28.変態が増えましたけど何か?
敵の大型艦への突撃後、これといって脅威になるような何かがあるわけでも無く俺は制圧を完了させた。
大したことは無かったな。なんか指揮官の人が俺を見た瞬間に告白してくるなんて言うことも大したことでは無かった。……うん。本当だ。
軍人としてはあり得ないようなことらしいが、俺はそこそこの頻度で経験する。
こういう奴らは知ってる情報を素直に吐いて俺の配下になりたがる変人だからな。裏切らないようにするために、軍本部から例外的に拷問を行なうことが許可された上で俺の船に乗せることになる。
「……私の性癖が詰まったスペシャルセット。ハァハァ」
「副隊長、本当に性癖に刺さりますよね。特にベッドの上での上目遣いが強烈で……」
「「「「良いですよねぇ」」」」
なんか早速、捕虜のはずの指揮官は馴染んでいた。俺が特殊な人々に刺さりやすい見た目をしていることは理解しているが、あんまり人のいるところでそういう話をしないで欲しいな。セシルやフィネークは顔を真っ赤にしてるぞ。
暫くそんな絶妙に俺にとっては気まずい空気が流れていたが、
「あっ。援軍が到着するようです。残党を討伐してから向かうとのことで、もう暫く基地の防衛は頼みたいと連絡が来ています」
救世主が現われた。
本当はもっと早く到着することができたはずなのに来なかった援軍だ。あいつら、きっと俺たちがこの艦隊同士の争いで死亡するのを望んでいたんだろうな。生き残ったとしても基地は守り切れないと考えていたのだろう。
まあ、結局逆に俺たちは4艦隊ほどの連合艦隊を1艦隊で倒して功績を挙げてしまったんだがな。この艦隊を、というよりセシルに被害を与えたかった誰かさんとしては痛い結果だろう。
援軍がセシルに関わる何かのために遅れてきたのは確かだ。
では、それを指示したのは誰か。
ここで候補は3つくらいに絞られる。
1つ、王子だな。セシルを1番蹴落としたいと思っているのはあいつだろうし、あいつなら何をやってもおかしくは無い。
ただ、あいつが詳しいこちらの行動を理解していたとも思えないし、具体的な行動を決めるのは司令部と言うことになるだろう。
で、それに関連するのが2つ目の候補。セシルに無人機の殲滅を頼んでいやがったじじいだ。見たときは王子と深い関わりがあるようにも見えなかったが、自分が命令したことで功績を立てられてしまうのも困ると考えたのかもしれない。
このじじいの場合は、自身でその命令を関わっていないとしても誰かからの命令を受けて行なった可能性はある。高確率で今回のことを利用して追い落とせるだろう。
そして最後は3つ目の候補。これは王子の取り巻き連中だ。
王子の取り巻きなのだから、今まで王子を支援してきている。あわよくばセシルの実家を追い落としてその地位を自身のものにせんと動いているものたちだ。そんな支援をしてきた奴らだから、セシルが功績を打ち立てることに関しては王子以上に焦っているかもしれない。自分たちが金をかけて色々計画してたことがおじゃんになりかねないからな。
3つの候補。誰でもあり得る話だ。
ただ、下に落とせるとしたらじじいだけだろうな。じじい以外は蜥蜴の尻尾切りでもして逃げるだろう。こちらとしても王子はもう少し利用したいからそれは問題無い、
じじいにだけ煮え湯を飲んでもらうことにしよう。
「隊長。今回の件、細かくご実家に報告した方が良いかと」
「え?そ、そうですの?」
「はい。この船のデータは消される可能性もありますので、功績を示したいのであればご実家でも保管しておく方が後のためになるかと」
「分かりましたわ」
今、司令部は敵のようなものだ。本部に連れ帰り次第この船のデータは観覧され、場合によっては削除されることになる。
セシルに功績を挙げさせたくは無いだろうからな。向こうに何かやられる前にこちらから動いてしまおうという考えだ。
軍事情報をそんな簡単に外部へ出しても良いのか?と思うかもしれないが、セシルという公爵令嬢が独断で行動したのなら問題はない。公爵令嬢という身分であれば、ある程度の機密情報も自由に扱えるのだから。
問題はそれを指示した俺だが、そこもちゃんと配慮はしてある。指示の内容は最低限の人間にしか聞こえないような声量にしたし、魔力を使って空気の動きを止め、マイクには声を拾えないようにした。
これでもしだれかが俺の指示だと言ったとしても確定はさせられないはずだ。
「さて、そろそろ援軍が敵艦を全て破壊し終わりそうですし、帰り支度を始めても良いのではないかと進言致します」
セシルから戦闘面の指示はある程度任せると言われているのだが、こういう細かい戦闘には直接的な関わりが無いところはセシルに回している。こう言うところで命令等の指揮の練習をさせているんだ。
「分かりましたわ。では、艦隊全体に移動可能なように準備するよう伝えて下さいまし」
「「「「イェッ、サー!!」」」」