29.戦闘機体で全て塗り替えますけど何か? ※敵視点
敵視点のお話です。
読み飛ばそうと思っている方に簡単に説明すれば、ゴトーに惑星奪われてセシル達に基地を攻撃されててんやわんやって感じです。
《sideとある敵国の一般兵》
大変なことになってる。もう、何が起こっているのか分からないくらいだ。
仲間があちこちで駆け回っていて、いくつもの戦闘艦がどこに行くべきかと悩んでいる。
「ま、まずは惑星への帰還を!」
最初に起きたのは、惑星への攻撃。その知らせを受けたときは、ざわめきが起きた。
報告によると惑星にいたほとんどの人が殺されており、逃げた人達も重症。怪我のない五体満足な人は、誰1人としていなかったらしい。
それからすぐに惑星が動き出し、惑星上にあった防衛装置が味方に襲いかかる。全く想定されていなかった事態のため惑星の周囲にいた味方は壊滅的な被害を受け、現在もその数を減らしながら惑星を乗っ取った何者かと交戦しているそうだ。
当然こんな事態になれば多くの味方が助けるために戻ろうとしたし、実際足の速い船はすでに到着していると思う。
でも、到着していない船は足止めを受けた。
なぜなら、
「こっちの基地を守る必要もあるだろ!」
「惑星と基地、どちらが軍事的価値が高いと思っているんだ!」
基地。それは敵から奪ったものにしては、損傷の少ないもの。
運良く警備体勢が普段より緩くて潜入が上手くいき、その場所の被害も少なく済んだらしい。だからこそ、価値が高い。
そんな場所に、敵が攻撃を仕掛けてきた。
しかも、多くの船が惑星の制圧に行こうとして警備が薄くなったタイミングで。
敵の狙いは最初からこれだったのだとこちらも気付いた。
だけど、だからといってその狙いを食い破ることは難しい。
多くの市民が暮らすことのできる惑星か、それとも敵の星に近い軍事基地か。
どちらを守るのかという判断で味方も割れている。
「基地周辺の戦闘艦と敵小規模艦隊が交戦中!小型艦が集中的に狙われており、すでに10隻以上が沈没したとのことです!」
「「「「なっ!?」」」」
更なる報告が。
小規模艦隊に、10隻以上もやられるなんて信じられない。惑星も基地も再建にはかなりの時間が必要となる状況にまでなっており、こちらの損害は計り知れない。
だからこそこれ以上の被害を受けないために、
「我らは基地へと向かう!一度横に抜けるぞ!」
「「「「はっ!」」」」
艦長は基地を守る指示を出した。
前方にいる味方も混乱していて前に抜けることは難しいためどちらかと言えば味方の壁が薄い横側に抜けようと判断したらしい。
そうして抜けようと艦体を動かそうとして、
「っ!?て、敵襲です!」
「何!?」
急な敵襲。
それも、味方が大勢いるこの集団のど真ん中での敵襲だ。
それすら信じられないことだというのに、
「敵の詳細は!」
「……せ、戦闘機体です!敵戦闘機体7機が、こちらへ攻撃を仕掛けてきています!」
「なっ!?戦闘機体だと!?そんなモノで何ができるというのだ!」
こちらは中型艦。戦闘機体程度にやられるはずがない。何を敵は考えているのか。
……なんて、思っていた。
「シ、シールドが急激に減少しています!」
「何だと!?敵はシールド専用装備だというのか!?」
シールドを減衰させるための装備は確かにある。だが、そんなモノ普通は使わない。
なぜなら、
「敵機体、我が艦に張り付いたまま離れません!相当な手練れです!!」
そう言った装備は近接武器となり、敵に近づかなければならないからだ。
敵に近づき、しかも張り付いたままシールドを削れるほどの腕を持つ者なんてそう多くはない。
「ぬぅ!そんな敵がいたとは……仕方がない!こちらも戦闘機体を出すぞ!急げ!」
急いで戦闘機体が出られるようにする。
きっと出る頃には完全にシールドが突破されているだろうけど、装甲でもある程度保てるから時間的には問題無いはずだ。
……なんて、思っていたけど、
「姿勢制御装置。及びエンジンが破壊されました!」
「ぐぅ!おのれぇ!こちらの戦闘機体はまだか!」
「もう少しです!もう少しで…………あっ!?て、敵機体、離れていきます!どうやら撤退するようです!」
「「「「なっ!?」」」」
シールドまで破壊して、ここまで追い詰めたというのに。敵は追い打ちをかけてくることは無かった。
姿勢制御装置とエンジンという2つの移動のための要だけを破壊して、離れて行ってしまったのだ。
おそらくこれは撤退などではなく、
「最初から、この船の足を奪うことが目的だったか!」
艦長が悔しげに顔をしかめる。
俺たちは結局、敵に踊らされただけだった。急いで出てきた味方の戦闘機体が、何をしたらいいのか分からないといった様子で船の周りを漂っている。
なんとも、なんとも惨めな光景だった。
「……本部に、救助要請を」
「…………はっ」
艦長の指示で、本部に回収用の船を送ってもらうことにする。
恥をさらすようなことではあるが、どうしようもできないのだからそうするしかない。同じ船に乗る仲間達は、戦闘機体にやられるような惨めなものたちとなるのかとひどく落ち込む様子を見せていた。勿論俺もだ。
……が、報告を入れると予想外の反応が来た。
そこに驚きや侮辱といったモノは無く、
『……あぁ。またですか。現在多くの戦闘艦が同じような状況に陥っておりまして、回収には時間が掛かる恐れがあります。ご了承ください』
「「「「……え?」」」」
敵は。俺たちだけなんていう甘い存在ではなく、圧倒的な力を持つ強者だった。
俺たちの船だけではなく、この戦場にいる多くの味方が同じようにやられていた。
「……敵が何枚も上手だった、か」
艦長の呟きが、呆然とする俺たちの耳に虚しく響いた。




