34.敵が撤退して暇ですけど何か?
ミサイルの影響が消え敵の状況がよく見えるようになると、予想以上に敵の船が残っていることが分かった。
敵の船のミサイルが当たった部分であろう場所から3分の1くらいは完全に消滅。そこから更に3分の1ほどはグチャグチャにひしゃげ、残りは焦げていたり衝撃はあったりしたようだが面影がある状態で残っている。
もうあの船は使えないだろう。
「……そして敵全体が救助活動、か」
惑星の周囲を囲っていた敵はすぐにその生き残りなどの救助を始めた。俺の包囲など完全に放棄して、な。
この行動から分かるのは、敵側には大事な存在が乗っていたと言うことだ。それこそ王族や公爵家クラスだろう。
「そんな高貴な人間あたりはブリッジにいそうなものだがな」
ブリッジというか司令室というか。そう言った場所で偉そうにふんぞり返っているイメージがある。そこから戦場の様子を眺めて、な。
そして、そういう場所は大抵船の前方に有るものだ。そして船の前方部は消し飛んでいたりひしゃげていたりしている。そこにいたとなると生存の可能性は激しく低いだろう。
「そんなことが分かっていても懸命に探している……やはり身分が高い以外の理由は思い浮かばんな」
そう言った高い身分の存在なら、たとえ生存の可能性が著しく低かろうとも捜索に全力を出すはずだ。逆にそうでなければ、ここまで懸命に捜索なんてされるはずがない。ここまで惑星からほぼ一方的に殴られるようなことをしてまでするなんて考えられないな。
「あぁ~。戦果が積み上がっていく」
包囲が解けて1つに固まってくれているお陰で、攻撃を集中して行なうことができる。お陰であまり深く考えずに敵を鎮めることができるのだ。
しかも、今まで以上のペースで。
「ここで倒した相手によっては、昇進も可能かもしれない」
こういう時に未来のことを語るのは死亡フラグかもしれないとは思いつつ、俺は昇進のことを考える。
惑星を奪ったことは相当な実績だが、流石に大佐になれるかどうかは分からない。大佐以上となってくると、もうかなりの重鎮も重鎮だからな。
だが、もしもここで倒した相手が敵国の王族などであれば間違いなく昇進する。というか、あの大きな船を壊した時点で90%以上の確率で昇進できるだろう。
「スコアも4桁いったし……」
沈めた敵艦の数も4桁を超えた。ここまでの実績はそうそう得られるモノでは無い。
正直これ以上敵艦を倒しても誤差にしかならないだろう。
……とはいえ、味方が到着するまでは活動するがな。ここで油断して問題が起きたら元も子もない。
「セシル達はいつ終わることやら……」
俺は集中力が途切れないよう心を保ちつつ、セシル達の迎えを待った。
ただ、ここまで敵を追い詰めるほどの時間が俺にあったと言うことは、セシル達に問題が起きただとか何かしらあったと考えるのが妥当だろう。
敵が強くて手間取っているか、予想以上に上手くいって調子に乗って活動しているか。……後者の方がありえそうだな。
《sideセシル》
「遅い遅い遅い遅い遅い!!当たりませんわぁぁぁ!!」
『セシル!前に行きすぎないでください!……って、スコアが3桁いきましたよ!?』
「本当ですの!?でしたら、これからダリヤのスコアも3桁にしますわよぉぉぉ!!!」
『えぇ!?私もですか!?』
セシル。そしてダリヤの2人で手を組んで大暴れしていた。
ゴトーの予想通りである。
《sideゴトー・アナベル》
「あぁ~。暇だ」
俺はモニターを見ながら心底疲れ切ったような声を出す。
現在とても暇なのだ。それはもうとてもとても暇なのだ。
結局敵は惑星からの攻撃をこれ以上受けると全滅もあり得ると判断したのか撤退していき、敵はいなくなってしまっている。そして敵がいなければ、当然味方もいない。
ふれあえる相手も会話をする相手もおらず、非常に暇だ。
「結局、無人機も1回しか使わなかったし……」
無人機。
敵に囲まれたときに使ったものだが、本来の計画ではもう1度使おうと思っていた。
惑星全体から、用意できる中の半分以上の機体を宇宙に出してしまおうと計画していたのだ。だが、結局ダメだった。計画を実行する前に敵が撤退してしまったのだ。
というか、たとえあそこで撤退されなかったとしても使うことはなかっただろう。
「……それならもうちょっと使っても良かったかもな」
使おうと思えば、使う機会が無いわけでもなかった、
武装を発動させながら敵艦に突っ込ませるというのも可能だったし、敵の攻撃から惑星を守る盾にもできた。
それでも、敵の目を誤魔化すために使用は控えたというのに。
「……暇だし、ちょっとちょっかいでもかけてみるか」
俺はこのまま使わないのも勿体ないような気がして、一般機の幾つかを使ってみることにした。
まず、俺が乗らないわけだし操縦なんて言うものはできない。だから、直進させ続けることくらいしかできることはない。
が、
「それでも、暇だしやってみるか」
このときの俺は考えてもいなかった。
この暇つぶし程度にやった行動が俺の命を救うことになるとは。




