58.攫われたらしいですけど何か?
1人で淡々と敵から隠れつつ合流を急ぐ中。艦隊から通信が来た。
それは、作戦が成功したことを伝えるもの……ではなく、
『た、大佐!大変ですわ!』
「……どうされました?緊急事態でしょうか?」
『緊急事態。緊急事態ですわよ!フィネークが!』
「フィネーク……訓練生が?」
フィネークに何かがあった。そういうことなのだと思う。
フィネークが殺されたのかと思ったが、常に船の中にいるフィネークだけが死ぬとも思えない。ならば何があるかと考えれば何かミスをしてトラブルでも引き起こしたとか、そんな感じだろうか?
フィネークはドジっ娘属性を持っているし、充分にあり得ることだ。
……なんて思っていたのだが
『フィネークが、フィネークが攫われてしまいましたの!』
「……………………は?」
落ち着くことを心懸けていた俺でも、流石に間抜けな声を出してしまった。
なにせ、あのフィネークが殺されたりドジったりしたわけではなく、攫われてしまったというのだから。フィネークは外に出ないはずなのに、何故ピンポイントで1人連れ去られるのか。
部下が裏切ったのかとか色々と考えることはあったが、いったん落ち着いて
「詳しい事情をお聞かせ願いますか?」
『勿論ですわ!』
セシルから詳しいことを聞くことにした。
それによって分かったことを箇条書きでまとめる(セシルも気が動転していて、必要のないことをいったり同じことを繰り返したりしたため)。
・ドワーフの救出は上手くいき、基地からドワーフ以外も含めた奴隷を全員連れだした。
・奴隷達は拘束していたが、ドワーフにはある程度自由を与えていた。
・あるドワーフが熱心にこの艦隊のことを聞いており、案内して欲しいという要求が来たので了承。
・案内中にドワーフはフィネークを人質にとって、逃走。
・フィネークが人質だったこともありセシルやダリヤの行動が遅れてしまい、結局追跡をするのが遅くなってしまった。
・フィネークの行方を捜しており、俺に泣き付いてきた(←今ここ
という感じらしい。
思ったより凄いことになってるな。
まさか、ドワーフがこちらを裏切ってくるとは思わなかった。
しかも、フィネークがセシルやダリヤと仲が良い上に訓練生で実力が低いことを利用してまでの行動を取ってくるのは想定外も良いところだ。ここまで深く短時間でこちらを探ってくるとはな。
「ただ、セシル様が人質に取られなかったのは少し疑問ですが」
『それもそうですわね……けど、そんなことを今言っている場合ではないですわ!フィネークを早く助けに行きませんと!』
「……そうは言いましても、この敵国の中何も手かがりがない状況で動き回るのは愚策では?」
『なっ!?そ、それでも何もしなければフィネークが!』
セシルはかなり焦っているらしい。
このまま動くことがどれだけ危険なことなのか本当に分かっているのだろうか……。友人を助けたい気持ちは分かるがな。
フィネークを助けるために危険を冒そうとするセシルに危機感を感じるのは俺だけではないようで、
『セシル様。護衛として流石にそれは許容できかねます』
『なっ!?』
護衛。それも、セシルが選んだほとんど行動に口を挟んでこない護衛達。
今まで1人で戦闘機体に乗るセシルを止めなかった彼女たちだが、ついにここにきてセシルに待ったをかけたのだ。これは流石にセシルにも予想外だったようで、
『い、今まで許容していたではないですの!なんでこれは許されませんの!?おかしいですわ!』
セシルはおかしいと叫ぶ。彼女たちの判断は、今までの行動から考えて絶対におかしいと。
だが、そんな言葉を受けても彼女たちは顔色1つ変えず、
『今まで許容してきたのは、全てセシル様やこの艦隊にそれを遂行する能力があると判断したからです』
『……では、今回の救出はその能力がないといいますの?』
『はい。残念ながら』
セシルの問いかけに、迷う素振りも見せず護衛達は頷く。そしてそれは俺も同意見だった。
この艦隊に、フィネークの救出は不可能だ。
『では……では!何もしないと言うんですの!?攫われたフィネークを!私の大切な友達を放っておくと言うんですの!』
『……残念ながら』
『っ!』
セシルが激しく表情をゆがめているのが伝わってくる。
そのようなセシルに対し、護衛達はどこか覚悟したような表情を浮かべていた。暴言を吐かれたり叩かれたりするだけでは治まらず、それこそ殺される覚悟するあるように見えるな。
……なんと言うか、貴族の騎士らしい覚悟だ。
堅苦しいし面倒ではあるが、命すらかけて命令を遂行するって言うあたりがいかにも貴族の騎士らしい。
俺は憧れないが、多くのものはこういった姿に心を打たれたり憧れたりするのだろう。
そんな護衛達に、セシルはまだ手を出さない。もう一押しで何かとんでもないことをしでかしそうではあるが、まだギリギリ耐えている。
そんな時だった。
『大佐は…………大佐はどう思いますの?』
俺に来た。
ここで機嫌を損ねたら確実に護衛達の首が飛ぶであろう質問を、ここで俺に振ってきた。
今、俺の行動に護衛たちの命が掛かってしまったのである。
俺はふざけんなと思いつつも、
「はっきり申し上げまして、小官も護衛の方々と同じく救出に動くことは反対です」
拐われるのはヒロインの役目ですよね☆




