8.利用し合いますけど何か?
「娘に勲章までつけてくれたようだな」
王子にちょっとした助言(という名の罠)をした後、俺はセシルの父親である公爵に呼び出されて話をしていた。前回話したときと比べてかなり対応が柔らかい。
セシルのために色々やったわけだから当たり前ではあるが、掌返しに苦笑が浮かんでしまう。
「まさかお嬢様が1人で勝手に出撃されるとは思っておりませんでした」
「……それは私としても予想外だった。怒らないでくれ」
俺の言葉にトゲを感じ取った公爵は苦笑しながら手で制する。ただ、公爵の方が今の立場は不利だから、強く出ることもできない様子だ。
「君の昇進を打診しておこう」
「それはありがとうございます」
俺は敬礼しておく。ただ、表情は無表情。公爵を不安にさせるように、怒っているようにも微笑んでいるようにも見える程度の無表情だ。
「そ、それでは足りないかね?」
「……特に私は何も申しておりませんが?」
不安そうな公爵に俺は無表情のまま応える。
俺としてはこの公爵の反応は実に嬉しいことだな。俺が不満そうにしていると誤解してくれたし、不安になってくれている。
ここまで不安という感情をあおれるのは予想外だったな。不安を持っている相手であれば有利な条件を引き出しやすいのだが、公爵がそんな感情を出してくれるなんて……いや、待て。公爵がそんな甘いわけが無いよな。ここの話を長引かせると何かマズいことがあるかもしれない。
「それよりも、王子殿下からの呼び出しを受けた件についての話をしてもよろしいでしょうか?」
「う、うむ?……構わない」
一瞬。ほんの一瞬だが、公爵の表情が歪んだ。俺を上手く操れなくて不満だという表情だったかもしれない。それだったなら話をごまかせて良かったな。
俺は公爵の観察を続けて王子に話した内容を伝える。
「……ふむ。そんな会話をしたのか」
公爵は少し難しい顔で顎に手を当てる。自身の利益になるかどうか考えているのだろう。ただ、十中八九利益にはなると思うんだよな。
「利用の方法はいくつもあると思われますが」
「そうだな。……ただ、君にとっての利益は無いような気がするが?」
俺への問いかけ。俺の心の内を見透かすような冷たい瞳に、先程までの不安そうな様子は演技であったことがより明確に感じられる。
それでも俺は余裕のある笑みを心懸け、
「私は軍人です。戦争が早く終わり、この国が勝つのならそれで良いのですよ」
「ふむ……ガードは堅いね」
「はて。何のことかは分かりかねますが、平和を心より望んでいることは確かであります」
俺はそう言って敬礼しておく。
最後のは俺の本心だ。平和であるならそれに越したことは無い。わざわざ好き好んで戦争する必要性なんて、全く感じられない。
「とりあえず伝えておくべきだと判断したことは伝えましたので、後は公爵様の方で対応して頂ければ。何か必要なことがあればお申し付け下さい……一応懇意にさせて頂いている貴族様もおりますのでそことの顔つなぎも可能です」
「分かった。ありがとう。何かあれば動いてもらうよ……因みに、懇意にしてもらってる貴族というのは?」
「誰とは言いませんが、伯爵です」
「伯爵……ふむ」
顎に手を当てて何かを考え出す公爵。今頭の中ではこの国の伯爵達の顔が浮かんでいることだろう。誰となら顔を繋げられれば便利だろうか、などとでも思っているのかもしれない。
とりあえず俺としては、
「では、失礼致します」
「あ、ああ。うむ」
考え事に付き合っても暇なので、早々に退散させてもらう。折角首都のある星にまで帰ってきたというのに、長々とおっさんの顔ばかり見ててもつまらんからな。ぱっと遊びたいところだ。シナリオブレイクのために関わった逸脱者も数人いるから、顔を見に行くとでもするか。
「……あっ。久しぶり。俺だ、俺。元気してるか?ちょっと上司の諸々とか有ってこっち来ててな。……ああ。うん。分かった。時間あるか?実はちょっと頼みたいことがあるんだが…………なるほど。了解。場所は?……お前の店?勿論かまわねぇよ。じゃ、今から行くから」
俺は連絡を入れ、知り合いのところに向かう。今後の展開で有利に行動したいという気持ちもあるし、逸脱者と今後の話をしておきたい。
俺は逸脱者達と繋がっているが、逸脱者同士の繋がりはそこまで強いわけでは無い。だからこそ、情報は回せるときに回したいんだ。それがある意味、逸脱者を作り出した俺の責任でもあるだろうから。
「……あっ。ゴトー!久しぶり!」
「よっ!久しぶりだな」
「それで、早速本題で悪いんだけど何かな?用件って言うと、新しい子が欲しいとかそんな感じ?」
「ああ。そんな感じだ。ちょっと仕入れて欲しいのがいてな……」
「ふ~ん?ゴトーが欲しいものってことは……お金の匂いがするね!全部話して貰おうかな?私もがっぽり稼がせてもらうよ!」
「あぁ~。すまん。今回金の話って言うより政治の面倒なところの話が絡むからあんまり……」