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賭けで未来が拓けるなんて クレアの誤算2

「はじめまして。生徒会から、留学生の担当になった、アラン=デズモンドです。困ったことがあれば、何でも頼ってほしい。」


どストレート。


留学先の学園について、最初にであったのが!まさかの!

「アラン=デズモンド!あり得ない奇跡だわ。世話役の生徒がまさかのアラン様!そんな偶然が…これはなに?私の人生における運をこの時に全振りした感じ?動いてる!しゃべってる!尊い!!」


私は時々、思ったことが無意識に言葉に出ることがあるらしい。

ということを知ってはいる。

知ってはいるから、気をつけては、いる。

しかも、そういう時はちょいちょい前世の言葉が出るため、周りからは変な呪文に聞こえたりするようで。


「表情見れば、悪意がないのは分かるから、呪われてるとは思わないけど、ちょっと不気味だよねー。慣れたけど。」

ドリドからはそんなふうに言われているので、こちらでは特に気をつけないといけないと、思っては、いたのだが。


(初っ端から最推しのアラン様登場なんて、無理です!なんか言ってないと鼻血が…!)


自分の口から垂れ流している意味不明の言葉を頭のどこかでは意識できているのに、止まらない。


アラン=デズモンド。

デズモンド家は、代々騎士団に所属する武のエリートで、現当主は騎士団長。

六歳年上のお兄様がいて、やっぱり騎士団に所属。


頭脳派の攻略対象が多い中、肉体派のスポーツマンタイプだが、驕ったところはなく、大変爽やかである。

子どもの頃の初恋の相手を真っ直ぐに成長させたような青年アランは、ハイスペックでありながら謙虚で優しい。

腹黒王子フェルナンドや、裏工作が得意なレオンと肩を並べて一目置かれているのは、そんな誠実さ実直さに好感を持たれているからなのだが、いまいちその価値が分かっていない、不器用なところがまた…!!


あまりに大好きだったため、ハッピーエンド、バッドエンド、ノーマルエンドを全て見たあと、もう一度ハッピーエンドを見るためにプレイしたキャラクターである。


そんなアランが、目の前にいて。

しかも私に向けて御言葉をおかけに…!!


「クレアさん。何か希望はありますか?」

「ひゃん!!…か…神!」


もう、何語をしゃべったのか記憶にない。

「神?俺?」

不思議そうな顔も、素晴らしい!

「あ!いえ、違います!いや、違わないけど、最推しが動いてしゃべって微笑みかけて!!幸せです!」

とりあえず敵意がないことだけは伝えないと!

一生懸命しゃべったが、ドリドとミゲルの引きつった顔を見れば上手く行っていないことは分かる。

「ありがとう、でいいのかな?じゃあ、みんなでひと通り見て回りますか。」

そんな私に爽やかな笑顔を向けて、嫌な顔ひとつせずに案内してくれるアランに対して私はとうに限界で。

(鼻血、だめ。気絶、だめ、絶対。)

最低限守ることを胸に刻んでなんとかその時間を過ごしたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おかしい。」

異変に気づいたのは、留学生生活が始まって2週間くらいしてから。

寮での生活にもだいぶ慣れ、知っている学園の施設を見て感動したり、フェルナンドを始めとする知っている登場人物の名前を聞いたり遠目から見たりしてしばらくはしゃいでいたのだが。

見るはずの物語が一向に進行しないことにさすがに違和感を覚え始めた。


そもそも、である。

「フィリア=ラルフェン?いや、うちにはいないよ?」

アランに、意を決して聞いてみたら、盛大な肩透かしをくらってしまった。

(ヒロインが入学すらしていない…だと?)

他にもある。ミヒャエル=カメリアも、学園にいなかった。教師としているはずの、王弟、ルイも。

彼らは、ゲームにおいて、いなくてはならない重要人物なのに。

ゲームと同じ人物もいる。第一王子のフェルナンド。宰相の息子レオン=リューズ。アランもいるし、悪役令嬢アマリエも…。

(でも、アマリエは王子の婚約者じゃないし、フリー。なおかつミレーヌと仲が良くて、ミレーヌの方が婚約者…。)

おかしい。

そこで、新たな説が生まれる。


この世界は、ゲームを土台とした、悪役令嬢主役の物語である。

こちらもテンプレ。

一枚上手の転生者、アマリエが、美貌と権力を武器に裏で根回しをして、卒業パーティーでざまぁ展開!!

(…でも、一体誰にざまぁするのかな。)

もうこの学園に、アマリエの敵になる人はいない気がする。

いやいや、そこはゲームの強制力とかで事件が起きて…。

そんな期待?を持ちながら、情報収集のためにお茶会にも参加してみたが、どう見てもこの学園はほのぼのしていて、変な事件が起こりそうな予兆すらない。


アマリエとも話す機会はあったが、彼女はなんというか、そういうタイプではないような…。

でも、アマリエにとって良い状況を誰かが作り出しているのは確かだ。

得体のしれない誰かの意図を感じながら、まあ、それでも聖地巡礼くらいの刺激はあるし、何より攻略対象のメンバーを見かけるのは間違いなく眼福だったためそれを味わいつつ、私は読書にのめり込む日々を過ごしていた。


だからうっかりしていたのだ。

素が出て、モブに徹することができなくて。

まさか、アランとの距離にバグが生じるなんて思っていなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


イベントが起こる場所を、覚えている限り周って。

気が済んだ私は、読書の穴場を探し始めた。


一人で没頭したい。

でも、外の開放感は捨てがたい。

たどり着いた先は、講堂の庭園だ。


比較的小さな庭園で、噴水もオブジェもないけれど、丁寧に手入れされているし、木の周りのブロックは、腰を下ろして木にもたれるのにちょうどいい。

自分で発見した穴場、という愛着もあって、一人で外で読みたい時はここ、と自分の定位置を決めていた。

その日もそうやって本を読んでいたのだが。


ガサガサ

いきなり音がして固まっていると、誰かがやってきて木の反対側にしゃがみ込んだようだった。


「情けないよなあ。」

(アラン様?!)


こんなびっくりイベントがあって良いものだろうか?

しかし、聞き間違いようがないその声に、緊張がさらに高まり、完全に硬直してしまう。

出遅れたのはもう取り返しがつかないので、せめて気付かれずにやり過ごそうと心を決めて、最小限の呼吸で身を潜めていたのだが…。


「はあ。」

アランがため息をついて、とん、と木にもたれたのに驚いて、

「きゃっ!」

声を上げてしまった。


「あー、読書?驚かせてごめん。」

「いえ…。ここは人もあまり来ないし、イベントも記憶になかったので…。」

アランから話しかけられて、またもやごにょごによと良くわからないことを口走ってしまう。ほんの少しの気まずい沈黙。


「あ、じゃあ、ごゆっくり。」

「あ、ちょっと待ってください!」


呼び止めたのは、自分でも驚いた。とっさのことだったから。


「何か?」

アランに笑顔がない。それだけのことが気になって、つい言葉を続けてしまう。

「あ、あの!何だか元気なかったので…。気になってしまいました。すみません、呼び止めて…。あの!アランさんは、素晴らしい方なので!元気を出してくださいね!」

愛想笑いの一つでもして、去っていくと思っていた。

なんのことはない中身のないセリフ。

気の利かないそんなセリフに、アランは意外にも反応した。


「素晴らしい…ね。一度うちの兄貴に会ってみる?多分俺のこと、残念な人に感じると思うよ。」

(…へ?それがアラン様をこんな顔に?)

「…確かにそんな設定あったような?でも、実物を見てなお、そんなことを思う人なんているのかしら?」


後半は声に出ていたらしい。目があって、私はスルッと思っていたことを続ける。


「お兄様ができる方なのは事実なのでしょうが、それでアランさんの価値は変わるのですか?身に付けた知識も技術も、フェルナンド様からの信頼も、御学友との友情も、全てアランさんが自分の努力で得られたものでしょう?昔から、一時の英雄ではなく、そういった方のほうが、大きなことを成し遂げ、歴史に名を残しています。何も恥じることはないのでは?…って、モブのくせにすみません!偉そうに!でもヒロインが言わないなら私が言っても良いですよね?」


似たようなことを、ヒロインが言っていた気がする。たぶんもっと包み込むような言い方で、可愛く手なんか握りながら。

私にはこんな風に、可愛げのない言い方しかできない。

でも、本心だった。

他のどの攻略対象も敵わない、アランの真っ直ぐさ。

拗ねてみせたり、からかってみせたりするけれど、素直に相手を認め、平等に尊重できる力は、目立たないけど、稀有だ。

(だから、私の最推しは、アラン様だった…。)


本当は、こんなモブではなくて、可愛いヒロインみたいな娘に言われて、癒やされて欲しい。

アランにはその価値があると私は思う。

そう考えるとなんだか、申し訳ない気持ちに…。


「じゃあ、行きますね!」

いたたまれなくなって、私はその場を去った。

自分の背中をみつめるアランの心に灯った『何か』になんか、一切気づかずに。

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