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こんな賭けなら負けてもいい ミレーヌの駆け引き5

「……」

「フェルナンド様?」

そう呼びかけると、フェルナンド様はハッとしたように手を戻した。

「ごめん。君がいなくなるんじゃないかと思ったら、とっさに。」

(そんなふうに言ったら、勘違いしてしまうじゃない。)

ドロッとした気持ちが胸に渦巻く。


「……いなくなんてなりませんわ。」

「良かっ…」

「やっとつかんだ婚約者の座ですもの。手放すつもりはございません。我が家のために。この国のために。」

「ミレーヌ?」

「早く戻ってあげてください。私は大丈夫ですから。」

「戻るって……?」

きょとんとしたフェルナンド様になんだかすごく腹が立つ。

「ですから!エミリー様のもとに行ってくださって良いと言っているのです!!」

一瞬目を大きく見開いたフェルナンド様が、今度は口元を押さえて真っ赤になる。

見ていられなくて、その場を去ろうとしたのに、何故か腕をしっかり掴まれた。

「っ!離してください!」

「ごめん。それは無理。」

振り払おうにも、力が強くてできない。


「……えっと。とりあえず、馬車に乗ろう。」

門近くに待機していた王家の馬車に半ば押し込まれるようにして乗り込み、フェルナンド様も同乗する。

向かい合わせではなく、何故か隣だ。

「王宮へ。……ああ、いいと言うまで、しばらく遠回りして。」

そんな指示を出すフェルナンド様の行動が、訳が分からない。


「さて、ミレーヌ。僕は今、すごく混乱している。何が君に起きているのか、説明してくれる?」

「……ご自身がよく分かっていらっしゃるのでは?」

「いや、全く。君の言葉で説明して?」

「言いたくありませんわ。」

「だめ。説明して?」

密着した馬車の中で、手を握られて、近くに顔を寄せられて。

半刻も経たないうちに限界を迎えた私は、半分涙目になりながら、王妃様との会話から、あらいざらい話をする羽目になったのである。



「……母上……」

聞き終わってからも、フェルナンド様は頭を抱えていた。

馬車を王宮に向かわせるよう指示を出して私に向き直る。

「一緒に来て。ミレーヌ。なぜ母上がそんなことを言ったのかも含めて、ちゃんと説明する。エミリー嬢のことも、全部説明するから、僕のお願いも、聞いて?」


それがなぜ王宮でなければならないかを理解したのは、王宮についてからである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はあ。まさか、初めて使うのがミレーヌにだなんて。予想外だ。」

王宮のフェルナンド様の部屋にて。

ため息混じりにそう言って彼が取り出したのは、魔力を帯びた紙だった。

「『魔導契約書』……。」

「本当に必要な時には使えるように、王族に与えられているんだ。今から、僕と契約を結んで欲しい。」

魔導契約書。

貴族でも使われることはあり、見たことはあるけれど、インクの色や紙の質が明らかに違う。

契約を必ず果たすために、履行されなければそこに書かれたものが失われる契約書だ。

危険なものなのでめったに使われない。そんな代物を、まさかこの流れで出されるとは思わなかった。


「この契約書は、ごまかしがきかないように、本人の心を映し出すんだ。失われるのは、それぞれの一番大切にしているもの。」

「ちょっと待ってください。そこまでして、なんの契約を?」

「…………今から何を見ても、婚約破棄とか解消とか言わずに、僕とちゃんと婚姻を結ぶこと。」

「…………へ?」


一瞬よく分からなくて、気の抜けた返事になってしまう。

「それを、契約するんですか?わざわざ『魔導契約書』を使って?」

「…………そうしてくれないと、君に全部知られる勇気が持てない。」

(一体どんな隠し事が…。)

しかし、私はどんなことが打ち明けられても、フェルナンド様と結婚して、王太子妃になるのだ。

気持ちが私になくても。

たとえ、どんな隠し事があっても。


「なら、契約書に足しましょう。『ただし、立太子が実現した場合に限る』と。私はそのためにいるのです。もし、今からのお話が、王位継承権を無くすようなものだった時は、お受けできません。」

覚悟を決めよう。それに…この契約書は、決して私に不利なものではない。何があろうとも、婚約が白紙に戻ることはなく、フェルナンド様が王太子になった時、確実に王太子妃になれる。

「…ふっ。問題ないよ。頑張らなくてはね。」

フェルナンド様は、気を悪くしたふうでもなく、さらさらと契約書に書き足した。その代わり、

『立太子が確定したら、すぐに婚姻を結ぶ』

とも付け加えて。


それから。

「これに手を載せて。」

そう言って、目の前に専用の魔石が置かれた。

「大切なものは何?」

手を置いた私にそんな問いをストレートに投げかけるフェルナンド様。

(そんなの、急に聞かれても分からないわ。)

そう思ったのも束の間。

グイっと意識が石の方に引っ張られて、出てきたのは……

(フェルナンド様……)

街歩きのときに見た、フェルナンド様の笑顔、だった。


「契約、できたみたいだね。」

そう言ってフェルナンド様が契約書を確認する。

(今のって……)

「契約の対価は、契約が果たされるまで見れない。気になるけどね。」

そう言ったフェルナンド様は、自分も魔石に触れて契約を完了した。それから……。


「……じゃあ、見せるよ。」

フェルナンド様がだいじそうに持ってきた箱を開けて、私は緊張しながらその中を覗き込んだのだが……

「え?」

その中にあったのは。

(リボンと……紙?)

しかもなんだか見覚えがあるような。

「分かる? これは、一番最初のクッキーで……これが次のカップケーキで……。」

準に説明するフェルナンド様。

それは、私がフェルナンド様に贈ったお菓子の包装だったのだ。


「まさか、初めから全部残して……?」

フェルナンド様の顔が赤い。

「食べたあと、捨てるに捨てられず……でも残して大事にしているのも恥ずかしくてこそこそしてたから……母上が勘違いしたんだと思う。」

そんな、と否定しかけて、あり得るかもしれない、と思い直す。

(貴族令嬢は基本、手作りより、良い物を買って贈るものね。私からとは思わなかったのかもしれない。)

王家の影からの情報は、陛下にのみ伝えられる。


女性には女性の情報網。

王妃様からの教えだ。

侍女やメイドから見た情報ならば、学園から持ち帰った贈り物とおぼしき包装を大切にしまい込むフェルナンド様が、私ではない想い人がいるように見えても不思議ではない。


「実はハンカチも、もったいなくてこの引き出しに。」

そう言って見せられた引き出しの中には、丁寧にたたまれた、私の刺繍入りのハンカチがしまわれていた。


「使ってくださらないと意味がないのに。」

そんなふうに言いながら、なんだか可笑しくなってきて笑ってしまう。

それを見て、フェルナンド様はホッとしたような顔をして言った。

「エミリー嬢の領地は、魔道具の製造が盛んで……保管のための箱を作ってもらっていたんだ。中の物が風化しないようになっているものを頼んでいて。」

エミリー嬢も、多分そこに入れられるのが、お菓子の包装だとは思っていなかっただろう。

見せてもらった箱は、とても美しい細工が施された一級品だった。


「さて。そんな僕に引こうが呆れようが、婚約見直しは認めないよ。僕は、夢を叶えるんだ。」

夢、という言葉が、なんだか懐かしくて……

「それって……?」

思わず問いかけた私に、

「卒業パーティーまで、秘密だよ。」

そう言ってフェルナンド様は、口をつぐんだ。

次でミレーヌ編、ラストです!

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