27.久々の白兵戦
たまには主人公を活躍させようという作者の意図。
指揮を部下に任せ、ブリッジから離れて移動した俺。今はちょっとした専用のスーツを着て、なじみのある部屋にいた。
「……副隊長。久々ですね」
「そうだな。小官の腕がなまっていないことに期待しよう」
「はははっ。副隊長の腕が多少なまる程度では誰も勝てないと思いますが。……あっ。そろそろ衝突するようです。衝撃に備えてください」
俺は部下の言葉に従い、大人しく体をかがめる。
直後、ゴゴゴゴッ!と船内が激しく揺れ、俺の足元も不安定に感じられる。だが、俺の顔にも部下の顔にも、余裕のある表情が浮かんでいる。
なぜなら、
「副隊長。接舷成功したそうです。まもなくハッチが開きます」
「了解。行ってくる」
「はい。お気をつけて」
俺は駆け出す。それと同時に、前にあったハッチがゆっくりと開きだした。
このハッチは、船の外に出ることができるハッチだ。だが、俺がこれから行くのはある意味船の中である。ただし厳密に言えば、敵の大型艦の中、ではあるが。
オレ達の船は敵の突撃を避けるように動いた後、逆に敵の側面へ体当たりを行なった。それも、ただの体当たりでは無く、杭のようなものを敵の船に打ち込んで、その杭を使って敵の船に乗り込むということをするための体当たりを。
だからこそかなりの揺れを感じたわけだ。
で、そんな俺たちの体当たりは無事成功して、俺はその打ち込んだ杭の近くにあるハッチから船を出たわけだ。すぐにブースターを使って移動して、敵艦に乗り込む。後は、
「な、なんだっ!?」
「これは……レーザーじゃない!気をつけ、グバッ!?」
「何の攻撃だ!?おい!反撃をしろ!!」
次々と敵が倒れていく。俺の前に立ち塞がる奴らは大抵首を刈り飛ばされたり、頭が消滅したり。
それは、まさしく向こうにとっては地獄のような光景だろう。俺の姿を見ることもできずに切り飛ばされたのもかなりいるからな。
しかも、俺はかすり傷1つないし。……さぁ。久々に暴れるとするか。
[sideセシル]
「な、何ですの?これは……」
私はモニターに映る映像を見て呆然としておりますわ。隣に立っているフィネークも似たようなことになっておりますの。
大尉がどこかに行ったと思ったら敵艦に接舷し、何事かと思うような揺れが起こりましたわ。それで私が混乱する中、私と護衛とフィネーク以外は落ち着いてモニターを見ておりましたの。
そこに映っていたのは、高速で移動をしている大尉。そして、彼が移動する周りの敵艦の内部。
「て、敵があんなに簡単に」
「光属性を使ってもあそこまでは……というか、飛んでくるレーザーも全部それているんですけど!?」
私は力が抜けたように、フィネークは激しい気持ちをそのまま口に出したように、それぞれ驚きの言葉を発しましたわ。
そんな私たちを見て笑みを浮かべた部下の方が、
「大尉は白兵戦が非常に得意なんですよ」
「え?そうなんですの?」
「そうだったんですか!?」
驚きの内容が告げられましたわ。
まさか、あの大尉が白兵戦を得意としているなんて。大尉と今まで接してきた限り、作戦を考えたりするのが得意な方だと思っておりましたわ。あと、部下をまとめるのも。
でも、そんな大尉に個人技ができるなんて。
そんなことを思っている私に、
「隊長やフィネークは聞き覚えが無いかもしれませんが、護衛の方々は地上特化殺戮兵器をご存じないですか?」
「「「「地上特化殺戮兵器!?」」」」
驚いたのは護衛だけではありません。私もですわ。
聞いたことはあります。たった1人で惑星に降下し、1人で小惑星を完全に掌握したという伝説を。敵の居住惑星などがある場合には必ず降下して大戦果を上げるという噂ですわ。
「た、大尉が、地上特化殺戮兵器なんですの?」
「そう。副隊長が地上特化型殺戮兵器なんです」
そうなんですのね。大尉が、地上特化殺戮兵器……。
って、なんか地上特化殺戮兵器って言いにくいですわね。もうちょっと良い二つ名なかったんですの?
「副隊長は風属性なので、空気のある場所ですと非常に強いんです。風を作り出して自身の周りの摩擦を最大限なくして移動し、近くの敵は空気の流れで感知できます。しかも、空気を操ってはもののように投げ、遠くの敵に攻撃できますので……」
そういう説明を聞く間にも、大尉の前に立ち塞がろうとして敵軍の兵士が倒れていきましたわ。急所に一撃ですの。
しかも、遠くからかなりの人数で射撃を行なっているようですが、大尉にはかすりさえしていませんわ。
「な、なんで副隊長には攻撃が当たらないんですか?」
フィネークもそこが気になったようで、解説をして下さっている方に質問をしましたわ。
「ああ。あれは空気の密度を変えて光の屈折を起こしているんです。屈折した光は大尉からそれるようにして流れていきますので、副隊長にレーザーが当たることはありません」
闇属性でレーザーを吸収するよりも恐ろしい話を聞きましたわ。まさか、防ぐのでは無くそらすことができるなんて……
「これが、大尉の力なんですのね……」




