42.手柄は譲りますけど何か?
ドワーフは一旦俺の肩から手を離し、俺に説明を求めてくる。ただ、言い方が俺が何か悪いことをしたみたいな感じだな。
しかも、最初に舌打ちまでされたし。
俺はあまりにもあんまりな対応に苦笑しつつ、
「これは小官の知人が作成したものです。国のものではありません」
「ほぅ?国のものじゃない、個人作成でこれか……」
ドワーフは興味深そうな顔をして、俺の渡した機械を眺める。上から見たり横から見たり、裏返してみたり。
落として壊さないことを祈るばかりだ。
「それの下位互換のものが一般向けには販売されている状態です。小官もあまり詳しい仕組みは存じ上げていませんが、ご興味があるなら開発者の連絡先をお伝えすることは可能ですが」
「本当か!」
ドワーフの目の色が変わる。
また俺の肩を掴んで揺さぶってきそうな勢いだったので、急いで俺は胸ポケットから先程のものと似たような機械を取り出して、
「こちらを使えば連絡を取ることができます」
「よし!あんがとよ!すぐ連絡するぜ!!」
満面の笑みで礼を言い、すぐに連絡を取るまで言ってきた。
だが、
「できれば、奴隷商への連絡を優先して頂きたく……」
本題を忘れてもらっては困る。
ドワーフは俺の言葉を受けて面倒そうな顔をして、
「あぁ。そういやそうだったな。忘れてた。……まあ、そうするか。ちゃちゃっと面倒なことは終わらせて、しばらくは作業に集中することにするか」
どうやら、すっかり仲間の誘拐のことは忘れていたらしい。これが人間なら最低だと思う所なんだが、ドワーフだからな。ドワーフはこんなものなんだよなぁ。
そんなちょっとぐだっとしたところもありつつ、会談は終わっていく。
「おい坊主!色々とあんがとよ!」
「いえ。当然のことをしたまでです。是非とも今後とも我が国をごひいきに」
「あいよ。今度から少し色つけてやるよ」
会談の成果はバッチリ得られた。国が関わるのはここまでだが、次からの取引に色をつけて貰えるなら十分すぎる成果なはずだ。
あとは、ドワーフ側とミミとで色々と調整して貰えれば良いだろう。
ということで俺たちの出番は終わり、公爵達と共に去って行くのだが、
「公爵様。お願いがございます」
「……なんだ?」
道の途中公爵に話しかけると、とても嫌そうな顔をされた。完全に見せ場を奪われた形だし、気持ちは分からないでもない。
が、俺がするのは公爵にとってもいい話だからそこまで嫌がらなくても良いと思うんだよな。
「小官は向こうの支援をすると約束しましたが、よければ公爵様にもお手伝い頂けないかと思いまして」
「……なぜだ?」
トゲがある質問だな。
何故約束したお前がやらないんだという気持ちが込められていそうだ。
……が、
「交渉をまとめられた公爵様も参加してくださった方が、違和感がないかと思いまして」
「……交渉をまとめた、だと?貴様、何を言っている?」
今回の階段で成果を出したのは俺だ。解決手段もその手段を得るための道筋を示したのも、全て俺だ。
だが、俺としてはその手柄はあまり必要ない。
「何をとおっしゃられましても、事実ですが?この交渉を主導し、纏め上げたのは公爵様ですから」
「何だと?……きさま、手柄を私に譲る気か?」
その通りだ。
が、勿論そんなことは素直に口にせず、
「はて?元々公爵様の手柄だったように記憶をしておりますが……小官はただ手段の提案をするという、公爵様のお手伝いをしたに過ぎませんので」
「……そうか。だが、ただでというわけではあるまい?何が望みだ?」
公爵は俺にそう問いかける。俺が手柄を譲ったのだから、何かしらの見返りを欲しているとでも思ったのだろう。
だが、そんなモノは特に求めていない。売れる恩を売っただけであり、
「特に何も望んではおりません。ただ、小官は先程からドワーフの工作員への支援はお願いしておりますが」
「……そうか。そうだな。ならばそうしよう。これは借りにしておく」
公爵はそう言って、俺への先程まであった強い負の感情を霧散させる。俺に結果を奪われたという恨みの根本的な原因がなくなったわけだからな。
逆に、自分では手に入れられないほどの大きな実績を得るチャンスが来たわけだ。公爵にとっては相当大きな借りになるだろうが、それによって得られる物と比べれば悪くないことだと思ったのだろう。
そして俺としても、別にこの手柄はいらない。
なにせ、最重要なことである逸脱者とドワーフの関係構築ができたのだから。俺はそれ以上をドワーフに求めるつもりはない。
俺が求めるのは弱いドワーフとの繋がり、そして、ドワーフの技術だ。
ドワーフの技術をあの逸脱者が手に入れることができれば……たとえ天才的な転生者が来ようと、一方的にやられることはないはずだ。
俺の準備は着々と進んでいる。
逸脱者達も成長を促していく必要があるし……何か考えるべきか、更なる飛躍のために必要なことを。




