46.買い込みましたけど何か?
「……敵反応はありません」
「よし。それならこのまま行きますわ」
艦隊がゆっくりと進んでいく。先頭を俺たちの船が。そして最後を俺たちの艦隊の中で1番レーダーの探知範囲が広い船が務めている。因みに俺たちの船はフィネークの魔力を使ってレーダー範囲を強化中だ。
で、現在何をしているのかって言えば、潜入だ。敵国の領域に入り込み、誰にも見つからないように移動を行なっている。
ここに潜む理由は、潜入したスパイ達のためだな。
もしスパイ達が処分されそうになったときなどの緊急時、俺たちがそこに特攻を仕掛けてドワーフたちを回収することになっている。
とはいえ、そんな簡単なことではないので予備としての位置づけが強いようではあるが。
「待機というのが辛いところですわね……」
「何があるか分かりませんし、迂闊に自由時間にするわけにもいきませんしね……」
「わ、私、起きている間はずっとレーダーの強化で動けないんですね……」
3人の少女が死んだ魚みたいな目をしている。
ステルスは緊張感がある上にリラックスできる時間も少ないから、精神的にすり減るのだ。特に3人はたいしてそういう訓練も受けていないからな。
フィネークは訓練を全て受け終わる前にこの艦隊に入ったし、セシルとダリヤは全くそんな訓練に触れてすらいないし。
そんな3人のため、雑談は許容してある。
3人以外にも、部下達はモニターなどを見ながら周囲の同僚と雑談していた。
俺は俺で細かくミミとやりとりしながらって感じだな。一応売るとこまでは敵側にいるわけだし、情報を送ってもらうことはできる。
……あっ。通信の傍受とか解析とかについてはほとんど心配する必要はない。
細かい業務上の連絡のようなものをミミが本部に伝え、それの中に俺だけに伝わるような暗号が含まれているだけだから。
俺がそんな風に敵の内情なんかも探っていると、
「そうだ!中佐……じゃなくて大佐!これ、具体的にどれくらいの期間任務を続けますの?」
セシルからそんな質問が来た。
この任務。短期間と言うほどのモノでは無いが、あまり長期間は予定していない。あまり時間をかけてもドワーフ同士が接触する確率は微妙にしか上がらないからな。
会うなら最初の数週間から数ヶ月の間で会うだろうし、その間に会わないのであれば数年経っても会わないと考えた方が良い。
ということで、
「長くて半年程度かと」
「あぁ~。そこまで長くはない……ですけど、半年もこれを続けてたら気が狂いそうですわぁ」
「私もダメですね。退屈で死にそうです」
「私もですぅ~」
残酷な現実に、3人は死んだ魚のようだった目をさらに濁らせる。こういう状態を病んでいるって言うんだろうなって感じの見た目だ。
周囲の護衛や使用人達もこの様子には苦笑をしている。
このままにしておくのは令嬢としてマズいが、たしなめるだけだとダメ出し、励ましたら良いのか強く叱った方が良いのか分からないのだろう。
そして選択を誤った結果、より一層精神的な闇を抱えられてしまわれるのが怖いのだと思う。
「得られるリターンを考えると、ある程度の精神的負担は許容すべきかと」
「……うぅ~ん。それもそうなんですけど」
「それは分かっていますが……って所ですわね」
「頭で分かってるのと、実際にできるのは別物ですよぉ~」
正論である。俺の言葉は多少の慰めにしかならなかったようだ。……まあ、この程度の言葉で解決するような問題なら、この世界に精神的な問題なんて出てくるわけないよな。
今回の任務になったのは俺がミミを紹介したりしたからと言う責任がないわけでもないし、
「では、小官の個人的な所有物である映画が幾つかありますので、お貸しましょうか」
「「「借ります(わ)!」」」
3人が目の色を変えて頷く。俺は自分の中に埋め込まれているチップから端末を生み出し、それを操作して3人にそれぞれ無難な映画を送る。
「お好きなジャンルなどは存じ上げませんので、何かご希望のものがあればおっしゃって頂ければ」
「分かりましたわ!」
「ありがとうございます。感謝します」
「大佐!ありがとうございますぅ!!!」
3人は食い入るように自分たちに送られてきた情報を眺め、どれを見るのかというのを考え出したようである。
そんな3人と俺の様子を横目で見ていた俺の補佐官は、
「大佐、あんなに持ってましたっけ?」
と小声で確認をしてきた。
何度か私物を見られていることはあるので、俺があそこまでデータを持っている記憶がなく気になったんだろう。
「あれは、こういうときに使えると思って買ったものだ。隊長が艦隊に入ってきてから購入したため、比較的新しい」
事前にどこかしらのタイミングで長期間暇なことがあるだろうと予想していた。だからこそ、暇を潰せるものを買い込んでおいたのである。……自前で。
備えあれば憂いなし。だが、買った映画の分の料金くらいは払ってくれても良いんだぞ?かなりの量買ったから、これでも金を使ったという感覚はあるからな。




