こんな賭けなら負けてもいい ミレーヌの駆け引き6
卒業パーティーは大盛況で幕を閉じた。
ただでさえ、卒業の記念パーティーという感慨深い場。
しかも、フェルナンド様の立太子発表、レオンの求婚成功と、話題性抜群である。
アランも何やらあったらしいのだが、卒業パーティーで立太子発表が終わり、ダンスを踊ったあと、
「ミレーヌ、ちょっと抜け出そうよ。」
そう言ったフェルナンド様に連れられて会場を出ていたため、その騒ぎは後で聞くことになった。
「……ここだよ。」
フェルナンド様に連れて行かれたのは、生徒会室のある生徒棟の3階…ではなく、普段は立ち入りが禁止されている屋上だった。
「ここに入るのは禁止なのでは?」
「まあ、方法はいろいろあるよ。」
「後で罰則では?」
「例えば?」
考えられるものとしては、停学とか、退学とか……あ。
「まあ、もう卒業だからね。」
そんなことを言ってよいのだろうか。
「フェルナンド様って、優しい顔をしていらっしゃるのに、結構悪い人ですよね?」
そんなふうに軽くにらむと、フェルナンド様は楽しげに笑う。
「そうかもしれないね。僕は外面がよくて、意外と腹黒くて、恥ずかしいけど記念のものをとっておきたいタイプ。……でも、それだけじゃない。」
「え?」
「ミレーヌ。まだまだ僕には隠し玉がたくさんあると思うよ。もっともっと興味を持って、僕を知ってほしい。」
夜の星の光のせいだろうか。フェルナンド様の金色の髪が、いつもよりずっと輝いて見える。
「小さい時の賭け、覚えてる?」
「……はい。結婚の……。」
一瞬誤魔化そうかとも思ったが、やめた。
まだ見えないフェルナンド様の気持ちを、知りたかったから。
「賭けはどっちの勝ちだと思う?」
(ずるい。)
フェルナンド様はこんなときでさえ、私の上位にいようとしている。
「賭けは、『フェルナンド様が』恋愛結婚をするか、でしたわ。私には分かりません。」
そう返してやれば。
「じゃあ、僕の圧勝かな。」
すぐに答えが返ってきて、かえって焦ってしまう。
「そ、それはどうでしょうか。結局私たちの婚約は、政略結婚ありきでは?」
「圧勝」の意味を聞きたい。でも、まだ、答え合わせは怖い。
フェルナンド様は、私の手を取った。
「婚約者に恋をするのに、婚約の前か後かなんて、たいした問題じゃない。僕はちゃんと恋をして、その相手と結婚する。だから、賭けは、僕の勝ち。……ミレーヌ。僕は、君が好きだよ。」
ああ、完敗だ。
フェルナンド様は欲しかった言葉を、的確に私にくれる。
「ならば……。」
私は声の震えを抑えながら言葉を、続ける。
「賭けの対価は、もう支払い済みですわね。」
フェルナンド様の目が大きく見開いた。
今日の、この時のことを胸に刻みたくて、フェルナンド様をしっかり視界にとらえたまま、私は言った。
「私も、恋愛結婚をするのです。フェルナンド様……あなたをお慕いしています。」
政略結婚、という言い訳を、もう捨てよう。
街歩きで見た笑顔も、贈り物を受け取る姿も、包装を捨てられない子どもみたいなところも、私に逃げられないために魔導契約書を使ってしまう、重いところも。
全部、愛おしい。
誰にも渡したくないし、知られたくない、こんな独占欲は、政略結婚のクールさとは対極にあるものだ。
「こんな賭けなら、負けるのも悪くありませんわね。」
そんなふうに笑えば、
「勝った気がしない賭けも存在するんだね。」
フェルナンド様も可笑しそうに笑って。
それから私たちは、初めてのキスをした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
……結婚式の後、魔導契約書の確認をした。
『ミレーヌとの記憶』
『フェルナンド様との記憶』
それぞれの大切なものを見て、お互いに真っ赤になったのを見て大笑いして。
その後の初夜の甘さは、冷静なレオンだって砂を吐くレベルだったことは、私たちだけの秘密である。
レオン
(俺のこと、さんざん執着しすぎとか、腹黒いとか言うけど、フェルナンド様は間違いなく同類だと思う。)
ミレーヌ編終了しました。
ささやかな事件ばかりだけど、そんな恋愛政略結婚もありかなと思います。
夏休みも終わったので一旦区切りをつけます!
また、何かの記念があれば、フェルナンド編とミゲル編…ルイ編に…まだまだいました(笑)
小間切れの連載にも関わらず読み続けて下さった皆様、ありがとうございました!




