29.防衛になるけど何か?
無人機生産基地は援軍に受け渡し、俺たちは一直線に拠点へ帰った。大仕事も片付けたし少し遊んで休もうと思っていたのだが、
「そこで止まれ!現在より本人確認を行なう!!」
なんだか聞き覚えのある台詞が耳に届いた。
それから始まる船員の鑑定。相変わらず船員の偽装を見抜くこともできずに鑑定は進んでいく。そして、セシルが本人であることも確認された。
随分とセシルの影武者捜しに焦っているようだな。
鑑定が終わった段階で俺は部下たちを遊びに行かせた。基地にもある程度遊ぶとことかはあるからな。……遊ぶといっても、三大欲求の1つを満たすものが主であるが。
睡眠欲を満たすには船のベッドで良いし(俺の艦隊のベッドは全て寝心地が良いのにしてある)、食欲を満たすには軍事基地だから厳しい(食料も重要な物資であるから配給品となる)。
となると、残ってる三大欲求と言えばアレだよな。……ここも値段は高いが、女性が好きな部下たちは楽しめるだろう。
一部の同性愛者とかは何か船の中でカップルになってるし、男性に恋愛感情を持つ女性の部下は、大抵性癖の歪んだ俺狙いの奴らだから、そういう方面で遊ぶのはできないだろうけどな。そこは自前で持ってきた諸々を使ってどうにかしてほしい。
で、部下たちは遊びに行かせたが、残念ながら俺が遊びに行くことは不可能である。なぜなら、
「……それでは、報告を聞かせてもらおう」
絶讃長官のじじいに報告をするからだ。追い落とされるのはなんとなく察しているようで、それを阻止するためなのか少し焦りがうかがえる。
「とりあえず予定通りに無人機を破壊。そして、それからその先を探索し、見つけた無人機生産基地を制圧しましたわ」
「うむ。生産基地の防衛も成功したと聞いている。これからの作戦で重要な拠点となるだろう」
じじいも流石にこの成果にいちゃもんをつけてくることは無いみたいだ。1艦隊が挙げる成果としてはかなりのものだからな。
セシルがどうなるかは分からないが、俺の昇進もあり得る。というか、セシルの実家からの諸々で確実に数段階昇進するだろう。
ただ、懸念があるとすれば俺の艦隊とセシルの実家の結びつきが強くなってしまうことだな。俺としてはある程度軍の中でも独立した地位を築いてるから、それを崩されると困る。
「今回の件で無人機の生産が可能になった。つまり、もう少し時間をかければあの方面の防衛力が上がるものと思われる」
ここまで聞いて、俺は何を言われるのか察しが付いた。この発言自体に問題はないが、また面倒なことに巻き込まれそうだな。
「であるからして、防衛力が強化され次第、こちらの戦力を集結させて敵側の領域に侵入し、攻勢を仕掛けたいと思う」
「なるほど。そこに私たちも参加して欲しいと言うことですわね」
セシルがそんなことを言う。確かに普通ならそう思うかもな。俺たちも艦隊だし、敵との撃ち合いも問題無く行なえる。
が、今回はそうでは無いな。じじいも首を振っていて、
「そうでは無い。そうでは無く、君たちには攻勢を仕掛ける間に防衛を行なって欲しいのだ」
「防衛、ですの?」
「うむ。ここで全ての艦隊を出してしまえば、もしここが攻撃された場合に対応できなくなってしまう。そこで、君たちの艦隊というわけだ。無人機生産基地の防衛を、1艦隊で4艦隊相手にして成功させたようだし、ここの防衛に適していると私は判断した」
上手く今回のことを利用して、俺たちを外に出さないようにしようと考えたわけだ。失敗を狙ったりセシルの命を危険にさらしたりするよりは、下手に動かさない方が得策だと考えたんだろう。
追い込むと逆に結果残してきそうで怖いって気持ちもあるのかもしれない。触らぬ神にたたりなし。触らぬ悪役令嬢に追い落とし無し。ってな、
まあ、もう触れてしまった時点で地位を堕とすのは確定しているんだがな。
「……防衛は構いませんが、物資の補給を要請します。特に機雷を全て使い切ってしまったものですので」
俺は話がまとまってしまう前に物資を要求しておく。暫く周辺にいて防衛をするのだから、物資は後回しで良いだろうなんて言うことを下が言いかねないからな。ここは上の立場にいる人間の言質を取って、下が騒げないようにしておきたい。
「うむ。良いだろう。今回使用した物資はすぐに補給できるようにしておく」
「はっ。ありがとうございます」
よっしゃ。言質取ったぜ。
これで最悪大量の敵軍に基地を攻められても機雷大量設置で対処できる。防衛時に基地との連携が上手くいかなくてもある程度適切な動きができるはずだ。
これでとりあえず俺が引き出しておきたいことは引き出せたと思ったが、
「それと、本国から連絡があった」
何やらまだ話があるようだ。
「そちらで確保したという捕虜に関しては、本国がいつも通りに扱うらしい」
「なるほど。では、こちらも手はず通りに進めておきます」
例の性癖こじらせた捕虜の話だった。いつもどおり、俺の従順な手駒になるために色々配慮が行なわれるんだろう。
教育では無く、配慮だ。




