38.捕虜の扱いを考えますけど何か?
幸いなことに、公爵も国王もすぐに連絡がついた。向こうでは公爵と国王が連携して事に当たると言うことになったらしい。
そして、次のドワーフとの交易の際に、公爵が動いて事情の説明と交渉をしてくるそうだ。
それでとりあえず連絡関係はなんとかなったというところではあるのだが、
「中佐、この機会を利用しましたわね?お父様は借りができたとおっしゃってましたわよ?」
「お父様もです。この迅速な対応は表沙汰にするわけにもいかないけど報いないわけにもいかぬし……って凄い悩まれてましたよ」
父親へ連絡を取った2人からそんなことを言われた。
どうやら俺が、この機会を利用して公爵家と国王に恩を売ったと思われたらしい。
イヤー。ソンナツモリハマッタクナカッタノニナー(棒読み)
だけど、褒美を貰えるし借りを作れるって言うなら黙って貰って作っておくのが吉だよな。うん。
「中佐って、貴族としても生きていけそうですわね」
「ですよね。世渡りが上手すぎませんか?」
2人からなんとも言えない視線を向けられる。
俺としては面倒な貴族としての生き方なんてお断わりなんだけどなぁ(←面倒くさい事確定な貴族令嬢と王族を受け入れてる人)。
「……私のことは良いのですが、それよりも例のドワーフの話を」
「あっ。話題をそらすつもりですわね?」
「逃がしませんよ?……と、言いたいところですが、実際ドワーフが大事なのは確かですからね。今回は逃がしてあげましょう」
「感謝致します。……それではドワーフについてなのですが、捕虜としたドワーフをこの艦隊の中でどう扱うかが問題です」
全く心のこもっていない感謝をしながら、本題に入る。
実際、この問題は非常に憂慮すべきものである。
「どう扱うか、ですの?」
「普通に今のまま客人としての扱いでは駄目なんですか?」
今は、ダリヤが言うようにドワーフを客室というわけではないが、予備の部屋に入れて生活させている。
その扱いは、捕虜に対するモノで無いのは確かだ。
だが、
「今回の捕虜の設定としては、何も喋らないドワーフと言うことになっています」
「そうですわね。確かに捕らえられた他のドワーフが処分されてしまわないように、何も喋ってはいないと言うことになっていますわ」
「ですよね?ですから、あまりにもこちらがドワーフに無警戒すぎるように思われます」
「「無警戒すぎる?」」
セシルとダリヤは揃って首をかしげる。
なにせ、警戒する必要なんてないんだから。
「ドワーフですわよ?警戒する必要がありまして?」
「材料と道具さえ渡しておけば大人しくなるって言われているドワーフに、わざわざ警戒が必要なんですか?」
2人とも一般常識的案ドワーフへの対応を述べてくる。
確かにそれは間違いないことだ。
……が、
「それは、何も喋ることのない奴隷の首輪を嵌められたドワーフに対しても、ですか?」
「「っ!?」」
2人とも気付いたらしい。
自分たちの行動が疑念を生むものになっていることに。
「いくらドワーフといえど、敵軍にいた奴隷でしかも喋らないなんてなれば、確かにこの状況はおかしいですわね」
「ええ。確かにおかしいです。すっかりドワーフという特殊性で頭が支配されていました。確実にこのままだと変に思われますね。……が、まだどうにかなるでしょう。ドワーフと言うことで最初の数日は客室に入れていましたが、喋らなかったので危険だと判断して環境を変えた、これで筋は通るはずです」
ダリヤが修正案を提案してきた。
これを採用すれば、敵側からの疑いも上がりにくくはなるはずである。もちろん、味方からのものもな。
とはいえ、
「何をするにせよ、陛下もしくは担当の方に許可を仰ぐ必要があると思われます」
「ああ。それもそうですわね。……ダリヤ。連絡できますの?」
「はい。大丈夫だと思います。重要な事案だから何かあればすぐに連絡して欲しいとお父様からも言われていますし。……では、早速その辺のお話をしてきますね」
「宜しくお願いします」
「任せましたわ」
ダリヤが連絡のため部屋から出て行く。
因みに基本的に軍で外部に連絡を取る場合は記録を残しておかなければならないのだが、国王や公爵などへの連絡は消しても問題無い。
機密に関わることもあるからな。
こういう時にセシルやダリヤという存在が艦隊にいるのは便利だ。
だから、こうしてドワーフのことを連絡するのも警戒せずにできる。
なんてことを思いながらこれからの計画を考えていると、
「やっぱり、中佐ってこういう裏の根回しとか得意なんですのね……」
「いえ。あくまでも軍事的な経験の差かと」
「いや。それだけでは絶対にないですわ。明らかに貴族にも通用しますわよ?」
当たり前だろう。
今だってセシルの実家や王子なんかを相手取って色々と動いているんだから。
それに、タチバナ奴隷商会を買い取った後にも何度か貴族と関わる機会はあったからな。
これでもその辺のメイドや執事なんかよりも貴族との関わりは慣れているんだぞ。
偉い人の愛○だからひどくは扱えないけど、知ってることもばれたくないから過度に優しくもできない…………みたいなときに近いw




