21.侵入されましたけど何か?
「ふぅ~。やっとつきましたわ」
「長かったですね」
「長距離の移動も何度目かですけど、全然慣れないですぅ」
女子3人組が見るからに疲れた表情をしている。前回の戦場に来たときは、もう少しやる気のある顔だったんだがな。逆に移動になれたのではないかと思うほどだ。
ぐだぁ~っとしているため今すぐ気合いを入れさせるのは難しいようにも見えるが、ここはやってもらわなければならない。
特にセシルは、
「隊長、基地へのご挨拶をお願いします」
「あっ。分かりましたわ」
基地の中の司令部と言った場所、そして、そこのお偉いさん方に挨拶をしていかなければならない。
そして、そこで挨拶をするのは当然副官である俺ではなく、隊長であるセシルだ。だからこそやる気を出してもらわなければ困るのだ。変に疲れた態度を出しているとそこを突っ込まれてしまう可能性もあるし。
本当に、管理職とか頭を使う機会が減る立場とかになると嫌みったらしいのは何なんだろうな?あのムダなマウントをとる行為とか。
……まあ、本部で俺にあまあまになってるじいさん連中はそんなことは一切ないがな。その嫌みったらしいところがなくなって人徳を得ているからこそ、本部で生きていけるのかもしれない。
「中佐?行きませんの?」
おっと、面倒な連中のことを思い出していたらセシルに不思議な顔をされてしまった。いかんな。しっかりと平常心で取り組まねば。
俺はセシルと共に船を下り、挨拶回りをしていく。因みにダリヤも同行しているぞ。
お陰で、出迎えの人数が多いこと多いこと。王族の対応にしては少ない部類かもしれないが、軍でこれはあまり良くないよなぁ、
というか、セシルとの差もありすぎるような気がする。セシルも王子に嫌われた立場でそういう対応をされなかったはずなのに、同じく嫌われているダリヤにそういう対応がないのはなぜなのやら。
……あっ。答えはおそらく王子には好かれてなくても王には好かれているからだと思うぞ。
「……では、今回の作戦の説明を行なう」
挨拶回りが終わった段階で、基地のトップである司令官から再度作戦の説明を受ける。特に目新しい情報はない。というより、事前に送られてきていた資料の方が分かりやすい。そして、質問をしてもいちいち部下に確認を取らせているから大して自分も分かっていないのが丸わかり。
……頭が痛い。前回はここまでひどくなかった気がするんだがな。セシルもちょっと首をかしげているぞ。
もしかしてアレか?王族であるダリヤが来るからその準備に追われて台本の準備があまりできなかったとかか?それなら納得はできるが。
なんて思っていたら、
「……っ!報告しますっ!」
突然1人の兵士が会議室に入り込んできた。すぐに警護のものがセシルやダリヤの周りで警戒する素振りを見せる。
が、その様子を確認すらせず兵士は、
「て、敵軍!こちらへ侵攻してきました!!」
「「「「なっ!?」」」」
報告に反応して上がる驚きの声。セシルやダリヤも驚いている。そして、その視線は俺に向けられた。
俺が、事前に用意されていた計画のようにはいかないと言っていたからだろうな、あと、俺が大して驚いていないのも他のと違いが際立って目を引くのかもしれない。
実際、俺はこれも想定していた。
だから、
「隊長。ダリヤ様。移動します」
「え?あ、はい!」
「わ、分かりました!」
迅速な行動ができる。2人とその護衛を後ろについてこさせながら、俺は移動を開始した。
理由は簡単だ。
俺が魔力を使って空気の流れを読む限り、敵だと思われる存在がすでに基地に乗り込んで会議室に向かってきていた。だから、会議室にいては危険だった。
……というのは、方便である。
実際は、この基地内であれば俺1人で敵くらい殲滅できる。空気の使えるこの空間において、何の対策もしていない愚かな敵を空気の槍で突き刺すことは簡単だからな。
だが、俺としてはここの司令官が邪魔だったんだ。だから、2人を逃がすというのを言い訳にして見殺しにさせてもらう。
「中佐!どこへ向かいますの!」
「すでに艦隊のほとんどの船は周囲から脱出させています。ですので、予備船を使う予定です!」
「予備船!?」
「よ、予備船って、あの?」
セシル達が目を見開いて驚いている。
予備船ってかなり有名なものなんだよな。移転まで軍関係にほとんど関わってこなかったであろうダリヤまで知っているものなのだから。
……ただ、残念なことにその有名さは良い方向ではないんだ。
予備船は、悪名高い、といっても良いほどのもの。
「ほ、本当にそんなものを使いますの?」
「ひどい性能だって聞きますけど、それで逃げられるんですか!?」
予備船は、性能がひどい。勝ち戦に予備船なしとまで言われるほどにひどい。
全てのスペックが著しく低く、これに載るくらいなら脱出ポッドに乗った方が遙かにマシと言われるレベルだ。だが、それでも俺はこれを選ぶ。
なにせ、
「これ以外の船への搭乗は不可能かと」




