賭けで未来が拓けるなんて クレアの誤算1
ブックマーク100突破が嬉しくて、ついに書き始めてしまいました、クレア編!
エンディングまで再度頑張ってみようと思います。お付き合いいただければ幸いです!
モブ
mob(群衆を意味する英単語)から由来し、物語における主要人物ではない名もなき一般人をさす語。
私は、割と早い段階で、自分がそれに当たると自覚した。がっかりする、というよりはかなり前向きに受け止めたと思う。
もともと本を読むのが大好きで、ファンタジーも読み漁っていた。社会人になり、紙の本をじっくり読む時間がなくなると、電子書籍に走り、そのバナー広告から、恋愛ゲームにも手を出した。
物語を読む感覚で進められるゲームでは、選択肢によってエンディングが変わる。ハッピーエンドのほうが好きではあったけれど、バッドエンドもまた、意外なドラマ性があって読み応えがあったりして、変なこだわりで全てのエンドをコンプリートしていた。
ちなみに私は、生まれてすぐくらいには記憶が戻っている。
赤ちゃんなのに、大人の記憶がある、というパターンもまあまあテンプレのため、異世界転生という現実を受け止めるのも早かった。
分からなかったのは、自分が果たして「どこ」に転生したかだ。
付けられたクレア、という名前にも聞き覚えはない。
両親の会話に出てくるものも、分からない。
(ここは、一体どこ?)
西洋イメージの世界。
魔法らしきものは存在するが、そこまでみんなが使えるわけではない。
自慢じゃないが、これまで読んできた本やプレイしたゲームについては忘れていない自信がある。その私の記憶にないのだ。
全く知らない世界である可能性ももちろんある。あるけれど…。
(ここが「どこ」か知りたい!あわよくば、私が好きな世界であってほしい!)
そんな願いは、たぶん自分が思っていたよりも強くて。
そんな原動力で暴走した私は、自分の可能な限りこの世界のことを、ものすごい勢いで貪欲に学び始めた。
そして、知識を山程とりいれて分かったこと。
ここは、私の望み通り、知っていて、かなり好みのゲームの世界だったということ。
ただし、この国ではない。
その物語が紡がれるのは、隣の国だ。
貴族名鑑で、物語に一致する家を見つけた時は胸が震えた。
その世界において、物語の紡がれない国に生きる1人。
かといって、この国で、何か特別な役目があるわけでもなく、前世の記憶もここではなんの役にもたたず、平凡な見た目と生い立ちの、The一般人、モブ。
ヒロインになりたいなんて、だいそれた望みがあるわけじゃない。
でも、一般人として、少し、ほんの少しだけ、大好きな物語の世界に関われるなら。
いわば、エキストラとして参加できたなら。
そんな望みを抱いたことが、今から思えば全ての始まりだったんだと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「しっかし、クレアまで留学生に選ばれるなんてねー。俺たちって腐れ縁?」
国境を越える馬車に揺られながら、ドリドが手を頭の後ろで組みながら笑う。
「…え…あ、いや、そんな運命的なものでは。」
「いや、すごい確率じゃん。親同士が仲良くて、小さい頃からの幼なじみの三人が、3つしかない留学生枠に三人とも入るなんてさ。」
ドリドの言うことは正しい。ゆえに、一部女子からはかなり威圧的に、釘を差されている。
『二人に手を出したら許さない』
(許さないって、言われても…そもそも二人をそういう目で見たことはないです!)
「ドリド、からかうな。クレアは優秀たから選ばれたんだ。彼女の歴史を始めとした知識の量は群を抜いてる。」
「優秀たから、ねえ。もう!ミゲルったら、そんなふうにクレアを褒めると自動的に俺も褒めることになるんだけど!?俺も優秀?優秀?」
「やめろ。見苦しい。」
笑顔でからむドリドと冷たく返すミゲル。
…この関係を眺めていたい一部「腐」女子からは、威圧的にレポートの提出も求められた。
「…クレア。魔導具の効き目はどうだ?」
ミゲルの視線は私の耳…ではなく、耳に飾られたピアスに向いている。
「はい、今のところ快適、です。」
魔導具開発のために、日常生活で不便なことを聞かれて、私が答えたのは『馬車酔い』。
馬車の中でも本を読みたい。
でも、かなり高い確率で酔ってしまう。
そんな悩みはなかなか新鮮だったらしく、ミゲルはちゃんと研究をしてくれた。
「要は、読書という静止しているはずの状況で、体が揺れという運動を感じて起きるんだろ?馬車自体じゃなくて、揺れを感じるバランス感覚の方をごまかして体を騙せば…」
とまあ、そんな理屈で開発されたのが、このピアス。
試作品の装着をして、今試しているというわけだ。
実際に動く時はバランス感覚が狂っているとえらいことになるので、馬車で本を読む時にしか役にたたない…そしてそんな人は多くない…のだが。
それにしても…と、改めて向かいに座るドリドとミゲルを見る。
彼らは、充分に主役がはれるスペックがある。
爽やかで、コミュ力抜群。人たらしの男、ドリド。
基本塩対応でありながら、好きなことには目の色が変わる。レアな笑顔が破壊級の男、ミゲル。
浮かぶ。あらゆる物語で自然とヒーローにおさまる二人の姿が浮かぶ!
本来、そこに三人目としておさまる幼なじみは、おいしいヒロインなのだろうけど。
(ごめんなさい。無理です。)
当然ながら、私には務まりません。
ピアスの効果を確かめるために必要だから、という大義名分に寄りかかって。
私は会話から外れると、手元の本に目を戻す。
今読んでいるのは、完全な娯楽小説。留学生に選ばれるために、高成績をおさめるための試験勉強や語学の勉強にどっぷり浸かっていた反動で、気楽に読める本を読みたくて準備した。
向こうについたら、物語の世界を堪能しつつ、読める本はありったけ読破するつもりだ。
…そう。これから行く先では、もう物語が展開されているはずだ。
(彼にも、会えるだろうか。)
ふと、眩しい笑顔を浮かべる、『彼』を思い浮かべる。それから、私はゆっくりと本の世界に没入していくのだった。




