11.高級店ですが何か?
「とりあえず自己紹介をしてくれ」
購入予定の奴隷達を前に、俺はそう告げる。
奴隷達はそれぞれの顔を見て、誰から発言するかというのを決めようとしていた。その隙にそれとなくミミが俺の方へ書類を。
……何々?彼女たちの前職と基本的な情報について、か。これを見ながら自己紹介を聞けば良いわけだな。何やら面接で出しそうな書類だが、俺の求めた人材であるかどうかを確認するためには必要なものだろう。
「……さて、誰からも挨拶もないし、こちらから個別に質問しよう」
「「「「す、すみません」」」」
奴隷達は申し訳なさそうな顔(1㎜も表情筋が動いてないのも数人)で、謝ってくる。ここで自分たちの有能さを示しておかなきゃいけないところなのに、最初の挨拶で手間取っているんだからな。
「構わない。それよりも質問だそこの赤髪と紫と緑。前職は王宮勤めと言うことで間違いないか?」
「「「はい」」」
俺の質問に5人の内、呼びかけられた3人が頷く。
……そう。前職王宮勤めなのだ。3人の内2人が所謂メイドで、1人が料理人。
で、そんな3人が王宮勤めだとすると残りの2人はどこで働いていたかと言えば、
「残りは公爵家で働いていた、ということでいいな?」
「「はい。間違いありません」」
公爵家。それも、セシルの実家の公爵家で勤めていたものたちだ。
1人がメイド、1人が騎士をしていたらしい。……騎士と言えば多くの兵士(当然俺を含まない)の憧れなんだがな。それが奴隷落ちとはなんとも悲しいものがある。
そんな王宮や公爵家で勤めていた有能なのであろう彼女たち(全員女性)が奴隷にまでなった理由は、
「借金奴隷、とされた訳か」
「「「「はい……」」」」
全員なんとも言えない雰囲気で頷く。
エリートコースまっただ中と言っても良いような彼女たちが、借金が返せずに奴隷となったのだ。これは、何かあると考えて間違いない。
……というか、その裏にある何かのために俺は彼女たちを購入しようと決めたんだがな。
「……ふむ。まあ、良いんじゃないか?特に問題もなさげだし、予定通り全員購入で」
「OK!じゃあ、今から手続きとかしようか」
「了解」
書類を交わして(勿論電子書類)、5人の主人が俺であることを確定させる。ついでにその場で払える金額だったため、購入金額は全額払っておいた。
「はい。ありがとね。……5人いるとちょっと時間が掛かるから、その間お話でもしてようか」
「もちろんだ」
5人を購入した後も、色々とサポートがあるためすぐに連れて行くということはできない。
5人を待つ間、ミミとの雑談を楽しんだ。
主に雑談の内容は、近況や過去のこと。
「え?最近そんなに購入数多いのか?」
「そうなんだよぉ。需要が供給量を圧倒的に超えちゃってるんだよねぇ」
「それはかなりマズいな」
家に関わる人間が数人奴隷になってしまった王や公爵が奴隷を求めてくるらしい。一応ここって王室御用達な高級店でもあるから、位の高い客も結構多いんだよな。
そういう人の方がお金を大量において行ってくれるんだとか。
「因みに、5人を購入しようとしたやつはいたか?」
「あぁ。いたよ。5人とも何人か貴族が買いに来てた。派閥はバラバラだったけどね」
「ふ~ん。そうか」
買いに来たのはいたらしい。勿論俺が予約してるからってことで全員断ったみたいだが。
こういう所はありがたいよな。貴族とかの権力が来ても断れるって相当だからな。普通の平民じゃ無理だ。
そして、昔のミミでも。
ミミは昔を懐かしむように視線を斜め上に上げ、
「でも、懐かしいなぁ~、私も貴族に逆らえない時期があったねぇ」
「そうだな。貴族に配慮しまくってた時代が懐かしい」
王室御用達となれば発言権も出てくる。だが、それ以前はここも貴族にへりくだりまくりの店だった。……というか、どちらかと言えば豪商とかを客にして貴族が来ないように気を遣っていたくらいだ。
ミミは顔もスタイルも良い方だから、
「夜の相手に呼ばれたくないとわめいていたのも懐かしい」
「いや、ゴトーからすればそうかもしれないけどさぁ……これでも私の純潔は守ってきたんだよ?もうちょっと褒めてくれても良くない?」
努力が功を奏してか。
今まで1度もそういう貴族の相手をしたことはない。勿論、貴族以外の相手も、だ。本人としては、
「ちゃんと結婚してゴトーと添い遂げようと頑張ってるんだけど?」
「分かってるよ。……何番目になるか知らないけど」
「あぁ~。そこねぇ。仕方ないのは分かってるけどさ……皆ゴトーのこと好きだしね」
ミミは俺に好意を寄せている人間を数人知っている。
そして、もし結婚したとしても、その俺に好意を寄せている人間に身分が高いものがいるため、1番にはなれないことも。
「争うつもりはないけど、ちゃんと結婚しても私を気にかけてよね?」
「分かってる」
未来の俺も、そこに関しては大丈夫だろう。
………………たぶん。




