57.捕虜を受け渡しますけど何か?
『……緊急の連絡だ』
艦隊に連絡が来る。内部連絡ではなく、艦隊に向けて外部から連絡が来たのだ。
通信の主は、
『お父様!?』
『公爵様ですか……何用でしょう?』
セシルの父親である公爵だった。
このタイミングで公爵から連絡が来るとは思っていなかったようで、セシルも驚いているな。ダリヤは緊急連絡を公爵がしてきたことに相当な問題が起きたのだと考えたようだ。難しい顔をしているぞ。
そんな2人の表情を一瞥した公爵はブリッジを見回すように目を動かし、
『お久しぶりです。ダリヤ様。……緊急事態のためダリヤ様へのご挨拶は終わらせてもらい連絡の方をするが、大佐はどこだ?』
俺について尋ねてくる。
ブリッジを見回したのは、俺の姿が見つけられなかったからみたいだな。
『大佐は捕虜達を乗せて、現在敵から奪った小型艦を運転中ですわ』
公爵に対して、娘であるセシルが状況を説明する。俺が直接通信に出ても良かったのだが、対応してくれるというのなら任せてしまっても良いだろう。そうしていてくれれば、その分俺が公爵の話を考察する時間にもなるわけだし。
『そうか。大佐は一緒ではないのか。それはそれで構わないが……実はそちらの艦隊に頼みたいことがあるんだ』
『何ですの?』
『我が家の密偵がドワーフの奴隷を発見したんだが、かなり危険な状況らしくてな。すぐに救出に向かって欲しい』
『っ!?』
セシルが目を見開き息をのむ。
一帯どこに驚いたんだろうな?密偵が見つけたところなのか、ドワーフが危険であるという所なのか。
どちらにせよそんな報告をされれば、
『分かりました。すぐに私たちの艦隊で救出に向かいますわ』
『うむ。任せた』
こちらとしては承諾をするしかない。
ということで艦隊は急遽救出に動くことになるのだが、
『大佐は……そのまま捕虜を送り届けてもらった方が良いですわよね?』
『流石に、捕虜を乗せたまま戦場に行くのは問題ですよね。大佐のところは1人で全て操作もしなければいけないわけですし』
セシル達からは、俺だけ1度帰国するように告げられた。俺が乗るのは敵国の船だが、公爵に連絡さえしておけば問題無いだろうと言うことになったのだ。
勿論俺が帰ることに異論なんてない。実際、捕虜が何をしでかすか分からない中で本格的な戦闘をするなんて言うのは非現実的だからな。
「それは構いませんが……」
『ん?もしかした私たちの心配をしていますの?』
『安心してください大佐。私たちでもやれますよ』
俺がいなくて大丈夫なのかと疑うと、正確に俺の意思をくみ取ったセシル達が自信ありげに答える。これ以上疑うのは実力を疑っているように受け取られてしまうかもしれない。セシル達も妙なプライドがあるようだし、このまま行かせてしまうのが無難だろう。
「分かりました。では、お気をつけて」
『大佐もお気をつけて届けてくださいまし』
俺は公爵の頼みをセシル達に任せて、1人で帰国していく。とはいっても途中で味方の軍に合流して、
『こちらへ権限を移させてもらう。一切抵抗をしないように』
「了解した」
敵国の船に乗っていると言うことで警戒心バリバリな味方にまずは船の権限を一時的に譲渡する。それから、捕虜の受け渡しをすることになる。
全てそう言った作業が終わると、
『……他に捕虜はいないな?ドワーフ製の物品の残りもないな?』
「ないはずだ。小官の運んできたものはこれが全てだと思われる」
『分かった。ならばこれで作業は終了だ。権限を返還する』
「了解。他に必要なことは?」
『特にない。が、そちらへ物資の配給は可能だが受け取るか?軍で周遊している敵国の使い道のない物資ばかりなのだが』
「む?……では、受け取っておこう。機雷を多めに頼む」
『了解した』
俺たちの国の船では使えないと言うことで倉庫にしまわれていた敵国の武装やら物資やらを大量に持ってきていたらしい。俺はそれを受け取っておく。
お陰で、実弾や機雷やミサイルが異常なほど増えたぞ。レーザーなんかは全く変化がないが、実弾でもないよりはマシだろう。レーザーより攻撃速度は落ちるが、それでも使い方次第で効果は出るからな。
そうして物資を補給してもらえばもう俺の捕虜を送り届けるという仕事は終わりなわけで、
「……ここからUターンして艦隊の支援にまわるのか」
面倒な作業である。1人で寂しくほぼステルスのような作業を行なうんだぞ?仕事中だから暇つぶしに何かすると言うわけにも行かないし、というか1人で運転しているのだからコックピットから離れられないし。
……精神的に疲れそうだ。
「心を強く持たなければな。下手なことをして敵軍に見つかっても困る」
俺はそうして気合いを入れ直し、レーダーを見ながら船を動かしていく。目的地は当然、艦隊が現在活動している敵基地周辺。
すでに作戦は終了しているかもしれないから、合流した後のフォローなどを考えて立ち回ることにしようと思う。
……なんて、思っていたときだった。
『た、大佐!大変ですわ!』
大概のゲームでは、主人公と別行動した仲間って不幸な目にあうことが………(安心してください。作者は仲間キャラがやられていくの大好きで初期の作品だとそういうのも多いですが、最近はしっかりと学んで鬱シナリオは書かないようにしていますので




