3.地上特化殺戮兵器ですけど何か?
「……それで、隊長は実績を出したいと言うことでしたが具体的にどのような実績を出すおつもりですか?」
俺はこのまま雑談しても良かったのだが、どれほど長い付き合いになるかも分からないので考え直し、堅い話だけすることに。
「え?……えっと、どのようなというのは?」
セシルはかわいらしく首をかしげる。
悪役令嬢だと見て分かるようなほど伸ばしていた金髪は現在短く切られており、化粧もかなり薄いため、かわいらしいという印象を受けた。
「隊長は軍にどのような実績があるかはご存じで?」
「え、ええと……ただ前線に出て戦えば良いのではなくて?」
理解していないということが理解できた。軍で実績を上げようとか考えてるのに、どうすれば具体的に実績が上げられるのかは知らないんだな。
「どこをどう実績というのかは難しいですが、華々しい実績としては勲章を受け取るのが1つの手段です」
「勲章を?」
「はい。勲章を得る方法はご存じで?」
「……敵を沢山倒す?」
なんとも評価しづらい返答が帰ってきた。確かにそういう方法で勲章をもらうこともできるが、もう少し具体的に条件を出して欲しいところだ。
知らないのだろうし、解説することにしよう。
「敵を倒すにしても、短期間に何人倒すや艦隊を指揮して何人を倒す、単機で何人を倒すなど、様々あるのです。しかも、仲間を何人救ったなどのような条件で勲章を得られる場合もありますし」
「そ、そうなのですか?……全く知りませんでしたわ」
「そうですか。……その辺りも調べて、ご自身がどのような方向性で実績を上げたいのかもお考え下さい」
「は、はい。そう致しますわ」
緊張した面持ちでセシルは頷く。到着する前には正式な方針を決めて欲しいところだな。一応セシルがバカなことをやったときのために、前線に着いた辺りからの会話は録音しておくことにしよう。そうしておけば、セシルだけで無く護衛の面々が何かやったときにも使えるだろうし。
「……因みにですけど、大尉はどのような勲章をお持ちなのですか?」
俺が前線に着いた後の予定を立てていると、セシルからそんな質問が。セシルの視線は、俺の軍服につけられた幾つかの金属板とその装飾に向けられていた。
「そうですね。1つ1つを細かく説明していると時間が掛かりそうなので等級が高いものだけ説明しますが……まずこれですね」
俺がそう言って指さすのは、銀色のメダル。
「彫られているのは獅子ですの?」
「はい。これは船を指揮して一度の戦いで1000以上の命を奪ったモノに贈られる勲章です」
「……1000?100ではなく?」
「はい。1000です」
セシルの表情は驚きで固まっている。
……本当にあのときの戦いは激しかった。俺の乗っていた大型艦で、小型の戦闘機に乗った敵を虫をたたき落とすかのように倒していったのが懐かしい。
「因みに船を指揮してとおっしゃっていましたが、何隻ほど?」
「ああ。一隻ですよ。といいますか、この勲章は1隻で1000以上の命を奪うのが条件ですので。……すみません。上手く伝えられ無かったようで」
「いえいえ。大丈夫です……けど、私にそのようなことができますでしょうか?」
不安そうな顔で俺を見てくるセシル。
だが、その答えは当然ノーだな。戦場に出た経験の無いご令嬢がいきなりそんなに活躍できるとは思えない。とはいえそれをそのまま直球で言えるわけも無く、
「ここまでする必要はありません。少しランクは落ちますが、一隻で100人だったとしても勲章は貰えますので」
「そ、そうですの。それなら良かったですわ。……では、私は考えますので!失礼しますわ!」
「はい。ゆっくりお考え下さい」
セシルは去って行く、どんな実績を作るかじっくり検討するのだろう。そんな背中を見ながら思う。
教えてほしいと言われたけど、結局1つしか勲章教えていないでは無いかと。
「隊長。ドンマイですね。地上特化殺戮兵器の二つ名の由来が話せなくて」
かなり長い付き合いのある部下からそんな言葉がかけられる。俺はその二つ名はあまり気に入ってないんだけどな。地上特化殺戮兵器とか長すぎるだろ。
もうちょっと、暴風狼とか短くて子供が憧れるような二つ名は無かったんだろうかって感じだ。
「……小官はすでに隊長ではなく副官だ」
ただ、二つ名には触れずに俺はその部分を否定しておく。二つ名に関しては、触れられれば触れられるほど傷をえぐられたりするからな。
「そうでしたねぇ。申し訳ありません。地上特化殺戮兵器大尉殿~」
「小官に地上戦を挑みたいようだな?」
「ひっ!じょ、冗談ですよ~」
失礼しま~す。と言って俺から逃げていく部下。
俺はその背中を見て小さくため息を吐き出す。俺が地上特化殺戮兵器と呼ばれる由来を思い出して。俺が、とある惑星で1万以上の命を奪ったときのことを思い出して。