40.交渉始まりましたけど何か?
「私たちの艦隊は、一時的ですがドワーフの救出を秘密裏に行なう部隊に……」
「良いですね。個人的なドワーフとの繋がりも上手くすれば作ることができるかもしれませんし……」
なぜか、俺たちまでドワーフのとの交渉の場へ参加することになった。想定になかった事態であり。俺も非常に困惑している。
何故今後の計画を立て始めたら、わざわざドワーフの本拠地まで行くことになるのか。何故交渉を国に任せては駄目なのか。
本当に疑問に思うことは多い。
セシル達は軍にすら伏せられていることだから自分たちが個人的に行くことで実働部隊としての役割を担うことに、みたいな話はしている。が、そんなの公爵や国王に交渉を任せた後に、そこで決まったことを元にして命令を受ければ良い。俺たちが直接行く必要なんて全くない。
と、思っているしセシル達にも言いたいところなのだが、
「ドワーフとの面識というのも欲しいか……」
ドワーフと関係を持っていれば、必ず何かと役に立つはずだ。
ドワーフと繋がりがあると言うだけで俺の価値は上がるだろうし、もし一定以上まで仲を深めることができれば個人的に色々と作ってもらうことも可能だろう。
そして、俺が転生者対策として育てた逸脱者達の中にも物作り関係のものはいるし、そいつとドワーフもつないでおきたい。あいつは人間のくせにドワーフ並みの技術力があるから、きっと繋がりを作ればドワーフと仲を深められるはずだし、共同で良いものを作ってくれるはずだ、
そういった意味でも、俺の個人的なドワーフとの繋がりは欲しい。
ならば、このドワーフとの面会という流れに疑問を憶えることはあっても反対する理由はない。
「しかし、ドワーフとの面会となりますとこちらも色々と調べる必要がありそうですね」
「調べる必要、ですの?私たちは話を聞いておけば良いのではなくて?」
セシルが甘いことを言っている。
何という甘さだろうか。そんな考え方で貴族として交渉ができるのか不安だな。
「同席するだけならそれで構いませんが、何かしらの協力を向こうから引き出すと言うためには私たちが優秀であることを示す必要があります」
「えっと……それもそうですわね」
「私たちに向こうが頼んでくるという状況を作りたいですし、それは確かに必要かも知れません……」
「はい。ですので、事前に向こうが求める物が何かを予想し、それを調べておくことも必要かと」
「ふむ。なるほど……」
交渉の基本だ。
事前の準備をして、交渉中に相手からの情報を引き出し、事前の準備の中からその引き出したものに合致するものを提供する。勿論提供すると行っても無償ではなく、取引に使ったって良い。
大事なのは、事前準備とその場の話術の両方だ。
「ということで対策用の資料を用意して参りました」
俺はそこまでいって、会議に参加しているメンバーに資料を送る。
すると、送られてきた面々は、
「え?……あっ」
「な、何ですか?この量」
紙の資料だったら、とんでもない高さまで積み上がりそうなほどの情報量。それが送られてきたのだ。全員顔が青くなって顔が引きつるのも当然だろう。
だが、
「必要なことですので」
「「「「い、いやあああぁぁぁぁ!!!?????中佐の鬼ぃぃぃぃ!!!!!!」」」」
セシルやダリア、そして部下達の可愛い悲鳴が響き渡った。
……さて、俺も資料を読むか。悲鳴が良いBGMになってくれそうだな。
…………なんてことがあって数週間。色々と国王や公爵とも打ち合わせを終えた俺たちは、
「ついにこの日がやってきましたわ!」
「な、長かった……。あの地獄のような知識の詰め込みを活かす日が、やってきたんですね」
セシルは死んだ魚のような目をしながらも喜び、ダリヤは疲れ切った表情で淡々と呟いている。普通に怖いな。絶対に友好的な交渉の場面でやっちゃいけない顔だと思う。
とか思っても俺が言うまでもなく護衛達や使用人にその辺りは正され、すぐに華やかな美少女を取り戻したがな。
そうして身だしなみなども整えた俺たちは、今回の交渉役となる公爵の後をついていき、
「本日は宜しくお願いする」
「ああ。こっちこそ、よろしくな」
公爵とドワーフの代表者の。お互い対等な立場での挨拶。
ドワーフとの交渉が、ここでついに始まった。
基本的な説明は公爵が行なうため、俺たちはひたすらその間は後ろで待機。セシル達は顔こそキリッとさせているが、内心面倒そうなのが伝わってくる。
俺が2人の表情に出ないか心配をしている間も会談は進んでいき、
「なるほどなぁ。同胞が殺されるのも困るしな」
「ああ。だから、できれば協力を頼みたいのだが」
「分かってる。道具は惜しまないけどよぉ。……どうするんだ?内部を探るなんてそんな簡単じゃないだろ?」
「ああ。それは確かだ。しかもこちらにとっては敵国だからな」
今は解決方法を話し合っている段階。
ここは大きな難所だ。簡単に敵国から重要なものとして扱われている奴隷を奪うことなんてできないからな。
だが、だからこそここが俺の発言すべき場所。
「……でしたら、小官から1つご提案が」
近くにいたダリヤやセシルが息をのむのが分かる。
ここで俺が動くのは完全に予想外だったのだろう。そして、俺が裏で最初からこうして仕掛けるつもりでいたのもきっと……




