31.追い詰められたので手札を使いますけど何か?
今の状況を分析する。
現在敵の数は増えている状況であり、手早く処理していかないとあっという間に数で押されてしまうことになる。だから威力の低い攻撃は防御力の低い船に、威力の高い攻撃は防御力の高い船にと分けて使っていく必要がある。
しかも、例の重要そうな船には強い攻撃を使わないって条件付きでな。
「きっついなぁ」
俺はぼやきながら兵器を使用していく。
いくつもの敵艦が消し飛び、損傷し、力を失っていく。そしてそれと同時進行で惑星への被害も大きくなっていった。
敵は俺がどこにいるのか分かっていないようで、しらみつぶしに攻撃を仕掛けてきているように見える。
幾つかブラフで魔力を利用した壁を作ってる所が有るから、その辺だと勘違いはしていそうだがな。
「これだけ被害を受けると、使えるようになるまで数年はかかるだろうなぁ」
荒れに荒れたこの星をもう1度使えるようにするとなると、長い年月が必要となるだろう。惑星の規模から考えて10年とまでは言わなくても、それより少し短いくらいの期間はかかるはずだ。
その間にまたこの辺で攻防が発生する可能性も高いから、更なる被害が積み重なるかもしれない。そうなってしまえば俺の見立てよりも遙かに長い年月が必要とされる。
「周辺の領域を完全に奪ってしまうことができれば、ここら辺は安全になるかもしれんがな……」
とはいえ望み薄だ。敵に何かする以前に、逆に基地を奪われたからな。
軍事的な何かを本格的に行なうならあの基地は必要だったし、この戦場も数十年は争いが終わることはないだろう。
「こちらは基地に被害を受け、向こうは惑星を失う。……この程度だと痛み分けに近いし、もっと被害を増やせるよう努力しよう」
俺はそんなことを呟きながら敵艦を着々と堕としていく。すでに3桁以上の敵艦を堕としており、この戦いが終わる頃には4桁まで到達するのではないかと思うほどの状況だ。
ただ、
「きつくなってきたな……」
きつい。
敵艦が増え始めて、処理が大変になってきた。
このままだと例の目当ての船に何かする前に、この惑星の方が破壊されかねないほどだ。
「……ちっ!もう少し後のつもりだったかが、使うか」
俺は考えていた策の1つを使うことにする。
それが、
「行ってこい!無人機!!」
無人の船。
それも、小型艦よりも小さい、本当に小さな小さな船だ。とはいえ、宇宙を航行する能力はある程度のものではあるがな。
おそらくどこかの小金持ちが自分用に買ったものだと思われる。
これを今回は使用する。
事前に設定を行なっており、起動すれば燃料がつきるまで全速力で直進し続けるはずだ。攻撃など一切行なうことなくただひたすらに直進していく。
「……兵器としての価値はない。だが」
実際に出してみると、予想通りの効果が現われた。
多くの敵がその船を追いかけ、攻撃し始めたのだ。
まず前提として、この惑星を乗っ取ったのが大勢でないのは敵も理解している。俺1人しかいないが、おそらく10人程度はいると考えていることだろう。
では、もしそんな数人で惑星を制圧できるようなものがいたらどう対応すべきだろうか?
勿論、殺害すべきだよな。ここで取り逃がすことがあれば同じような被害を受けてしまう恐れすら有る。
では、そんな危険な存在が集まってる中から1隻の船が現われたらどう思う?しかも、少しその逃走を援護するような動きを惑星が見せたとしたら。
それは当然、こちらの制圧部隊の中でも特に優秀な人材が逃げたと考えるだろう。
絶対に取り逃がしたくはないはずだ。
「だからこそ、追いかける」
戦闘艦が群れをなして撃ち出した船を追いかけていった。良い具合に回頭して回避行動を難しくしてくれているから、俺の攻撃が当たりまくる。狙われた状況で背中を向けようとするとか愚の骨頂なんだよな。
そんな風に隙だらけの敵を倒したりしていると余計に敵は船が気になり出すようで、次々と敵は船を追いかけるように動き出す。
俺に破壊されて気になって、そしてまた破壊されるという連鎖だ。かなりこの流れのお陰で俺の負荷が軽減されたな。
一時的ではあるが増える数より減る数の方が多くなっている。
「囮作戦って、偉大だよなぁ」
俺は実感したことを呟きつつ敵を処理していく。
敵の増援の数自体が減っているような気もするし、もしかしたら増援の一部が船の捜索と破壊に動いているのかもな。
それはそれで嬉しい動きだ。
「後の機体は緊急用にとっておくか」
もう何度かこの策を使っても効果はあるとは思うが、それは辞めておくことにする。
今は処理が間に合っているから、こういうのは本当に大変なときに残しておいた方が効果的だしな。何度も使っていると、おそらく敵もあまり今ほどは重要視しなくなるはずだ。
「策は効果のあるときに使ってこそ真価を発揮するものだ」
焦る気持ちを抑えるように、一人呟く。
焦りは自分の死を知覚するものだ。
この章はミミの話を主にするはずだったのですが……いつの間にか戦いがこんな長さに。




