4.隊長がどこか行きましたけど何か?
「ワープアウト。第1目標へまもなく到達します」
パーティーから数日。つまり、セシルが俺たちの上司となってから数日。
俺たちは前線の近くまで到達していた。遠くに微かだがレーザーの光のようなものも見える。
「総員警戒に当たれ。いつでも戦闘態勢へ入れるようにしろ!」
「「「「イェッ、サー!!!」」」」
俺は部下に指示を出す。すぐに部下達は動き出して主砲の最終点検を行なったり、シールドの調整を行なったり。忙しく準備を始めていた。
「え?あっ。えっと……」
そんな中、セシルは何をすれば良いのか分からない様子で1人アワアワとしていた。船に乗っているセシルに悪役令嬢の雰囲気は全くなく、ポンコツなところと可愛いところをよく見る。これがポンコツ可愛いというやつだろうか。
もう少し眺めて癒やされたい気持ちもあるが残念ながらこれから命をかけに行くのである。そこまで気を緩めているわけにはいかない。
「もし隊長が実績を獲得次第ここからいなくなるのであれば指揮は小官に任せて頂いて構いません」
「そ、そうですの?」
「ええ。軍の指揮を学ぶことが貴族の淑女に必要だとも思えませんので」
というか、素人に指揮されると困るというのが本音だな。勿論傷つける可能性もあるからそんなことは言うつもりもないが。
貴族として生きていくのに軍のことで厳しいことを言ったところで意味が無い。それよりも、
「隊長はどのような実績を作るのか考えられましたか?」
実績を作り、今後どうやって生きていくかを考える方が大事だろう。
俺がそんな気持ちでセシルを見つめると、向こうは大きく頷いてから、
「……ええ。考えましたわ。ですので、今からそれを実践してきます」
「え?……あっ」
セシルは走り出した。護衛を突き飛ばし、どこか奥の方へ駆けていく。そっちの方にあるのは、
「大尉!接敵しました!!」
セシルのことを考えている余裕はないようだ。部下から報告が来る。後数秒もしなうちにお互い攻撃を仕掛けることになるだろう。
「もう接敵か?はぐれたやつが出たのか………まずは副砲を撃て!敵の解析もだ!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
部下達が慌ただしく動き出す。直後、俺の指示通り副砲からレーザーが発射された。敵艦のシールドに当たり、熱を持ったシールドが赤く輝く。
というか、目視できるほど近くまで来てたのか。
ここまで近づかないと探知できなかったのか?と思っていたところで丁度、
「解析終了しました!敵艦、最新型のステルス巡洋艦です!」
「最新型……ステルス性能が高い代わりにシールドが弱かったはずだ!主砲を打ち込め!!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
向こうからの攻撃も何度か飛んでくるが、大した威力も無い攻撃ばかりでシールドも問題なく動いている。自動修復の回復量の方が上という悲しい威力だな。
しかも、
「主砲直撃!敵艦機能停止!!!」
主砲の一撃でシールドは突破されて沈んでしまった。ステルス性能は高いらしいんだけどな。それ以外が残念な船だ。
とりあえず破壊もできたので乗組員を捕虜として捕まえよう、なんて考えたのだが、
「た、大尉!予定に無い戦闘機体が出撃しました!艦隊最高権限が使われた模様です!」
「……艦隊最高権限の使用。隊長か」
部下からの報告に俺は頭を押さえる。
だって艦隊の中で1番の権限を持つ者、つまりセシルが1人で勝手に戦闘機体を使って出撃したんだぞ。個人のひどく勝手な行動だ。正直予定に無い行動過ぎて、裏切り者として副砲で焼いても良いと思うくらいだ。流石に隊長なうえに貴族令嬢だからできないが。
だが、ここで何もしないわけにはいかない。セシルが動いたのは仕方が無いとして、他に動かれると困る。
「戦闘機体の出撃を一旦全て停止させろ!それと共に、出撃命令が出ている者以外の戦闘機体への搭乗を禁止。出撃の様子は全て録画し、勝手な行動をした者は違反者として本部へ報告して構わない!」
「「「イ、イェッ、サー!」」」
緊張した様子で艦内アナウンスを始める数人。こうすることで、セシルの護衛という役割を持っているものたちがセシルに続いて戦闘機体を使うことを禁止したのだ。無理矢理行く者もいる可能性があるので、録画して本部へ連絡するとまで伝えたわけだな。
ここで無理矢理乗ろうものなら、違反者として罰を受けてしまう。公爵家に雇われたものたちが罰を受けてしまうのだ。そうなれば、公爵家の名前に傷をつけかねない。護衛達はそれを感じて二の足を踏んでいるのだろう。
ただ、一部は、
「大尉殿!すぐに私たちに出撃許可を!」
「隊長が1人で出撃されているのに、どうして後続を出さないのですか!」
なんて面倒なことを言って詰め寄ってくる。俺は艦隊の指揮をしてるんだから邪魔しないで欲しいという気持ちなのだが、無視するわけにも行かない。
「却下だ。持ち場に戻りたまえ。あまり勝手な行動をするとここの映像も本部に送って精査してもらうことになるが」
「っ!……持ち場に戻ります」
持ち場を離れて指揮官に文句を言うなんて、確実に軍としてはアウトだからな。とても悔しそうな顔をしながらも護衛は帰って行ってくれた。
さて、予定外のことが起きてしまった。お嬢様のおもりもなかなか大変だな。
「これからどう動くべきか……」