33.理解していて勘違いされてますけど何か?
「……何をやっているんだ?」
困惑する俺。その目の前には、1人の少女が立っていた。
……いや。すまん。間違えた。立っていないな。倒れていた。少し前に見覚えのある光景だが、
「ふ、ふく、たいちょ……」
「立てないのか?」
「む、り」
「……そうか。とりあえず水とタオルを持ってこよう」
倒れていたのはフィネークだ。なんで朝立てなくなったのを学んでいないのだろうか。というか、間隔を詰めすぎじゃ無いか?そんなに疲れるのを繰り返してたら流石に体に悪いと思うぞ。
せめて俺みたいに軽くこなせるようになってからやるものだろう。
少々呆れつつも俺は水を浮かせて運び、フィネークに持って行ってやる。それと共に、汗を拭くタオルもな。
「あ、ありが、と、ござま」
「構わないが……次からは気をつけるように」
「は、い」
ぐったりとしながら頷くフィネーク。それを横目で見ながら、俺のトレーニングを開始した。
……そして開始から10分ほど経ったのだが、
じいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっ!!!
とても圧を感じる。なぜだか知らないが、隣から、厳密に言うと隣斜め下から非常に強い圧を感じる。なぜか知らないが、フィネークが俺をじっと見つめているのだ。
なんだか普通に狂気を感じるぞ。ただ、流石にトレーニング中に話をするわけにも行かないし、
「さぁ!もっとペースを上げろ!!」
「イェッ、サー!!」
「まだまだペースを上げられるだろう!!」
「イェッ、サー!!」
終わるまではトレーニングを続けるしか無いよな。
俺は少し申し訳なさを感じつつも、体を鍛えていくのであった。
「……よぉし!パーフェクトだ!」
「ありがとうございました!!」
数十分後、俺はどうにかトレーニングを終わらせる。
それから、フィネークを少し観察だ。俺が視線を向けたらフィネークが体をびくりと震わせたからな。もう少し時間をかけた方が良いと思ったのだ。
とりあえず先程渡した水は半分程度飲んでいるな。水分に関しては問題無いだろう。脱水症状で体調が悪化するということはないと思う。
タオルの方もかなり汗が染みこんでいるな。新しいタオルを用意すべきかとも一瞬考えたが、シャワーでも浴びせた方が良いかも知れない。
服の方は勿論汗でぐっしょりとしている。額もタオルで拭いたんだろうが、まだ汗がダラダラと流れているな。
さて、これくらい観察したし、話しかけるか。
「立てるか?」
「立てると思います。……けど、なんで話しかけるまで時間が掛かったんですか?」
まさかそんな質問をされるとは思わなかった。
理由なんて1つしかないんだが。……もしかして、俺が見とれていたなんて言うのを期待していたりするのか?それは無いからそんな期待はやめて欲しいのだが。
なんてな。流石にそんなわけ無いだろ。
「小官を警戒しているようだったため、何もしない時間を作り落ち着かせようと考えたことによる行動だ」
「あっ。そ、そうなんですね」
俺が説明すると、フィネークは納得。それに加えて、若干落胆したようにも見えるか?何か別のことを期待していたとでも言うのだろうか。
例えば、先程冗談で考えたように俺が見惚れることなど…………まさかな。
「さて。立てるのならば立ち上がるように。また肩を貸そう」
「あっ。ありがとうございます」
俺は肩を貸し、フィネークを立ち上がらせる。
ん?今一瞬、汗以外の匂いがしたな。この匂いは……そういうことか?いや、でもそれは、ちょろ過ぎるような……。
《sideフィネーク》
だ、だだだだだだだ、大丈夫かな!?バレてないかな!?
副隊長に肩を貸してもらっている間、私の胸はドキドキと激しくなる。私はそれを隠すように、触れあう副隊長から少しだけ離れるようにして歩く。
「む?その姿勢は大丈夫なのか?」
「だ。大丈夫です!」
変に離れた所為でおかしな姿勢になり、副隊長に心配されちゃった。私は慌てて誤魔化したけど、明らかに不審がられてるね。
でも、言えるわけ無いじゃん。
副隊長と一緒にいたいから、AIの副隊長に会うためにトレーニングをしてた、なんて。しかもその途中でAIの副隊長に頼んであんなことやこんなことをしてしまってた、なんて。
「訓練生」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「……本当に大丈夫なのか?シャワー室に着いたが」
「あ、ありがとうございます!大丈夫です!!」
私はお礼を言って、慌ててシャワー室に駆け込む。そして、汗とか色々なものを洗い流した。
うぅ~。バレてないか心配だなぁぁぁ。
《sideセシル》
あやしい。あやしいですわ。
最近。フィネークと大尉が一緒にトレーニングルームにいますの。あの中で何をしているのかは見ていないので分かりませんが、出てくるときには汗だくなのですわ。もしかしたらあの中で、フィネークは大人の階段を上っているのかも。
……うぅ~。気になりますわ。ひっじょ~に気になりますわ。でも、覗きはいけませんし。
大人しくしばらくは、2人の様子を観察するだけにとどめておきましょう。