30.攻略対象の仲間入りですけど何か?
「ゴトーく~ん。すぐに戻ってくるから待っててね~~~」
こちら経て大きく手を振って別れを惜しむ女性が1人。例の性癖こじらせた捕虜だ。俺も適当に手を振り返しながら、
「気長に待っておくが、本部に迷惑をかけないように」
と釘を指しておく。早く会わせろとかいって本国を困らせてもいけないからな。あそこは苦労人も多いし、できるだけ優しくしてあげて欲しい。貴族と軍の間に入って調整している奴らも多いし、取り調べ関連に関わってくる奴らは本当に苦労人が多いんだ。
俺もよく愚痴を聞くが、俺の連れてきた捕虜が素直に話をするときには本当に激しく感謝されるな。普段どれだけ苦労しているのかが分かるというものだ。
「はいはい。素直に話してできるだけスムーズに終わるようにするよ!」
そんな言葉と共に、捕虜は本国へ移動する船に乗り込んだ。きっとあの船の中でもう尋問が始まるんだろう。
俺は去って行く船を見ながら、これからのことに思いをはせた。
防衛をする間、暇だなぁ。とか考えたりな。
それから暫く宇宙を眺めた後、温かい飲み物でも買ってから船に戻ろうと思ったのだが、
「……なぁ。良いじゃねぇか」
「俺たちと楽しいことしようぜぇ」
「最高の気持ちを教えてやるよ」
「な?良いだろ?金もやるって」
「や、やめてください!」
何やらよろしくない言葉が聞こえてきたな。しかも、1人聞き覚えがある声な気がするる。
俺が少し面倒くささを感じつつも目線を向けると、そこには数人の男たちと1人の少女が。俺が聞き覚えがある声だと感じたのは少女の方だ。声を聞いただけの段階では間違いだと良いと思ったが、あの顔は間違いないな。
フィネークじゃねぇか。
…………はぁ。一応上司だしな。助けてやるか。
「おい。そこ、何をしている」
「あぁ?何だ?」
「お前には関係ないだろ?」
「関係ないやつが首つっこんでんじゃねぇよ」
柄が悪い奴らが多いな。不良上がりの軍人なんてよくあることだし、こういう輩がいるのも仕方の無いことではある。
だが、その態度は上官に対してどうかと思うんだよな。
そんな不満を感じる俺を見たフィネークがぱっと顔を輝かせて、
「副隊長!」
なんて呼んできた。
それを聞いた不良共の顔が一瞬にして変わる。俺が上官には見えなかったのだろう。全員顔を真っ青にさせ、体をガクガクブルブルさせながら、
「あっ、いえ!その、ち、違うんです!」
「す、すみません!」
「し、失礼します!!」
「「「「失礼します!!」」」」
早々に不良共は散っていった。
俺はその背中を見ながら「はぁ」とため息をつく。勿論、話しかけるときに映像を撮って顔は映してあったから、それを本部に送るのもセットだ。侮られるのは慣れてるからこの作業にも慣れていて、自然と操作ができるようになっているぞ。
目の前のフィネークも俺がそんな操作をしていることにすら意識がいっていないくらいには自然で、
「あ、ありがとうございました!副隊長!!」
「ああ。気にするな。……以後外出時は気をつけるように」
「は、はい!」
俺の言葉に頷くフィネークは笑みを輝かせていた。
うん。眩しい。流石に若いね。
……というか、この俺たちのやりとり、似たようなものを見たことか聞いたことがあるような気がするんだよな。何だったか?確か前世だった気がす、る……あっ。この会話ってアレじゃねぇか。攻略対象とのデートの時に偶にある不良に絡まれるイベントの時のやりとりに似てるじゃねぇか!
「あ、あの。良かったら船まで一緒に行って貰えないでしょうか?」
「……ふむ。いいだろう」
あああぁぁぁぁ!!!!!!!面倒なことになったぞ!!
このイベントが起きたって事は、もしかして俺のことが攻略対象として認識されたんじゃ無いか!?ゲーム通りには行かなかったから代わりの攻略対象が探されて、それに俺が抜擢された可能性がある。
……なんと言うことだ。その場合。フィネークの主人公としての妙な運命力に巻き込まれることになるぞ!それは絶対に避けたい!
俺のシナリオ脱却&国防の強化という目的に手が回らなくなるじゃないか!!新しいシナリオに巻き込まれるなんて、絶対にごめんだからな!!
「ふ、副隊長はこのしばらくの待機の間、何をされるんですか?」
「トレーニングだ」
「へぇ!……あ、あの、私もご一緒して良いですか?」
嫌だと言いたい。
なぜこのフィネークが俺にそこまで絡んでくるのか分からない。ただ、ゲーム内のフィネークも攻略対象に必要以上に絡んでたからな。攻略するキャラ以外は、思わせぶりな態度をしやがってと思うことだろう。
俺もフィネークの真意が分からないから、気持ちが傾かないようにしないとな。
「……構わないが、内容はハードだ」
「そうなんですね。……あ、あの~。手加減して頂いたりとかは」
「鍛錬は自身との戦いである。よって、小官が手加減する必要は無い」
「あっ。そ、そうですか……」




