32.嫌な予感がしましたけど何か?
「……疲れた」
昼過ぎにもかかわらず、俺はもうベッドに倒れ込む。だが仕方ないんだ。言い訳をさせてくれ。
まず、風呂に入ろうとしたら性癖のねじ曲がった部下たちが一緒に入ってきやがった。仕事中だから俺はひたすら我慢したが、部下たちは色々と誘ってきて色んな意味で疲れた。
しかもその後一応シャワー室を確認してみたらまだフィネークが誰の助けも借りられておらず、結局また俺が肩を貸して自室まで送ってやることに。何か良い雰囲気になりそうだったので急いで俺はフィネークの自室から脱出してきた。
「俺の心が安まらないな」
1番気になるのが、誰もフィネークに声をかけなかった点だ。あくまでも俺とのイベントであるという認識であれば納得できないことも無い。
が、あそこで別のキャラとの出会いもしくは絆を深めるイベントみたいになっても良いと思うんだ。肩を貸すときの対比のようになって、攻略対象の比較ができるだろう?
「俺が優位にならないように他の攻略対象、俺が無理矢理作るか?」
これも手ではあると思う。いないなら作ってしまえホトトギスというやつだ。ホトトギスでは無く攻略キャラだが。
イケメン軍人なんて探せばどこにでもいるし、確保もそこまで難しくは無いと思う。確保しやすいのには癖が強いイケメンな場合が多いが、攻略対象になるなら癖が強いのは何も問題無いだろう。
……ただ、それはフィネークという存在だけを見た場合の話なんだよな。あまり変なやつを入れて艦隊の空気が悪くなるのは個人的に困る、折角良い空気ができているというのにそれを壊してしまうのはな……
何か大きな不都合があるわけでもないし、下手なことをするとデメリットの方が大きいだろう。
「とはいえ、俺が選ばれるのもなぁ」
俺の悩みは多い。
シナリオを壊そうとした俺が、新しいシナリオに巻き込まれそうになり恐怖するって言うのも笑える話だな。
《sideとある公爵》
娘から連絡が来ていた。自身が達成した記録の映像を保管しておいて欲しいという言葉と共に、その映像が送られてきてな。
この映像も、あの世渡りの上手い小僧の指示だろう。娘ではこのような保険は考えつかんだろうが、あの小僧なら容易に思いつくと思う。
本来ならどこでもいい顔をするいけすかんやつは早々に処分してしまう所だが、やつが娘の、ひいては我が家の役に立っていることも事実。現に、
「報告致します。戦果を上げた王子殿下ですが、先程鑑定により偽物だと確認されたとのことです」
「そうか。引き続き情報を集めるように」
「了解致しました」
やつの計画に乗ったお陰で更にあの無能な王子の評判を下げることができた。正直評判を下げすぎて娘を婚約させるのが嫌になるが、そこは我慢するしかあるまい。家のためにもな。
あのバカ王子は自身が娘以上の戦果を出そうと奮闘したらしい。そのために自分が船に乗っているなどと言いながら実力のある影武者を前線へ向かわせて、戦果を上げさせた。それも、あの小僧に唆されて。
しかもその小僧の方はこちらへその情報を渡し、解決策まで用意してきた。王子が無能で無ければ引っかかることは無いという言葉と共に罠の張り方も教えられたな。今回名を落とすことになるだろう王子は、本当に無能だったと言うことになりそうだ。今回の件は話を広めて、王子の世間からの目を冷たいものとさせよう。評判もひどいものになるだろうな。
……ただ、本当にひどい場合には王になることもできない可能性があるのだけは難点であるな。適度な調整が必要だ。
「やつとの関わりも考えていかねばならんか」
王子に関してはバランスを取るのが大変だが、他にも問題はある。あの小僧は八方美人で気に入らんが、優秀なことは間違いないのだ。
できれば裏切ることもできないような状況にしてこちらに取り込んでしまいたい。
そういう意味では、娘を王子の婚約者にしてしまうのは少し考え直した方が良いかも知れないな。早々に表舞台に立てないようにして、娘をフリーにするのも良い。
そこからは色々できるが、小僧を娘の相手の1人にするのも良いかも知れんな。娘のような貴族が求婚すれば、一般人でしか無い小僧には断ることなどできないのだから。せいぜい娘の愛人枠に収めてしまえば良いだろう。
「平民への求婚における障害は……」
面倒な習慣が1つある。
ただ、今回の場合は関係ないだろう。あれは求婚した平民に婚約者か妻がいる場合に適用される習慣だからな。あの小僧は少し女性関係が乱れているようだが、その分婚約者や妻などはいないだろう。
「……せいぜい、我が家のために働くと良い」
《sideゴトー・アナベル》
「っ!」
俺はバッ!と体を起こす。寒気を感じたのだ。
今まで何か良い夢を見ていた気がするんだが、急に何か嫌な予感がしたな。折角ぐっすり眠れていたというのに、この感覚はなんだ?
「……とりあえず体動かすか」
嫌な予感がしたときには体を動かすに限る。嫌な事が起きたときにもそれを超える力さえ持っていればどうにかなるのだから。
なんて思いながら俺はトレーニングルームに入り、
「……何をやっているんだ?」
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今日も狂信!?教祖令嬢!! ~悪役令嬢?乙女ゲーム?それは、神より重要なのですか?~
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