59.丸投げされましたけど何か?
「はっきり申し上げまして、小官も護衛の方々と同じく救出に動くことは反対です」
『なっ!?………………あなたは、あなたはフィネークを!部下をなんだと思ってるんですの!』
怒りの込められた言葉が俺に向けられる。
彼女にとっては大事な友人であり部下であるし、俺にとっても大事な部下で俺がほとんどスカウトに近いことをして艦隊に加わってもらった存在だ。
そして、フィネークが俺に対して抱いている感情をセシルも理解している。
だからこそ、それなのに見捨てるような発言をする俺が気に食わないのだろう。
「部下は大切です。だからこそ、艦隊に所属する多くの部下を危険に晒す行為は同意しかねるわけです」
『き、危険にさらすって言ったって……何か手はあるはずですわ!』
「とおっしゃいますと?」
『な、何かその……誰も危険じゃない方法が……」
「それを我が艦隊で行えると思っていらっしゃるので?」
『そ、それは……」
セシルは歯を食いしばり、耐えるような顔をする。
理想であるやりたいことと、現実でできることのギャップが激しすぎるのだ。そんな顔になるのも仕方のないことだろう。
だが、それでも現実は見なければならない。
現実を見なければ、
「……我が艦隊で行なうことで、訓練生の捜索に繋がることなど存在しません」
『そんな……』
セシルの声は震えている。
苦しいだろう悔しいだろう情けないだろう。常人では不可能とされる功績を打ち立て、強敵を打ち倒して英雄のような存在になっている自分が、友人1人救えないのだから。
だが、だからこそ人は成長するものだ。自分の足りなかったものに気付くのだから。
『……ごめんなさい。ごめんなさいフィネーク。もっと警戒しておけば良かった。もっと自由を縛っておけば良かった。護衛の1人くらいつけておけば良かった。私が、私が愚かだったばかりに……』
『セシル様……』
溢れる涙が、彼女の頬を伝う。そんな様子の彼女に、護衛達は背中をそっとさするくらいしかできない。
ただ、彼女は強くなるだろう。無力感は人を強くしてくれる。そして、努力の糧となってくれる。
……では、そんな成長した人間には、少しご褒美があっても良いと思わないか?
例えば成長に見合った結果、とかな。
「……確かに、我々の艦隊では訓練生の発見など不可能です。ですが、丁度良いことに現在情報が届きまして」
『…………な、何のですの?』
ばっとセシルが顔を上げる。その瞳には驚愕と、そして期待が含まれていた。
そんな彼女に俺は淡々と、
「訓練生の居場所の、です。捜索は無理ですが、救出なら行えそうですよ。隊長」
『なぁっ!?………………行きます!行きますわ!少しでも速く、フィネークを!!』
俺の示した情報に彼女は食いつく。そんなに輝く表情をしてくれるなら、俺としても頑張って調べてもらった甲斐があったというものだ。
今俺の操作するモニターには、
『ドワーフの分の借りは、半分くらい返したから』
とだけ書かれたメッセージと共に、詳細なフィネークの居場所が送られてきていた。
送り主の名は、ミミ・タチバナ。
俺が手塩にかけて育てた逸脱者の1人であり奴隷商でもある彼女が、その奴隷商としてのネットワークをフルに活用して見つけてくれたようだ。
どうやら、ドワーフ送り込むときからある程度こちらに何か問題が起こるのを予想して手先の奴隷を送り込んでたみたいだな。
さすがは俺が見込んだ逸脱者。優秀だ。
……この通信で敵国にも俺たちの繋がりがバレるかもしれないが、これは仕方がないだろう。どうにか上手くドワーフを使って、俺と言うより国とミミの繋がりが強くないように見せてカバーする必要がありそうだ。
『ここに、ここにフィネークがいますのね』
『いきましょう。セシル』
『ええ。ダリヤ。愛する友のため!』
良い感じにエモさを出しながら、セシルとダリヤのかけ声と共に艦隊が動き出す。
行き先はとある基地。通常の基地と一見違いはないように見えるが、実際の性能は他所と大きく違う場所だ。
非常に強力な装備をいくつも搭載し、非常に堅牢な物となっている。
ここを打ち破るにはそれ相応の力が必要だろう。
そしてまた、その力を上手く使う策も。
当然セシル達はその作戦も、
『大佐。どうすれば良いと思いますか?』
『艦隊全体への指揮はお願いしますわ。私はやはり戦闘機体で動き回りますので……』
作戦も指揮も、俺にまるっと丸投げらしい。
俺は流石に頭を抱えざるを得なかった。
なにせ、数日前に行なったドワーフ救出よりも圧倒的に難易度が高いんだぞ?敵が強い上にフィネークの長距離射撃がないのは大問題だ。普通に考えて勝てるわけがない。無理ゲーが極まってるぞ。
せめてもう1艦隊くらい援軍が欲しいな。
「とはいえこの敵国の中に味方が来ることは難しいだろうし……」
フィネークが何をされるか分からない。だからこそできるだけ早く救出する必要がある。
タイムリミットは、すぐそこまでせまっているのだ。




