3.悪夢みたいな出来事ですけど何か?
敵視点です。
《sideとある国の一般兵》
最初この戦場に配属されるって分かったときは、正直目茶苦茶当たりだと思った。結果出して昇格って言うルートは難しいが、大した危険もなく軍歴を重ねることができる。
配属された後も、思ってたほどの快適さはなかったが悪くはない場所だって思えた。
敵軍と戦うことはあったが、せいぜい一当て二当てする程度。命の危険なんて全くなく過ごしていけた。給料も少なくない額が入ってて、数ヶ月に1度の休みでは数ヶ月分お給料を全て使って遊び回った。そんな日々も、悪くなかった。というか、休日は最高だった。
だけど、だけどそんな日々は終わりを迎える。
「司令艦(主人公が要塞と表現する物)が攻撃されています!」
それを聞いたときには耳を疑った。そして、映像を見たときには自分の目を疑った。
なにせ、大型艦と中型艦のたった2隻で俺たちの本部にまで突撃してきて、周りの船には目もくれず明らかに破壊など無理だろうと分かる大きさと武装の司令艦に攻撃を仕掛けてきたんだから。
とりあえず司令艦は離れ、俺たちの船が2隻を取り囲んでいく。そして、囲んで一斉放射したら終わりだ。
……終わりの、はずだった。
だが、そんな俺たちの考えは、1隻の味方の小型艦と共に吹き飛ばされた。いや、吹き飛ばされるでは収まらず、消し飛ばされた。
この長いこと被害という被害のなかったような戦場で、始めて死者と大きな損害が出たのだ。
そんな初めての衝撃的な出来事に俺たちが固まる中、敵の船は悠々と包囲を突破していった。何隻かはどうにか理性を保ちその背を追いかけようとするが、混乱する俺たちの船が集まる中で衝突しそうになったりして足止めをくらう。
結局、追いかけていく頃にはかなりの距離を開けられていた。
たった2隻の戦闘艦に、こんなに数のいる俺たちは翻弄されてしまったのだ。
「敵艦!小惑星帯を通過していきます!」
「くっ!面倒なルートを!」
艦長が顔をゆがめる。
敵艦の人間は、非常に優秀なようだった。大勢で通ることのできないルートを選択し、足の速い連中に追いかけさせれば、
「て、敵主砲により、小型艦2隻が破壊されました!」
「なぁっ!?」
開いた口が塞がらない。俺も、艦長も、同僚のクルー達も、そして、他の船に乗る味方達も全員、完全に翻弄されていた。
そして、いつの間にか数隻の船が動かなくなっているという連絡が入ってくる。どうやら敵の戦闘機体にやられたらしい。戦闘機体で船を堕とすなんて言う話もないわけではないが、そんなことをできるのは英雄と呼ばれる選ばれたものたち。
「い、いったい敵はどんな化け物なんだ!」
艦長が叫ぶ。普段こんな姿を見れば艦長としての才覚を疑うところだが。このときばかりは俺たちもその思いに共感するばかりだった。
結局数隻の小型艦が消滅し、何隻かの船が動かなくなり、被害で言えば大型艦と中型艦の2隻を沈めたところで埋められないほどの被害が出てしまった。
大打撃で、敵に良いようにされた、と思っていた。なぜか、無意識に、これで敵の攻撃は終わりだ、と思っていた。
だが、そんなことは無かった。
悪夢が、やってくる。
「て、敵大型艦、反転してこちらへと向かってきます!」
「「「な、何ぃ!?」」」
正常な判断ができれば、ここで相手を迎え撃とうとするだろう。
だが、もうこのときの俺たちに正常な判断なんてできない。俺たちの心は一方的に振り回され、圧倒的な戦力差でも翻弄されたという恐怖で支配され、
「は、反転しろ!逃げるぞ!」
「りょ、了解!」
艦長の悲鳴のような指示が飛ぶ。操縦者達がそれに泣きそうになりながら頷き、船を反転させようとする。
だが、そう簡単にはいかない。
何せ、俺たちは数が多いのだ。周りには船が固まっていて、反転しても、
「う、後ろが詰まっていて逃げられません!」
「えぇい!面倒な!この際単独行動でも構わん!単騎で逃げられるルートでも進め!」
「りょ、了解!」
直後、強力なGがかかる。俺たちの船は他の味方の船から離れ、敵艦から逃げていく。
情けない限りだが、直後味方達のいる方から白い光が溢れ、判断が間違っていなかったことを悟る。
「あ、悪魔だ」
《とある国の一般兵 その2》
味方の船が逃げていったりしているが、そんな中でも俺たちの船は敵に対抗しようとしていた。
これでもここの艦長はカリスマのある有能な人。周りの優秀な艦長とも協力して、敵艦の迎撃を狙っていた。
「敵艦、射程圏内に入ります!」
レーダーを診てた仲間が、緊張で声を震わせながら叫ぶ。
俺たちにも緊張が走る中、艦長が威厳のある落ち着いた声で、
「攻撃用意」
命令を出す。
これで俺たちの心も若干落ち着きが出て、小刻みに震えていた照準もとまる。
「……3,2,1.発射!」
味方の船とタイミングを合わせ、飛んでくる敵艦に向けて主砲を放つ。
ドォォォンッ!というすさまじい爆音が宇宙でなければ響いていたであろう光景を見ながら、俺たちは作戦が成功したことを感じ取った。あそこまで大規模な爆発が起こったのに、倒せていないわけがないだろう。
そうして喜んでいる間に、気がつくこともできず爆発を突き抜けて飛来する太い光に飲み込まれた。




