25.問題児の集まりですけど何か?
考えてみて欲しい。
君の直属の上司はプロジェクトで右に行けと行っている。
だが、その上司と同格の人がプロジェクトのリーダーで、左に行けと行っている。
君ならばどうするだろうか?
直属の上司には逆らえない。プロジェクトのリーダーなら、プロジェクトのことに関してはそちらに従う。自分が正しいと思った意見を言った方に従う。
どんな選び方をしても良いと思う。
ただ、1つ言えるとすれば、悩むよな。
「周りの中型艦は悩んでいるようだな」
「そうですね」
「決められませんよねぇ。特に今回の合同艦隊は、誰がトップなのか明確に決めてはいないでしょうし」
敵艦隊。セシルによって足を奪われた大型艦は、他の大型艦と言い争っているようだった。
そして、その周りの中型艦には混乱が見られる。
それは仕方の無いことなのだとは思うぞ。恐らく中型艦の上司は動けない大型艦にいるのだと思う。ただ今回幾つかの艦隊が合わさって行動している中では、1番足を引っ張っている存在だ。
大型艦がどんなことを言っているのかは分からないが、艦隊全体の意思に反しているのは確かだろう。ただ、軍人であるから上司に逆らうわけにもいかない。とはいえ国のためにならないことをするわけにもいかない。
だからこそ中型艦は困っているわけだ。
「せめて艦隊全体をまとめる人間を正式に決めていれば違ったんだろうがな」
「そうですね。言い争いになっている時点でお粗末と言いますか……」
大型艦が騒いで周りが混乱すると言うことは、指揮系統がしっかりしていないと言うことだ。優秀なものが1人いても無能が足を引っ張ってしまうのだから、こういう場合で指揮系統がまとまってないのは問題なんだよな。
まあ、指揮系統をしっかりさせても上が無能だとそれはそれでお粗末なわけだが。
「隊長たちは大型艦の周りで攻撃をして不安を煽ると言うことです」
「なるほど。……では、こちらも協力するから少し離れるように言ってくれ」
「分かりました」
足を引っ張る大型艦の周りをセシルは荒らしているらしい。モニターにもまた張り直されたシールドに向かって攻撃している映像が映っているな。
大したダメージにはならないが、シールドを吸収されたときの記憶がよみがえっていることだろう。それに加えて、
「……放て」
俺が指示すると、この船の主砲からレーザーが放たれる。
レーザーは大型艦のシールドに当たり、戦闘機体の攻撃など比にならないくらいのダメージを出している様子である。
そんなことをした結果か、
「あっ。大型艦を中型艦が牽引し始めましたね。こちらに向かってくる中型艦は8隻程度です」
「減ったな」
もう中型艦は1桁になってしまった。半分近く減ったぞ。
残ったのは大型艦の牽引をして安全圏に運ぶと共に、護衛に当たるらしい。相当大型艦の誰かがごねたんだろう。
予想外ではあったが、良い時間稼ぎをしてくれた。
「こちらの艦隊がああならないようにしなければならないという良い教訓になったな」
「そ、そうですね」
「そうですけど、副隊長の指示に逆らう人間はこの艦隊にほとんどいないと思いますよ」
「この艦隊、どれだけ副隊長への忠誠度が高いと思ってるんですか?」
俺の艦隊に足を引っ張るやつは少ないらしい。
まあ、元々俺が隊長をやってた艦隊で、色々と恩を売ったりしてきた奴らが多いからな。命を救ったことも勿論あったし、奴隷落ちしそうな所を助けたこともあったし、強姦魔に襲われそうになったところを助けたことも……うん。どこの主人公だよって言うくらいの救いようだな。
俺は主人公では無くシナリオの破壊者だというのに。
「今は問題無くとも、いつまでもこの艦隊が同じメンバーでいられるわけでは無い。常に新たな変化が起こる場合に備える必要がある」
「いや、まあ、そうなんですけど」
「この艦隊は上の人達もほとんど触らないと思いますよ」
「この艦隊、扱いにくい人達が集まってるんですから。誰も欲しくないですって」
うん。そうだよな。知ってた。
俺のこの艦隊、実を言うと問題児の集まりみたいなところが無いわけではない。敵の軍から寝返ったものたち(誰かさんの拷問により変な性癖が目覚めて)が多いし、他にもフィネークのように才能はあるが問題を抱えているものも多くいるし。しかも、優秀ではあるがセシルみたいに半分以上コネと我が儘で入ってきたやつもいるからな。
流石にセシルほど高位の貴族では無いが、男爵家の3女やら子爵家の5男やらいるんだよ。俺はほとんど自由に好きな部署で働かせているが、あいつら他の艦では扱いづらいだろうな……。
「副隊長。黄昏れている間に機雷でかなりの敵艦が沈んでますよ」
「む。そうか」
おっと。意識が逸れていた。今は敵艦隊との戦いに集中しなければ。
敵艦隊は部下が言うように、機雷の被害に遭ってかなりの数を減らしている。……だが、
「大型艦とは戦うことになりそうだな」
「ですね」




