こんな賭けなら負けてもいい ミレーヌの駆け引き2
意外なことに、フェルナンド様は街の人達によく知られていた。ただし、辺境領主の息子エルナン、の愛称で。
「フェルナンド様は、よくこちらにお忍びを?」
周りに聞こえないようにそう聞くと、
「ミリー。僕のことは、エルナンって呼び捨てにしないとだめだよ?」
(ミリーって…!!…いや、はぐらかされたわね。)
にっこり笑って返すフェルナンド様に、これは常習犯だな、と確信する。
第一、足に迷いがない。しかも歩くのが速くて焦ってしまうのだが…。
しっかりとつながれた手は今も放されないままで。
私はなんとか彼について行った。
「あら、こんにちはエルナン。綺麗な人を連れてるのね。恋人?」
声をかけられたのは、露店で野菜などを売っている女性だ。
「あ、…」
言葉に詰まっていると、
「うん。そうなる予定のコ。」
さらっと言ってのけながら、フェルナンド様は店の商品を見る。
(婚約者ですけど!)
あとから心の中で言ってみるけれど、恋人になる予定なのと、どちらが偉いのかはよく分からなくなる。
フェルナンド様は商品を見ながら会話を続けた。
「野菜の種類、ちょっと少ない?」
「ああ、北の地方で冷害があってね。芋類とか穀物が不作だったのさ。しばらくは貯蔵していたものを卸してくれてるけど、念のため少しずつ店に並べてる。」
「そうか。調味料は?」
「そちらはまあ、普通だよ。ああ、でも最近は香辛料が増えてきたね。」
ああ、と思った。
これは、フェルナンド様なりの視察なのだ。
その後も、馴染みらしき露店の店主や、知り合いらしい人達に声をかけて話しながら、さらっとミリーとして紹介された。
みんなニコニコしながら受け入れてくれて、緊張もだいぶとけていく。
ただの会話なのだが、そこから分かる情報は多い。
初めての街歩きは勉強になることが多くて…そしてとても…
(楽しいわ…!!)
「はい、ミリー。」
噴水のほとりで休憩していると、フェルナンド様がふいっといなくなり両手に何やら持ってきた。
渡されたものは…円形の…揚げパン?
「ドーナツだよ。かじりついて食べよう。」
「…!だめですよ!せめて毒味を…!」
さすがに見過ごせずに止めようとしたら、
「じゃあ、はい。」
と口に入れられてしまう。
どうしょうもなくて一口かじると……
(!!)
「っふ!美味しいみたいだから、僕ももらおう。」
フェルナンド様がそう言うと残りを口に放り込む。
(あ!私の食べかけ!…か、間接…!)
わたわたしてしまう私を、にやりと見たフェルナンド様は、何が気に入ったのか、その後も私に食べさせて、残りを自分が食べる、というのを繰り返した。
もちろん、2回目からは手でちぎってもらったけど!!
ドーナツは数種類あって、ほんのりした甘さと揚げたての香ばしさがくせになる味だった。
揚げたお菓子をあまり食べないため、新鮮だったのもある。
それに…。
悔しいけれど、得意げなフェルナンド様を見ていると、取り繕うのが何と言うか、もったいないような気持ちになって、素直に楽しんでしまったことが大きいような気がする。
「そろそろ帰ろうか。」
そう言うフェルナンド様に手を引かれながら。
「今日は、視察に同行させていただいてありがとうございました。」
と感謝を伝えると、苦笑いされる。
「違うよ、ミリー。今日は…」
「分かってるわ。素敵なデートをありがとう、エルナン。」
ずっと驚かされてばかりだった意趣返しに、そう言ってフェルナンド様の手を両手で包み込む。
フェルナンド様は呆気に取られて、少し幼い顔になって…それから、今までで一番キラキラした笑顔を見せた。
つられて私も気の抜けた笑い方になってしまう。
そうやって、完全に油断していた私は。
言い訳の準備も、叱られる覚悟もしないまま帰ってたっぷりとお説教をされて。
今までにないくらいに落ち込むことになった。
フェルナンドの方も、ミレーヌといろいろあったようです。
次回、久しぶりにアマリエも登場します!




