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賭けで未来が拓けるなんて クレアの誤算3

(な…なんでこうなった!?)


「じゃあ、またね。」

「は、はい!」

相変わらず爽やかに去るアランに、ぎこちない笑顔で手をふる私。


いやいやいやいや。

疎い私でもさすがにわかる。

アランの私を見る目が…甘いっ!


初めは、何だかよく遭遇するなあ、くらいだった。

これまでなら、一言二言会話して、さよならするという、ほぼすれ違うだけの遭遇だったのに。

「今日は、何読んでるの?」

から始まり、何故かアランは近くに座って会話を続けようとすることが増えた。


近くとはいえ、失礼にならない適度な距離。

そのあたりが、チャラいドリドとは違って誠実で素敵…!

じゃあなくて!


「やらかした。絶対にやらかした。」

思い当たるのは庭園での会話。

ヒロインがするべき好感度アップイベントを、私がやってしまったのだ。

しかも相手はアラン!

自分でやらかしといて何だが、顔も声も性格までどストライクの相手から、好意を向けられるという異常事態に、もう、私、えいちぴーが…!!


しかも学園祭にむけての脚本作りを、生徒会から全面バックアップしていただけることになり、ゲームの登場人物たちとの接触が増えた。

美男美女の過剰摂取で、いろいろ限界がきている。


「勘違いしては、だめ。」

だから、自分に言い聞かせる。

周りをこんなキラキラした人に囲まれて。

まるで自分もその一員になったように錯覚して。

これは夢だ。つかの間の夢だ。

アランからの好意だって、私が都合よく、彼の言動を解釈してしまっているだけかもしれない。


外国の留学生クレアは、この、キラキラした世界のメインキャラクターではない。

夢だとわかっていれば、覚めた時に絶望しない。

観客席にいれば、登場人物のどんな行動にも傷つかないですむ。

まだ。まだ大丈夫だ。

私は、名もなき一般人。モブ。立場をわきまえろ。


でも、みんなでわいわい何かを作り上げるワクワクに酔って。

ましてやそれが、自分が作った脚本を現実にするための作業で。

作り上げた達成感はそれはもう大きくて。

何よりも、アランが私のアイデアに耳を傾け、真剣にそれを実現できるように考えてくれることが嬉しくて…ときめいて。

(きっとこんなこと、一生ない。最後の思い出だから。今だけ…。)

そんな言葉で気持ちをおさえながら私は学園祭に関わり続けた。


学園祭の打ち上げパーティーに出席し、ミレーヌ様とアマリエ様の侍女さんたちが、ドレスアップを請け負うという話を最終的に受け入れたのも、私にとっては最後の冒険のつもりだったのだ。


「おお!すごい!クレア、可愛いじゃん!」

会場に行く途中で、ドリドから声をかけられた。

(うん。これはわかる。ドリドだ。隣りにいるのは…たぶんミゲル?)

確認しようとして、無意識に近づいていたらしい。

「…近い。そんなに睨むな。」

ミゲルだと確信するのと同時くらいに、そんな声と共におでこを指で押された。

「あう!」

「ははっ大丈夫?二人とも。」

ドリドが楽しげな声で笑う。

「二人とも?」

「うん。ミゲルも顔があか…いてっ!」

「うるさい。いくぞ。」


何やら不機嫌そうなミゲルに引っ張られて、ドリドも遠ざかる。

「あっ…!」

できればだれか、会場の安全なところへ私を連れて行って…。

頼めそうな二人に去られて仕方なく、私はゆっくり前進して会場に向かう。

空気を感じ、気配を感じ、注意を払ってなんとか会場の入り口付近の壁際を確保すると、私はとりあえず眉間をほぐして、目を自然な感じで見開いた。


この会場にはアランも来る。

アランは気づいてくれるだろうか。褒めてくれるだろうか。

アランにこの姿を見てもらって一言もらったら、私はそれを胸に刻んでそれで、今度こそモブらしく生きていくのだ。


それなのに…


「純粋な優しさしか、俺は感じなかったよ。あの言葉は、確かに俺を救った。それは、言葉が大事だったんじゃない。君が、さも当たり前のように、本心から言ってくれたのが分かったからだ。クレア、俺は…。」


アランに会えて、勇気を出してにっこり微笑んでみたものの、アランはドレスに対して何もコメントせず、ボーイに眼鏡を頼んでソファに私を座らせた。

少し残念な気持ちになったのも束の間。

アランは、逃げられないくらい真っ直ぐ、私を見た。

どんな言い訳も逃げぜりふも封じて、真っ直ぐに。

だから、私は、遮るしかなかった。


「ありがとうございます。アランさん!最高の思い出ができました!」

「聞いて。俺はクレアのことが!」

「だめですよ、アランさん。あなたは素敵な、ヒロインみたいな女の子と幸せにならなくちゃ。私はそれを影で見守ったり、さりげなく助けたりできたら充分なんです。この世界で生きられただけで、あなたに会えただけで、幸せです。」


私は、上手く笑えていただろうか。


「君は、そうやってずっと逃げるの?モブだとか、ヒロインだとかにこだわって、主役になろうとはしないの?」

「私は、主役にはなれません。見た目も普通だし、何やっても才能はないし、特別な力もありません。だからあなた達に会いたくて一生懸命勉強しました。こうやって会えただけで、奇跡なんです。」

「…」

これが、私の精一杯だ。あなたに会いたかったのは、本当だから。私ではあなたを幸せにできない。それもまた、悲しいけれど事実だ。


「あとは、卒業パーティーだけかあ。…卒業パーティー…。卒業パーティー?」


アランが言葉を発さなくなり、私は会話を終わらせるべく空気を変えようと話題を変え…そして墓穴を掘った。

生徒会の一員として、たくさん助けてくれたアマリエを、完全に大好きになってしまっていたがゆえに。


「アランさん!アマリエさんに忠告しないと!卒業パーティーは危険です!ところどころ記憶と違うけど何かが起こるかも…!」

そうまくし立てた途端に、アランの目に光が戻った。

「…ねえ、クレア。今実は、とある賭けが行われているんだ。」

「え?賭け?」

「何もせずに見届けてみない?現実の俺の、現実の友達の奮闘を、さ。」


そして、私は知ることになる。

この世界がなぜ、記憶と違うのか。

その犯人が、転生者アマリエではなかったということを。

次回、クレア最終回の予定です。

実は卒業パーティーの日にミゲルが…!

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