賭けで未来が拓けるなんて クレアの誤算4
卒業パーティーの日が来た。
アランからの提案に思わず頷いた私は、そのままなしくずし的にアランのパートナーとして出席することになった。
ドリドとミゲルも、学園祭で知り合ったご令嬢と参加することになっている。
今日は、何を言っても譲らない、最強メンタルになったアランから、ドレスと小物一式を、ヘアメイクの侍女さんのおまけ付きで渡されていた。
にこやかで柔らかい口調なのに、有無を言わせぬ雰囲気のデズモンド家の侍女さんは、パーティーは夕方からだというのに、早目に昼ごはんを食べるように言い、そこからいろいろなケアが始まった。
もうすぐ伯爵位をいただくとは言え、男爵の我が家では、身支度については助けてもらう部分はあっても全ておまかせにすることはない。
侍女さんもまた、何を言っても譲らずに、結局すべてを任せることになった。
「会心の出来です。アラン様も見惚れること間違いなしです!ただ…眼鏡はこれしかお持ちではないですよね?」
侍女さんの残念そうな顔に申し訳なくなる。
黒縁の主張が強い眼鏡は、メイクに完全に反発している。
せめてもう少し柔らかい色なら良かったのに…。
そこだけ少しの引っかかりを抱きながら、かけないわけにもいかず、私が待ち合わせの寮玄関に行くと、ミゲルが既にいた。
「ミゲル!パートナーのお迎え?」
「…ああ。…あと、お前にも用が…ちょっと眼鏡を貸せ。」
「?いいけど…。」
眼鏡を外して渡すと、ミゲルは内ポケットから何かを取り出して、眼鏡に吹きかけた。
それから、私に眼鏡をそっとかける。
「今のは?」
「鏡を見てみろ。」
言われるままに設置された鏡を見ると。
「あれ?眼鏡が消えてる?」
触るとあるのに、無いみたいだ。かなりよく見ないと、存在が分からない。
「学園祭のパーティーでは、途中から眼鏡をかけていただろ?ないと不便だけど、ドレスアップした時は本当はかけたくないんじゃないかと思って…。」
(もしかして…)
「作ってくれたの?わざわざ??」
「思いついたことがあったから、試作しただけだ。…試してみてくれればいい。」
ミゲルが口元を隠して視線をそらす。
…デレている。
「ありがとう、ミゲル。すごく嬉しい。」
「…そうか。なら、いい。」
そう言ってフッと笑うミゲルは、色気がヤバい。
(今日のパートナーさんは、確実に惚れるな。)
「なあ、クレア。お前は、アランと…。」
「ん?どうしたの?」
「いや、いい。もうすぐ帰るんだ。悔いがないようにやりたかったことはやりきれよ。で、帰ったら…」
「おー!ミゲル早いなあ。クレアも!お前らっていつも待ち合わせよりだいぶ早く集合するよなー。」
「ドリド…。」
チッ。
(ミゲルが舌打ちした…!)
何かを言いかけていた気がしたけど、その後はドリドが喋り続けたため、聞けなかった。
やがて、二人の相手が降りてきて、それぞれ会場に向かう。
直前まで生徒会でこき使われていたというアランが駆け込んできて、私はアランの肘にそっと手を置いた。
「今日は眼鏡は?」
聞かれて、スプレーの話をすると、まじまじと見られて心臓が跳ね上がる。
「…これは、ヤバいな。」
アランは小さく呟いた後で、
「俺から離れないで。誰かから声をかけられてもついて行ったらだめだよ。」
と真顔で言われてしまった。
(子ども扱い?それとも…。)
思わずそんなことを考えて、慌てていつもの呪文を唱える。
(私はモブ。ヒロインじゃない。自惚れるな。)
自分でも、卑屈だなと思う。
でも、そうしないと、どうしたらいいのか途方に暮れてしまうのだ。
アランから名前を呼ばれると弾む気持ちに。
アランにほんの少し触れているだけで震える気持ちに。
アランの笑顔に温かくなる気持ちに。
自分ではダメだと言いながら、別の誰かがアランに並ぶことを、想像ですら拒絶してしまう、こんな気持ちに。
名前をつけるなら、「恋」しかないに決まっている。
片思いなら、振られればそれで良かったのに。
苦しくてもきっと心から幸せを願えたのに。
アランの真っ直ぐな目から、どうにかして逃げなくてはと焦る。
アランから聞いた、レオンとアマリエの賭け。
この卒業パーティーで、何も無ければレオンの勝ちだ。
時間は、少しずつ、確実に過ぎていく。
賭けにはレオンが勝ち、卒業パーティーは盛大に盛り上がった。
庭園に連れ出された私は改めてアランから告白され、あらがう言葉を失って。
そして私は…アランの顔のドアップで記憶がとぎれ、気がつくと、知らないベッドで寝ていたのである。
すみません、終われませんでした…!次で本当にクレア編ラストです!




