49.戦闘機体を下ろしますけど何か?
「敵は工作員とはいえドワーフを幾人も抱えているのです。おそらく兵器の開発も行なわせているでしょうし……」
「っ!?て、敵がドワーフの作成した兵器を使うんですか!?で、でも、その敵のドワーフはこちら側の工作員なわけで…………すけど、確かにあり得ますね。命令を聞かない奴隷なんてあり得ませんし……」
細工はしてあるが、基本的にドワーフたちは普通の奴隷と変わらない状態になっている。ならば、ドワーフたちが自由にできるかと言われたらそんなことはあり得ないわけだ。
奴隷をどんな風に扱うのなんて主人次第だし、あまりにも態度がひどいようなら人体実験ならぬドワーフ体実験に使われる可能性も……
「ドワーフという種族の特性を考えましても、物作りをしないというのも考えられませんし」
「ですねぇ……」
まあ、そういう諸々の理由でドワーフが敵側の兵器の作成に携わっていると俺は考えたわけだ。
そして、当然その兵器というのは強力なもの。
「……そういうことを考えると、こちら側ってかなり不利なのでは?」
「はい。不利なことは間違いないかと。数の面でも質の面でも」
「……それって、勝てるんですか?」
「勝てる勝てないではなく、勝つしか道は残されていないのです」
「……なるほど」
ダリヤの目からだんだんと輝きが失われていく。不利な状況だと言われたらこんな濁った目をしたくもなるだろう。気持ちは分かるぞ。
ただ、やる気はあるみたいだけどな。
「できるだけ、急いで対処します。シールドさえ破壊すれば私の仕事は終わりなわけで……」
シールドさえ破壊すれば仕事が終わり。つまり、その段階でダリヤの責任がなくなるというわけだ。
ダリヤとしてはたとえ作戦が失敗するとしても、自分の責任にはしたくないようだな。できるだけ早くシールドを突破して、自分の責任ではないということにしたいのだと思う。
だれしも、自分から責任など負いにいきたくはないだろう。
「現在、敵基地から大量の戦闘艦が出てきています!幾つかの味方から後退の許可が申請されていますがいかがしますか!」
部下からそんな報告が来る。
敵基地からぞろぞろと敵が出てきていて、呑み込まれてしまいかねないらしい。流石にこれを放っておくとまずいことになりそうだし、
「よし。許可する。後退の際には敵基地の射線に入らぬよう行動を心懸けさせろ!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
急いで各艦へ通達を行なっていく。
……しかし、本当に厄介だな。俺の予想していたドワーフの兵器以前に、敵が多すぎて敵基地に近づけない可能性すらあるぞ。
「可能であれば敵基地の周囲を周回させるように移動させろ」
敵に固まらせないために、俺は艦隊を使う。
他の戦闘艦達をそれぞれ移動させることで、敵に追わせたり回り込ませたりと言った行動を起こさせる。こうすることで、敵が基地の周りを覆うという状況を作りにくくするのだ。どうしても移動している敵がいると、人間煩わしく感じるものだからな。
……あとは、
「機雷の使用は各艦の艦長の自由裁量で使用して構わん!ドワーフ製のものもだ!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
機雷の使用許可も出しておく。流石に何もなしで逃げ続けるのは難しいだろうから、それくらいはしないとな。ドワーフが作ってくれた威力の高い機雷を幾つかそれぞれ所持しているから、通常のものと組み合わせて上手くやっていけるはずだ。
そうして他の戦闘艦に気を引かせている間、
「では、ダリヤ様。お願い致します」
「分かりました!」
ダリヤの操る戦闘機体を敵の気付きにくい場所に出していく。それを使って、ダリヤには敵基地まで接近してもらってシールドを破っていってもらうつもりだ。
そうして戦闘機体を出したら変な動きをしていると思われないうちに飛び去ろう……と思ったのだが、
『私もここで降りますわ!』
「ここで……ですか?」
『ええ!この辺りに潜んでおけば、追ってくる敵の中に飛び込んで混戦に持ち込めると思いますの!』
「……なるほど」
ダリヤと共に(ダリヤ自身は出ていないが)セシルも出ることになった。
この辺りに逃げる味方がやってきて、その後を追って敵もやっている。そう考えたらしい。
実際位置的には基地の周りを回っている小型艦の数隻が通りそうな軌道上にはあるし、予想が外れる可能性は低いように思える。ここで混戦を引き起こせば、小型艦などにまとわりつく敵も混乱を来すのは分かる。
「……では、艦隊全体に連絡を。この付近には機雷の設置を控えるように!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
出て行くセシルの戦闘機体を眺めながら、俺は後ろで手を回す。
……セシルが基地攻略で大活躍できるとも思えないし、こういう細かいところで混戦を引き起こすって言う役割の方が良い結果を出すかもしれないな。




