6.破壊されましたけど何か?
要塞が逃げようとした味方を破壊したことにより、敵の動きが変わる。下手なことをして殺されるわけにはいかないと言わんばかりに、多くの艦が俺や俺の味方へ向けてできる限りの武装を使用し始めた。
……逆になんで今まで使ってこなかったのかと思うかもしれない。が、視界が塞がれることを恐れたのではないかと思われる。
あそこまで集団で密集して移動することになると、味方の位置はごま粒くらいではあるがギリギリ目視で確認できる程度となる。
そんな状態だとレーダーなどに頼って船同士の距離を調節するだけでなく、目視で距離を測ることも必要となるのだ。
下手に動くと事故になる可能性もある。レーザーなどは光が強いから、近くのものが見えなくなるリスクもあるわけだ。
それを警戒して控えていたというのに、無理に武装を使ってしまえば、
「敵大型艦と敵中型艦が接触!中型艦大破!大型艦も一部損傷しています!」
「そこへの攻撃は可能か?」
「可能です!」
「では、主砲をたたき込め!」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
俺たちの主砲の攻撃が、損傷を受けた敵の大型艦にたたき込まれる。直後、ちょっとした爆発で周りを巻き込みながら、大型艦は宇宙のチリと化した。
これにより動揺が生まれるかと思ったが、それよりも視界が塞がって操縦が困難になっていることに意識が向いているようで、あまり俺たちへの対応が変わったりはしなかった。俺たちは味方の船と共に物陰に隠れつつ、事故で損傷した船が出てきてはそれを叩いていく。
「……順調ではありますわね」
「です、ね?」
セシルの呟きに、ダリヤが首をかしげつつ頷く。ダリヤとしては順調と言って良いのか微妙なところなのだろう。
計画では電撃戦だとして速さが肝心だとか言っていた割に、現在敵の自滅を待つという時間の掛かる選択をしているんだから。
「こんなに時間をかけて大丈夫なんですか?」
ダリヤが心配そうな顔をして俺に尋ねてくる。計画とあまりにも違う状況になってると不安になるよな。
大丈夫だと断言はできないが、
「当初の予定では敵本体にこの艦が接舷し、私が乗り込んで白兵戦を仕掛ける計画でした」
「ですよね。全くそんな雰囲気にならないのでどうしたのかと思ってたんですけど……」
「はい。しかし、敵本体が予想以上に弱かったため白兵戦を仕掛ける必要性はないと判断し、無力化のみを行ない本体ごと制圧する計画に切り替えております」
「あっ!そうだったんですか!?」
当初の計画よりかなり安全性が増した。ただ、このまま順調にいったとしても予定より時間は掛かりそうだが。
しかし、今の状況ならそれでも構わない。
「このペースでしたら敵の援軍が来るよりも先に全滅と無力化をさせることが可能だと思われます。ですので、敵艦を全滅させて安全を確保した後に敵本体の武装を破壊して、敵本体を鹵獲するつもりです」
「な、なるほど」
敵の船もかなり数は減っていて、すでに数の有利なんていうものはほとんどなくなっている。勿論要塞からの攻撃が向こうにはあるからそこでは差があるのだが、
「敵本体、固定砲台と大して変わりませんわね」
セシルが呟く。
宇宙に浮く固定砲台とはなんと使いづらいものだろうか。敵の攻撃を躱すことができないのならば、ただの的にしかならないからな。シールドこそ張っているが、俺たちの船の主砲なら無理矢理こじ開けて武装まで攻撃を届かせることが可能だ。
そして、そんな俺たちに当然敵は警戒をして、早急に叩き潰そうとするのだが、
「敵艦、ほとんど近づいてきませんわね」
要塞の周りの船は俺たちに近づいてこない。攻撃こそしてくるが、決して俺たちに狙われないようにしているな。
要塞も数の差がなくなった所為で迂闊に味方を撃てないし、関係がギクシャクしているように見える。
……まあ、最初からあまり仲は良くなかったような気もするが。
そんな状態で数十分。
俺たちを警戒している間に味方の中型艦や小型艦が敵の隙を突いて攻撃して数の差を逆転させ、すでに敵を要塞だけにしていた。
後は要塞の武装を破壊していく作業なのだが、
「では、ダリヤ様にここは練習をして頂くということで」
「は、はい!頑張ります!!」
緊張しながらも頷くダリヤ。
数秒後、数機の戦闘機体が俺たちの船から飛び出し、敵の要塞へと迫っていく。シールドへダメージを与えることに特化した武器を幾つか仕入れておいたので、それを使って要塞のシールドに大ダメージ。みるみるうちに要塞のシールドが弱っていくのが分かる。
が、
「「「「あっ」」」」
俺はギリギリ声を抑えたが、同じ部屋にいた部下やセシルといったものたちの口から声が漏れる。
要塞の攻撃により、戦闘機体が1つあっけなく破壊されたのだ。
戦闘機体には大したシールド機能もないし、要塞のレーザー砲なんてかすっただけでも大破することになるだろう。避けきれなかったら破壊されるのは当然のことだ。
こうして、ダリヤの操作する戦闘機体はあっけなく破壊されてしまったのである。
失われたものは、もう二度と戻ってこない。