閑話 ミヒャエルの恋 前編
初感想いただいた記念!
短いですが、ミヒャエル編です。
どうぞお付き合いください。
女の子は好きだ。
可愛いし、柔らかいし、一緒にいると楽しい。
女の子たちだって綺麗なもの、楽しいことが好きだから、僕といたがる。
両思いって、そういうことでしょ?
女の子たちに、僕は一緒にいる楽しさを教えてあげたくて、街歩きや観劇や、食事に誘う。
どんな子でも一生懸命考えて笑顔を引き出せると嬉しくなる。
楽しい気分になれるから、僕たちは一緒にいる。
そうじゃないならいる意味なんてないんだ。
それが分からないだなんて、理解できない。
なのに、いつも彼女たちは、「不安だ」とか、「将来が」とか、そんなことを言い始めて楽しい気分を台無しにしちゃうんだ。
子爵家の愛人の息子。
爵位も継がないし、やがては平民になる。
そんな僕をいろんな言葉でみんな手に入れようとする。
それが分かったとたんに、なんだか恋の火は簡単に消えてしまう。
恋って、一体何なのだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「君が手を出したソフィア様は、社交界では騎士団副団長の貞淑な妻として名高い方なんだ。ちなみに副団長の溺愛も有名な話。貴族はイメージが大事だからね。まあ、だからこそ君たちも念入りに隠して楽しんでいたんだろうけど。」
数ヶ月前にお別れしたソフィア様の名前が出た時は、さすがに心臓がすごい音を立てた。
僕たちは上手くやっていたと思う。
別れも珍しく綺麗だったし、いい思い出の一つだ。
ただし、秘密のままでいられたら、の話。
レオン=リューズは、ごまかしの効かない隙のない笑顔でソフィア様との秘密を暴き、副団長との交流があることを匂わせながら『お願い』を言い始めた。
そして。
「はあ……。やっぱり気が乗らないなあ。」
何度目かのため息を付きながら、1人揺られる馬車は、先日レオンと訪れたラルフェン領に向かっている。
『フィリア=ラルフェンをおとせ』
ソフィア様に続き何故かカルディア嬢のことも知っていたレオンは、優雅な笑顔で強迫してきた。
確かにカルディア嬢は刺激的な女性だった。
初めはなかなか靡いてくれなくて、やっと笑顔を見せてくれるようになると、今度は執着と束縛がきつくなった。
物わかりがいいふりをしながら、その実全てを把握し、自分のものにしたがる、可愛くて愚かな令嬢が、裏社会の権力者の娘だったなんて、思わなかった。
まあ、知っていてもチャレンジはしたかもしれないけど。
(そもそも、僕が目をつけられたのって、アマリエのせいだよね?)
興味を持っちゃったんだからしょうがない。
あの、レオンが大事にしている女性だ。
もしかしたら、彼女なら、僕の満たされない部分を埋めてくれるかもしれないと、そう思ったから。
でも、僕がしたことは、これまでにも何回か情報を教えてくれている王宮勤めの侍女の子に、アマリエの好きなものやよく行く場所なんかをそれとなく聞いたくらい。
万が一そこから伝わっているなら、レオンは他にもたくさん手札があるはず……怖いんだけど。
それはともかく、今の僕にはラルフェン領に行く以外の選択肢はないわけで。
(眼鏡とかかけて、家庭教師として生徒との恋にテンションをあげたいところなんだけど。)
どうも乗り気にならないまま、僕はフィリアの父である男爵に、挨拶を済ませた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まさか、ミヒャエル=カメリアが、ヒロインの家庭教師だったなんて。」
「ミヒャエル先生、だよ。よろしく。」
目の前の生徒は渋々といった様子で「ミヒャエル先生……」と確認するように呟く。
フィリアは、初めは怪訝な顔をしていたが、存外素直に受け入れて、勉強していた。
「裏設定ってやつなのかな。ファンディスクとかにあったりして?」
……ときどき意味のわからないことは呟くものの。
フィリアは、初めて会ったときの異様さはそんなに感じなかったけれど、なんというか、今までに付き合ってきた女の子と違って、掴みどころのない子だった。
にこやかに話をする姿は愛らしく、僕好みのはずなんだけど、いまいち感情が読めない。
彼女によると、この世界はゲームのための舞台で、フィリアはその主役、僕やフェルナンド様やレオンは『攻略対象』……まあ、恋のお相手、ということらしい。
(どう頑張っても、ときめかない……。)
努力はしたんだよ?
甘い言葉も囁いたし、よく分からない話にも耳を傾けた。でもなあ。なーんか食指が動かないっていうか……。
「きゃっ!!」
考え事をしながら歩いていると、侍女のセシリアとぶつかった。
柔らかそうな耳としっぽ。珍しい獣人の女の子だ。
「ごめんね。大丈夫?」
そう聞くと、驚いたような顔をしたあと、赤くなって、
「だ…大丈夫です!」
と早口で言ってさっと行ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も今日とて、フィリア嬢は、夢物語にしか聞こえない自分の未来の話をする。
「それでね。学園にはいくつかイベントが発生する場所があるの。噴水付近なんかはしょっちゅういろいろあるの。ミヒャエル先生も学園に行ったらきっと導かれるわ。特別に教えてあげる。」
(残念ながら、君が学園に行くことはないと思うけどね。)
女の子と仲良くなる時の鉄則は、とにかく話をきちんと聞くことだ。
でも、なかなかに苦痛を伴う。
だって、どう考えても勘違いしている妄想を聞き続けるのだ。しかも、その中には、明らかに違う僕に対する決めつけもある。
ミヒャエルという人間はこうだとか、こうなるのが運命だとか言われても、ねえ。
女の子なら、誰でもいいわけじゃない。
だから、これは仕事だと割り切らないと。
僕は、愛想笑いを浮かべながら、どうすれば自分がフィリアを落とせるのかを、淡々と考えていたのである。




