憶があって未来が見えると昔から言っていた。見た目は可愛らしいが、関わった者は割と深入りしないようにしている』
『学園に入学さえすれば、第一王子フェルナンド様やその他高名貴族の子息たちから熱烈に愛されると信じていて、その中にレオンの名やアマリエの弟の名もある』
「ここでも、未来視に転生…。しかし、人が変わると、言ってる中身が同じでも随分とこちらの感情が違うものだな。」
立場の違いもあるだろうが、覚悟を決めて俺にだけ打ち明けたアマリエと、何も考えずに吹聴しているフィリアとやらでは、思慮深さや賢明さに天地の差があるように思う。
「そんな存在に、アマリエが怯えているなんて…許しがたい。」
(いっそのこと秘密裏に処分…いや、それはナシだよなあ。)
バレたときのアマリエを想像すると、踏みとどまる。
(それに、聖女は目覚めないといろいろ面倒なんだっけ?)
瘴気についても、まだ問題視されるほどではないが、確かに発見されており、騎士団の派遣がたまにある。
アマリエの言葉をそのまま信じるならば、攻略対象とやらからの愛情が聖女を目覚めさせ、それによって瘴気がはらわれるという。
「攻略対象ねえ。」
そういえば最近、遊び人のミヒャエル=カメリアが、王都の貴族女性を次々にオトしていて、アマリエにも興味をもっているという情報もあった。
まあ、アマリエは侯爵家令嬢で次期皇太子妃候補のミレーヌ様とも仲がよく、何より俺が、一生懸命かこっている女の子だ。
ゲーム感覚で女遊びをしているミヒャエルのような男からすれば、燃える獲物と言えなくはない。
…まあ、本気で来るなら物理的に燃やしてやってもいいが。
「もともと、ハニートラップを生かした諜報員として育てたい男だったけど、彼なら別にいいかな。」
自分でも悪い顔になっていることを自覚しているので、さすがにこれはアマリエにも秘密だ。
とりあえずミヒャエルを屋敷に招待した俺は、親しい友人扱いをしながら、油断したところで彼が手を出してしまった人妻のネタを使って、彼を引き連れ、ラルフェン家の領地にお忍びの小旅行に向かったのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…疲れたね、レオン。」
帰りの馬車の中で、珍しくげっそりした顔のミヒャエルが小さい声で言う。
「…ああ、疲れたな。」
フィリアという女性は、一言でいうとポジティブモンスターだった。
街中で偶然を装って声をかけると、彼女は大きな目をいっぱいに見開き、
「レオン=リューズにミヒャエル=カメリア!!うそうそ!まだゲーム前なのに!」
と大きな声で叫び、何やらブツブツ言い始めた。
よく聞こえなかったけど、運命、とか裏設定、とかいうフレーズを含む独り言を言ったあとでにっこり笑って、
「良かったら家に来ませんか?ゆっくりお話しましょう!」
と言ってくる。
(高位貴族を知っていながら呼び捨てにしたあげく、言葉遣いもなってない。しかも、女性から、家に誘ってゆっくりお話…って…まあ、たぶんわかってないだろうけど。)
こんな誘い方をすれば、押し倒されても文句は言えないのだが。
こちらは、偵察という目的があって近づいているわけだから、ありがたく誘いに応じたわけなのだが。
「なんであんなに、相手が好意をもっている前提で話ができるんだろうね?」
俺の一目惚れの相手は、あとにも先にもアマリエだけだ。
ミヒャエルなんか、一体何人に「一目惚れなんて初めて」と囁いていることか。
そんな俺たちが、なぜ、ただでさえ関わらないほうがいいオーラを出しまくっているフィリアに惚れるというのだろう。
途中でやんわり否定を試みたが、彼女はものすごい意訳を繰り返し、最後にはこちらが間違っているような気になりかけた。
…これは、なかなか…。
てごわい。
その思いを充分に共有したうえで。
ミヒャエルが弄んだ令嬢の母親が、実は闇組織のトップの娘であることを告げる。
女性の裏には、当然家族がいて、数打てば時々はヤバい大物にだってあたる。
まあ、いつか使えると思って、いくつかの出会いは意図的に仕込んであったのだが、切れるカードはタイミングを見て仕掛けていかなければ、ね。
「で?僕に何をしろと…予想が当たらないことを心から祈ってるんだけど。」
まあ、あたるよね?
「フィリア嬢と幸せになってほしいんだ。」
できればそのまま、領地から出ないでほしい。
「…なんだか、予想以上なんだけど?」
「うーん。僕がもっている情報が公開されたら、どのみち王都近くにいたら危ないと思うよ?カルディア嬢なんて、既に母君と祖父君におねだりして、君をなんとか手中に納めようとしてるみたいだし、身動き取れなくなるのも時間の問題かな。ラルフェン領は、すごくいい避難先だと思うけど?」
ちなみにカルディア嬢というのが、ミヒャエルが弄んだ件の令嬢である。
「…ラルフェン領に骨を埋めろと?フィリア嬢をオトせ、ではなく?」
(だって、結ばれてくれないとだめらしいからさ。)
相性的には悪くないはず…。
まあ、無理だったときには、瘴気を払う方法を見つけ出すまでのことだ。
「とりあえず、学園に入学しなければOKにしてあげるよ。家庭教師として潜入で、どう?」
「…それはなかなか、萌えるシチュエーションだね。」
(ほら、こういう救えない感じがね。)
その後は手紙のやりとりに加えて、こっそりうちの人間を潜入させて。
ミヒャエルは、真実の愛とやらに目覚めたらしい。
結果、フィリアは入学式には来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねえ、アマリエ。ヒロインは来なかったね?」
「う…うん…。」
「まだ、安心できない?」
「で、でも…ヒロインがいなかったら、ラスボスが!」
「なら、いっそ二人で学園やめてしまおうか?」
「だ、だめだよ!学園はちゃんと卒業しないと、将来が!」
「そうかなあ?」
正直言って、学園で学ぶことはさほどない。
アマリエに教えることもできる。
でも、まあ…。
「次はラスボスか。」
やるなら徹底的に。
まあ、さすがに学園に封印された魔物なんて、いるはずがないと思っていたのだけど…。
「…いたのか、ドラゴン…。」
アマリエの記憶をもとに探してみたら、魔物は、いた。
やがて聖なる力は発現します。
ちゃんと彼らも幸せになっている…はず!!