6.小型艦に喧嘩売りますけど何か?
「敵の増援です!小型艦が10隻やってきます!」
敵が追加された。部下達の表情に焦りと恐怖が浮かぶ。だが、俺としてはそこまで脅威にも感じないな。どうせあのタイプの小型艦は、
「小型艦から戦闘機体が放出!……あっ。小型艦は戦線から離脱しました!」
ああ言うのって大概、戦闘機体を追加だけして戦闘には参加しないんだよな。船は戦闘艦だが、役割はほぼ輸送艦だ。
戦闘機体が増えると攻撃をばらけさせる必要があるのが面倒だが、だからといって時間が掛かるようになるだけで大きく戦況に影響は与えない。
こういう場合は去って行く小型艦は気にせず、今まで通り残ってレーザーを撃ってくる敵の艦隊に攻撃を返しつつちまちま戦闘機体を削っていけば良いのだが、
「戦闘機体、隊長の機体が小型艦へ接近!交戦を開始しました!」
「「「「………………」」」」
俺を含めて数人が頭を抱える。
隊長様が率先して無視すれば良い小型艦に喧嘩を売りに行ったのだ。下手なことをすると小型艦10隻が敵戦力に追加されることになってしまうのだが……。
「敵の戦闘機隊の一部が隊長を抑えるために引き返していきます。……が、返り討ちに遭っているようですね」
フオンッ!
と音を立てて、1つの映像が立体モニターに映し出される。そこに映し出されるのは、縦横無尽に宇宙を飛び回りながら、近づいてくる敵の戦闘機体を打ち倒していく何の変哲も無いはずの戦闘機体。
「隊長……」
「どうやってそんなにセンサーを使いこなしてるんだよ……」
部下達は驚愕し続けている。
ここまでできるのを見ると、本当に今回で勲章は得られるのでは無いかと思えるな。正直に言えば部下達の士気向上にも繋がるし。10回くらい戦場出てもらって活躍して欲しかったんだが。……まあ、得てしまうなら仕方ない。せいぜい今回の結果を利用して公爵家に媚を売るとしよう。王子は人間性と頭が壊滅的だから無視で良いな。
さてさて、そんな未来のことを決めたのは良いとして、今は頑張って働くとするか。
※※※
目の前の敵が爆ぜ、切り裂かれ、潰される。
だが、そんなモノを気にもとめること無く彼女は自身の乗っている機体を動かす。彼女の機体からレーザーが撃ち出され、アームによるパンチが繰り出され、敵の数を減らしていく。
「足りない………足りない!足りない足りない足りない足りない足りない!!」
それでも彼女は満足できない。何人、いや、何十人殺したところで、彼女の目的は達成されない。この程度で勲章を得ることなどできないのだから。
「小型艦10隻……これを墜とせば!勲章が!!」
彼女、セシルはどうしても勲章が欲しかった。勲章を得て自身の価値を示し、もう1度王子との婚約を実現させる。そのためにも退却しようとしている敵艦10隻は。どうしても破壊したかった。
ただ、彼女だって王子と婚約することが目的とは言え、王子のことを愛しているわけでは無い。彼女の目的はあくまでも、家を潰さないこと。婚約者としての地位を取り戻し、公爵家を王に近づけること。
だからこそ彼女は、少しだけ自身の活躍できているこの戦場という場所に何かを感じていた。
「1つ!」
彼女は狂ったような瞳で敵の艦隊を見ながら、1つ目の敵の小型艦を破壊する。コックピットが爆ぜ、機能を停止させた。その爆発に巻き込まれる形で周囲の戦闘機体も消滅する。
そうしてできた空間を最高速度で通り過ぎ、彼女は次の獲物へと食らいつく。時間は掛かるが、確実に彼女は敵の小型艦と戦闘機体をスクラップに変えていた。
「……6つ!」
1時間ほどかけ、彼女は6隻の敵艦を沈めた。残りの小型艦は4隻。このペースなら問題なく目標の10隻を達成できる………………はずだった。
ギアを上げ、7隻目に肉薄し、敵の反応より早く主砲を破壊する。彼女の戦闘機体からレーザーがまっすぐに伸びて、
「っ!?故障ですの!?」
いかなかった。
彼女の戦闘機体からは、何も発射されない。レーザーのエネルギーがきれてしまっていたのだ。
計算が狂い、思考が一瞬止まる。そんな彼女にとっては本当に一瞬のことだったが、戦場において一瞬であってもミスをすれば命取りとなる。
「っ!!」
彼女はすぐに機体を横にそらす。
だが、機体の1割ほどが消え去っていた。ピィィピィィと不安を煽る警告音が中で鳴り響いた。機体の左側に付いていたアームが消失しており、
「……ここまで、ですのね。ごめんなさい。お父様」
彼女の周りからはいくつもの光線やミサイルが追い打ちをかけるように降り注がれようとしていた。この機体の状態では避けることも難しい。
死を悟った彼女は、静かに目を閉じる。
「…………あれ?」
だが、いつまで経っても彼女の思考は消えない。彼女という存在が消滅しない。
「ど、どういうことですの?」
困惑しながら彼女は目を開ける。そんな彼女の目の前にいるのは、敵艦に囲まれながらも堂々とした様子で浮かぶ戦艦。
その戦艦には見覚えがあり、
「……た、大、尉?」