18.戻ってきて捕まりましたけど何か?
船から送られてくる情報を見て時間を潰し、基地のある星まで戻ってきた。
それから船に乗って仕事に
「お前が奴隷を買ったのは分かってるんだ!」
「大人しく吐け!!」
「あの5人をどこにやった!」
仕事に行くことはなかった。
狭い部屋の中、俺はごつい大男数人に囲まれて尋問を受けている。
………………どうしてこうなっったああぁぁぁぁ!!!!!????と叫ぶことはない。理由なんて分かりきっているからな。
こいつら、俺が奴隷5人を購入したのを知ってたみたいでその場所を尋ねてきているんだ。奴隷達の中にスパイがいることは分かっているから、確保して敵派閥の弱みを握りたいという考えが透けて見える。
が、
「売ったぞ?」
「「「は?」」」
「だから、5人全員売り払ったぞ?タチバナ奴隷商会が中心部の販売しかできないから、俺が辺境の方に行って売り払ってるんだ」
「「「……はぁ?」」」
「その証拠に、もう奴隷の所有権は俺にないはずだぞ」
俺がそう言うと、やっと理解をした1人が他の1人に目配せをする。目配せをされた方はすぐに部屋を出て行き、1つの大きな機械を持って帰ってきた。
それは奴隷の所有権などの幾つかの個人情報を見ることができる機械。
その機械が俺に使われ、出てきた結果を見て、
「「「……マジか」」」」
「マジだよ」
俺には、本当に5人の所有権がない。ただ、こいつらには売ったと言っているがそれは当然嘘で、本当は所有権をシグマに移してある。この世界だとAIは基本的に作らないから、そういったことに対する防御性能は低いんだよな。シグマが本気で動けば宇宙全体とまでは行かなくても一帯の星域にいる奴隷の所有権を全てシグマに変えるくらいできそうだ。
「……因みに、売った相手は?」
「どっかの傭兵だ」
「……なるほど」
傭兵と言われると、足取りを追うことは難しい。何せ傭兵は数が多いからな。
傭兵というのは基本的に宙賊を狩ったり商船の護衛をするのが仕事で、宙賊が多いほどその数も多くなる。
辺境の宙域に行けば行くほど警備も行き届かなくなり宙賊の数も増えるから、傭兵の数も必然的に多いのだ。
そんなところで売ったと言われると、足取りは追えない。
「……タチバナ奴隷商会にはいくら入るんだ?」
「ん?あそこには1銭も入らないぞ?すでに奴隷の購入費用は払っているし、払う理由がない」
「それもそうか……」
向こうは、俺がそう言った儲けも納めることでタチバナ奴隷商会とズブズブの関係になっているんじゃないかと思っているようだ。……実際には、元オーナーの関係な上に恋愛関係まであるんだがな。
話を聞いた限りこいつらは王子派閥の人間みたいだが、随分とお粗末だ。あまりにも質が悪すぎる。
「で?俺はもう行って良いのか?」
「え?あ、うぅ~ん……まあ、良いか。足取りが追えないんじゃどうしようもないよな。行って良いぞ」
「分かった」
俺は相手の気が変わらないうちにさっさと部屋を出て荷物を回収して出て行く。
……しかし、王子の影響力は思ったよりも弱かったな。俺の予想だともっと上の立場の人間が出てくるかと思ったが、俺に絡んできたのは末端の兵士(宙軍とは違う地上での取り締まりを主としたタイプ)だった。
ゴロツキと変わらないような見た目と雰囲気だったし、仕事が終わったら用済みとして処理されるタイプだろう。そんなやつしか使わないのは変な気がするが……。
「あ、ゴトー中佐?」
考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声だ。
振り返ってその姿を確認して、
「む?………訓練生か。もう戻ってきていたのか」
「は、はい。実家もそこまで遠いわけではないで充分親孝行はできたと思うので」
「そうか。だが、休暇中は羽を休めておけ」
「は、はい」
訓練生。つまりフィネークは、少し迷うような素振りを見せつつも頷く。その様子からは、どこか気まずさを感じた。
おそらく、フィネークは俺がミミに連絡したときの姿を見て距離を測りかねてしまったのだろう。
時間があればその当たりのケアをしても良いのだが、
「あっ!中佐ぁぁぁ!!!!」
「おかえりなさぁぁい!!!」
「ほら!中佐!戻ってきたなら急いでください!時間は有限、休暇も有限なんですよ!」
部下に囲まれてしまった。
フィネークに構っていられない。これからこいつらに構ってやらないといけないからな。
「行くからそう急かすな。……では、訓練生。休暇を充分満喫してくれたまえ」
「は、はい!」
フィネークは、何かを決意したように先程とは違った声色で頷く。その瞳には俺と、俺にしなだれかかるようにしている部下達の姿が映されていた。
……ここからは色んな意味で大変だな。フィネークに構う余裕はない。
この数人を相手取らなければならないのだから。
「休暇はすぐに終わりそうだし、手加減はしないぞ?」
「「「「宜しくお願いします!!!」」」」
これから、眠れない夜が始まる。
翌日、数人の部下達は筋肉痛のためベッドから起き上がれない休暇を過ごすのだった。




